VOGLIO CONDIVIDERE TUTTO すべてを共有したい II
ジュスティーノは黙ってイザイアの顔を見ていた。
しあわせそうだという表情を察することはできても、おなじしあわせな気分になることは彼にはない。もう充分に分かっている。
だがそれでも、ささやかな奇跡に感じる。
イザイアにおおいかぶさるようにして顔を見下ろすと、目が潤んで精悍な美貌がゆがむ。
「こんどは泣くのか。おもしろい方だ」
イザイアの肩に顔を埋めて、ジュスティーノは抱きしめた。
シャツを通してイザイアの体温がじわりと伝わる。
いまだ彼の香りよりも消毒用の酒の香りのほうが強い。
休暇を終えたら、やはり島に戻るのだろうか。
ここで泣きながらもう行かないでほしいと懇願するのは、彼にとっては理解しがたい鬱陶しい態度になるのか。
恋しくて失いたくないのだ。
今回のようなことがまたあったら、こんどこそ堪えられないと思う。
一つの体なら良いのにと思う。
自身の感情の世界を彼と共有したい。
「若様」
イザイアが髪をなでていた手を止める。
ジュスティーノの体を抱きかかえると、自身の体ごと大きく反転した。
男性二人の体の重みが加わり、ベッドがきしむ音を立てる。
イザイアはジュスティーノの上にのしかかり、耳たぶを食んだ。
ゾクッとした感覚にジュスティーノは身を縮める。
「じっと見つめて焦らすのがお好きか?」
「いや焦らしていたわけでは」
「ひどい方だ。こちらはこの体が恋しくて堪らなかったのに」
イザイアが耳元でささやく。
脳のなかまで愛撫されているような感覚を覚える。
ジュスティーノは、イザイアの肩に顔をよせた。イザイアのシャツから覗いた肩に口づける。
イザイアがおもしろがるように口の端を上げた。
「若様」
イザイアが淡々とした口調で尋ねる。
「お会いしていないあいだは、だれかべつの男と?」
「え……」
否定の言葉を口にするまえに、イザイアが喉元に口づける。
ジュスティーノは、息をつまらせて幅のひろい肩に爪を立てた。
「そんなわけが……」
「わたしは、いっこうに構わなかったのだが」
イザイアが首元に口づける。あとのことなどおかまいなしなのか、確実に跡がのこるであろうという感じに強く吸う。
ややしてから、軽く歯を立てられた気がした。
「失礼」
イザイアがそう言い、おなじ部分をチロリと舐める。
「では待っていてくださったのか、若様」
イザイアが首を舌で舐めあげる。
イザイアのすこし荒くなった吐息を感じた。さきほどよりも熱を持った唇から、ときおり歯牙が覗く感触を覚える。
自身がイザイアを食んで一つになってしまいたいと思った、それと同じ衝動を彼も感じているのか。
ジュスティーノは、イザイアの背中に手を回した。
自身よりも肌のかたい、成長しきった男性の背中。
「待っていろと伝言をよこしたではないか」
ジュスティーノは言った。
イザイアに肌を食まれる感触に酔う。
イザイアが、こんどははっきりと歯を立てた。
唇がすべるときよりも鮮明な感触を覚え、ジュスティーノは背中に回した手をゆらした。
「かわいらしい方だ。食べてしまいたい」
イザイアがクスクスと笑う。
「若様を食べたら、どんな味がするのか」
イザイアが自身のうすい唇を舐める。
「イザイア」
ジュスティーノは強く抱きしめた。
彼に食されて一つになりたい。
たとえつつしみのない声を部屋の外の者に聞かれたとしても、問題になどならない。
そうと当然のように思うほど、理性がかき消える。
運河に停められた小舟がぶつかり合う音と、櫂のこすれる音が遠い場所からの音のように耳にとどいた。




