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背徳 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
3.ソドムの御使い
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ANGELO DI SODOMA ソドムの御使い II

 金細工でかざられた廊下。

 かたむきかけた夕方の陽光が、窓からうっすらと射しこんでいる。

 イザイアが早足で廊下を歩きながらペストマスクとフードを外した。うしろからついてきた助手に、身につけていたものを手渡す。

 ジュスティーノは階段ホールの柱によりかかり、その様子をながめた。

 こちらを向いたイザイアと目が合う。


「私に何か手伝えることはあるか?」


 そう尋ねる。

 隔離されていた客室を引きつづき使うようすすめられたが、不安からか一人で部屋にいると落ちつかない。

「客人なのですから、お部屋でくつろいでくださってよろしいが」

 イザイアがそう答える。

 助手が廊下の向こうに立ち去る。

 あの助手はこのまえの娼婦なのだろうかと思いながら、ジュスティーノは目で追った。

「他人の屋敷では落ちつきませんか」

「縁もゆかりもない屋敷では。貴殿が悪いわけではないが」

「書斎の本を部屋に持ちこんでもかまいませんよ」

 イザイアはそう言い、うしろで結わえていた髪をほどいた。

 鉛色の長い髪を指で軽く()く。

「ああ……そうだな」

 ジュスティーノは社交辞令的にそう返した。

「私でも理解できる本があるなら」

「官能小説などもありますが」 

「……ふつうの本でけっこう」

 苦笑してそう返す。


 イザイアはこちらに近づくと、ジュスティーノの背中を押して食堂広間に促した。


 とりあえず茶にでも付き合ってくれるということか。

 逆に気を使わせたか。ジュスティーノはそう思った。

「聖書もいちおう置いていたはず」

 イザイアが背後で告げる。

「極端だな」

 ジュスティーノは苦笑した。

 イザイアが身をかがめてジュスティーノの耳元に顔をよせる。

 恋人の頬に接吻するような顔のよせ方だと思ったが、あり得ないだろうとジュスティーノは思った。


「 ”神は二人の御使いを送り、ソドムの街の状況を見極めようとした” 」


 耳元でイザイアがささやく。

 ややしてから、聖書を暗唱しているようだと気づいた。


「 “ロトは二人の御使いを歓待するが、ソドムの者たちはロトの家をとりかこみ御使いを差しだすよう要求した。「ここに連れだせ。われわれは彼らを知らなければならない」“ 」


 ジュスティーノはわずかに顔を横に動かしてイザイアのほうを見た。

「出逢ったときに言っていたのは、聖書の引用か?」

「旧約聖書ですよ。いい機会だからお勉強し直したらいい」

 イザイアが耳元から唇を離す。

「若様は少々無防備だな。旧約聖書の青年姿の御使いなら楽しいが、子供姿の天使ではあまり面白くない」

「……言っていることの意図がよく」

 そう言ったジュスティーノにはかまわず、イザイアは食堂広間につくとつかつかとまえを歩き長テーブルの横で「だれか」と声を上げた。

 廊下の向こうから小走りで駆けてくる靴音がする。

 食堂広間のもよりの場所に、待機している者がいるのか。

「何もせずにいられない(たち)ですか、若様」

 シャツの首の留具を外しながらイザイアが問う。

「まあ……ここで私にできることなど限られているとは思うが」

 ジュスティーノは苦笑した。


「わたしの助手でもやりますか?」


 イザイアが提案する。

「助手か……」

 ジュスティーノは思案した。

「私でもできるのなら」

「では明日の診察から」





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