IL DESTINO È IN BALIA DEL VENTO 運命は風に翻弄され VI
「ジュスティーノ様! 何をやっているんですか!」
レナートが羽交い締めにして止めようとする。
「イザイアはいまどうしている!」
ジュスティーノはかまわず声を上げた。
こんな事態に慣れているのか、それともレナートに押さえつけられて銃の狙いがブレているせいなのか。エルモは落ち着いていた。
「あたしもよくは知らないんですよ。ご存知のとおり直接お会いしてるわけではないですから」
ジュスティーノは泣きそうになり目を眇めた。
「あのう……」
エルモがなだめるように苦笑いする。
「何でしたらピストイアの兄君にお聞きしては。たしかな知らせを受けとってるでしょうし、いまはすっかり顔見知りでしょ?」
「あの御仁がほんとうのことなど教えるわけがないだろう!」
ジュスティーノは声を張り上げた。
ようやく話の内容をつかんだのか、レナートが羽交い締めにした腕をゆらす。
「パガーニ家の兄君には、ついさきほどお会いしたさいに "だれも死んではいない” と言われたばかりだ」
レナートがそう補足する。
「あらら……」
エルモは両手を上げたまま苦笑した。
「若様の性格を読んだか。そうとうお嘆きでしょうに気遣いする方だな」
「嘆くわけがないだろう! イザイアをあんなところに送りだして!」
ジュスティーノは力づくで踠いてエルモに銃口を近づけた。
「注文はいつ途絶えた」
「言うな」
レナートがエルモに向けて言う。
「言う必要はない」
「言え!」
「ジュスティーノ様」
レナートが脇の下に入れた腕をグッと上げ、さらに力をこめて押さえこもうとする。
「こう言っては何ですが、いい機会では。医師殿のことは忘れてください」
「そんなことができるか!」
ジュスティーノは声を上げた。
嗚咽しそうになるのをムリやりおさえる。
「言え! 知っている限りのことでいい」
エルモは小さくため息をついた。
「……注文が途絶えたのは、二週間ほどまえで」
「助手は何か伝えてはこなかったのか」
ジュスティーノは銃口を向けたまま問うた。
「助手さんたちは単に医師と一商人のあいだがらとしか思ってないんじゃないですかね。旦那がとくに何も言わなければ、途絶える理由も予告もなしじゃないかと」
ジュスティーノはじっとエルモの顔を見た。
とりあえずは落ちついたと判断したのか、レナートが腕の力をゆるめる。
ジュスティーノはその腕を軽くふり払い、拳銃を丸テーブルの上に置いた。
「リヴォルノに行く」
「は?」
スタスタと応接室の出入口に向かうジュスティーノの背後で、レナートが声を上げる。
「いまからですか? やめてください!」
「エルモ」
ジュスティーノはふり返った。
「このあとリヴォルノに戻る予定だったのか?」
「ええまあ……」
エルモがようやく両手を降ろす。
「ちょうどいい。おまえの馬車に同乗する」
「行かせるわけがないでしょう!」
レナートが駆けより、背後から肩をつかむ。
ジュスティーノは頬を強ばらせた。
表情にも話し方にも抑揚がなくなっているのが自分で分かる。
イザイアに何があったのか。これ以上は考えたくなかった。
ともかくイザイアの近くに行けば、べつのいい情報が得られるのではという根拠のない考えだけで動いている。
「レナート、外出着の用意をしろ。それと」
ジュスティーノは応接室のドアを開けた。
「おまえには休暇を出す。実家に帰るなり好きな相手のところに行くなりゆっくりと過ごせ」
「そんな休暇など、とるわけがないでしょう!」
レナートは主人の肩を強く引いた。
ジュスティーノは半歩ほどうしろによろめいたが、足も思考ももはやリヴォルノにしか向いていない。
「港から助手宛に手紙を出す。彼がいまどうしているのか即刻伝えろと」
「いやそれなら、若様がしたためた手紙をあたしがあずかって港から渡せばすむのでは……」
エルモが困惑した表情で言う。
「それに若様」
エルモが真顔になり続ける。
「旦那の助手は、すでに一人ずつ島から帰ってるらしいです。これから行ってもだれも残ってないかもしれない」
ジュスティーノはドアを引いた手を止めた。
目を大きく見開き、応接室の外の廊下をじっと見つめる。
「こうなるともう、確実なのかなと」
「ペストでなのか」とジュスティーノは問おうとした。
だが喉がつまり声が掠れる。
言いたいことを察したかのようにエルモがさきに答えた。
「ペストではなく、ひどい過労のようだって渡し守に聞きました。だからあたしも、ありえるなと」




