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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
29.すべてを共有したい

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VOGLIO CONDIVIDERE TUTTO すべてを共有したい II

 ジュスティーノは黙ってイザイアの顔を見ていた。

 しあわせそうだという表情を察することはできても、おなじしあわせな気分になることは彼にはない。もう充分に分かっている。


 だがそれでも、ささやかな奇跡に感じる。


 イザイアにおおいかぶさるようにして顔を見下ろすと、目が(うる)んで精悍(せいかん)な美貌がゆがむ。

「こんどは泣くのか。おもしろい方だ」

 イザイアの肩に顔を埋めて、ジュスティーノは抱きしめた。

 シャツを通してイザイアの体温がじわりと伝わる。

 いまだ彼の香りよりも消毒用の酒の香りのほうが強い。


 休暇を終えたら、やはり島に戻るのだろうか。


 ここで泣きながらもう行かないでほしいと懇願するのは、彼にとっては理解しがたい鬱陶(うっとう)しい態度になるのか。

 恋しくて失いたくないのだ。

 今回のようなことがまたあったら、こんどこそ堪えられないと思う。

 

 

 一つの体なら良いのにと思う。

 自身の感情の世界を彼と共有したい。



「若様」

 イザイアが髪をなでていた手を止める。

 ジュスティーノの体を抱きかかえると、自身の体ごと大きく反転した。

 男性二人の体の重みが加わり、ベッドがきしむ音を立てる。

 イザイアはジュスティーノの上にのしかかり、耳たぶを食んだ。

 ゾクッとした感覚にジュスティーノは身を縮める。


「じっと見つめて焦らすのがお好きか?」

「いや焦らしていたわけでは」


「ひどい方だ。こちらはこの体が恋しくて堪らなかったのに」

 イザイアが耳元でささやく。

 脳のなかまで愛撫されているような感覚を覚える。

 ジュスティーノは、イザイアの肩に顔をよせた。イザイアのシャツから覗いた肩に口づける。

 イザイアがおもしろがるように口の端を上げた。


「若様」


 イザイアが淡々とした口調で尋ねる。

「お会いしていないあいだは、だれかべつの男と?」

「え……」

 否定の言葉を口にするまえに、イザイアが喉元(のどもと)に口づける。

 ジュスティーノは、息をつまらせて幅のひろい肩に爪を立てた。

「そんなわけが……」

「わたしは、いっこうに構わなかったのだが」

 イザイアが首元に口づける。あとのことなどおかまいなしなのか、確実に跡がのこるであろうという感じに強く吸う。 


 ややしてから、軽く歯を立てられた気がした。


「失礼」

 イザイアがそう言い、おなじ部分をチロリと舐める。

「では待っていてくださったのか、若様」

 イザイアが首を舌で舐めあげる。

 イザイアのすこし荒くなった吐息を感じた。さきほどよりも熱を持った唇から、ときおり歯牙が覗く感触を覚える。



 自身がイザイアを食んで一つになってしまいたいと思った、それと同じ衝動を彼も感じているのか。



 ジュスティーノは、イザイアの背中に手を回した。 

 自身よりも肌のかたい、成長しきった男性の背中。

「待っていろと伝言をよこしたではないか」

 ジュスティーノは言った。

 イザイアに肌を食まれる感触に酔う。

 イザイアが、こんどははっきりと歯を立てた。

 唇がすべるときよりも鮮明な感触を覚え、ジュスティーノは背中に回した手をゆらした。


「かわいらしい方だ。食べてしまいたい」


 イザイアがクスクスと笑う。

「若様を食べたら、どんな味がするのか」

 イザイアが自身のうすい唇を舐める。

「イザイア」

 ジュスティーノは強く抱きしめた。


 彼に食されて一つになりたい。


 たとえつつしみのない声を部屋の外の者に聞かれたとしても、問題になどならない。

 そうと当然のように思うほど、理性がかき消える。



 運河に停められた小舟がぶつかり合う音と、(かい)のこすれる音が遠い場所からの音のように耳にとどいた。





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