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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
25.片翼で飛ぶ

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VOLA CON UNA SOLA ALA 片翼で飛ぶ II

 オルダーニ家滞在中にイザイアが使っていたベッド。

 ジュスティーノは目を覚ました。


 イザイアがいつもしていたように半分ほどだけひいた天蓋(てんがい)から透ける朝の陽光が、やわらかい。

 

 もう少しイザイアといっしょにいるかのような気分を味わって、うとうととしていたい。

 すぐに目を閉じた。

 掛布にくるまり、ごろんと寝返りを打つ。

 イザイアの残り香が、まだどこかに残っている気がした。

 あの長身で肩幅のひろいい体が、すぐそばにいるかのように想像できる。


「イザイア」


 まくらに顔を埋め、小声で呼んでみる。

 ここでまた二人ですごしたい。そのためなら大胆な仕事も折れずに果たせる。


 廊下のほうから、カツカツッと軽い靴音がした。

 二度ほど弱いノックの音がする。しばらく沈黙してから、ドアが開く音がした。


 レナートか、と思う。

 何だかんだと言って来たか。


 靴音が不規則な動きでベッドに近づき、ときおり途中で止まる。

 ベッドの足元のあたりで衣ずれの音がした。

 その場でモジモジと立ち止まっているようだ。

 ジュスティーノは、くるりと身体を反転させた。


「何だ、その起こし方は。いやがらせか」


 掛布を雑にどけて起き上がる。

 おおきくはだけて着ていた夜着を、片手でつまんで軽く直した。



「やっ……」



 ベッドの足元のあたり。

 レナートが立っているものと思っていた場所から、ソプラノのかわいらしい声が上がる。

 ジュスティーノは顔を上げた。


 そこにいたのはレナートではなく、顔を真っ赤にした小柄な女中だった。


 かわいらしい幼な顔。

 たしかクロエだったか。

 ジュスティーノはベッドに脚を投げだして座り、夜着の合わせを片手でつまんだまま動作を固まらせた。

 クロエはしばらく赤面して立ちすくんでいたが、やがて小振りの唇を開いた。


「お、起こしてこいと……従者のレナート坊っちゃまに」


 たしかに代わりを好きに選べとは言ったが。

 ジュスティーノは髪をかき上げた。

「それで……あの、坊っちゃま」

 クロエがうつむいて小振りの肩を硬直させる。

 何となく居心地が悪い。

 ジュスティーノは夜着の合わせを片手でもてあそんだ。

 何をこんな若い娘をよこしているのだ。


「着替えるので仕事に戻っていい。ご苦労だった」

「おゆるしください!」


 クロエがおおきな声でそう言い、ふかぶかとお辞儀をする。

「坊っちゃまは、ほんとうに、ほんとうに素敵なお方だと思います! でもわたし」

 ジュスティーノはとつぜんのことに驚いて、クロエの前髪のゆれるさまを凝視した。 

「す、好きな人がいて。あの」

 クロエがますますふかく頭を下げる。

「ですからこれ以上のお相手は、おゆるしください!」

 クロエが、じっと頭を下げたまま動かない。

 何が起こっているのだ。ジュスティーノは、ぼうぜんとクロエの組んだ小さな手を見つめた。


「ええと……」


 まだ閉められたままのカーテンが目に入る。

 とりあえずカーテンを開けてもらおうかと思ったが、優先順位がちがうだろうか。

 いったいレナートに何と言い含められてきたのか。

「……好きな相手とは、この屋敷内の者か?」

「わたしはおとがめでも何でもお受けしますので、その人はどうか!」

「いや……かまわないが」

 ジュスティーノは何となく夜着の合わせをまだつまんだまま、そう答えた。


 しあわせな気分で目覚めた直後のこの展開に、頭の対処が追いつかない。


「……何というか」

 ジュスティーノはベッドのヘッドボードに身体をあずけた。

「故郷には帰らないのか」

「あの……生家に帰っても食いぶちが増えちゃうだけなので、家族に迷惑がかかるというか」

 クロエが少し顔を上げて、苦笑いをする。

「そうか」

 こんなかわいらしい娘でも帰れば迷惑な家というのはあるのか。

「気をつかわせて悪かった。その者と仲よく」

 ジュスティーノは、ベッドから脚を投げだして靴を履いた。


「……あの、坊っちゃま」


 ホッとしたのか、クロエが無邪気な笑みを浮かべる。

「一つだけ、聞いてもよろしいでしょうか」

「何だ」



「ほかの女中さんたちが、坊っちゃまとあのお医者さまは、きっと恋仲なんだと言っていて」



 座って靴を履いた姿勢のままジュスティーノは固まった。

 表情を造るのも忘れてクロエの小柄な姿を見つめる。

「だ、だから、わたしがお相手とか逆に失礼なのではともあの」

 ジュスティーノは無言で視線を左右に動かした。


 レナート以外にはバレてはいないと思っていたのだが、いつからそんな話がされていたのだ。


 いやバレているわけではなく、ただ憶測(おくそく)で話しているだけかもしれない。

 女性はあんがいそういう想像が好きなのだとか、どこかで聞いたような気がする。

 ジュスティーノは心を落ちつかせた。

 うっかり反応して自身から白状するようなことになどなったら間抜けすぎる。

「ただの()れの話だろう。おまえもそんな話をまじめにとらずとも」

 ジュスティーノは苦笑してみせた。

 女性はくだらない話をするのだな、というような表情を造る。

「失礼しました」

 クロエがいきおいよく頭を下げ、お辞儀をする。


 いったい女中の休憩部屋ではどんな話が飛びかっているのだ。


 執事すら入れない場所だが魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界に感じるなとジュスティーノは思った。




「あしたから、もと通りおまえが起こしにこい」


 ジュスティーノは、私室に帰って早々に来室したレナートに告げた。

 太陽はだいぶ高く昇っている。もう昼ちかい。

 レナートが、持ってきた外出着をカウチに置く。

 こちらをふり向いて手をのばし、ジュスティーノのシャツの(えり)を直した。


「あの部屋でなければ行きます」

「あんな年若い娘をよこすやつがあるか」


 ジュスティーノは眉をよせた。

「医師殿よりもよほど興味がおありなのではと思ったものですから」

「そういう問題ではないだろう」

 レナートがため息をつく。


「けっきょく手は出さずじまいですか」


「好きな相手がいるそうだ」

 「失敗か」とでも言いたげなレナートを、ジュスティーノは軽く睨んだ。

「あんなまじめな娘に、何を言い含めている」


「お言葉ですが、本人の将来を後押ししてあげたつもりもあります。好きな相手とやらがどんな立場の者か知りませんが、貴族の御曹司の愛妾など、ただの農民の娘としてはおおきなチャンスなのでは」


 レナートが(えり)を直していた手を引く。

 さすがにうしろめたい部分はあったのか、声音を落とした。


「何もこちらの都合だけで、ただ行かせたわけではありません。あなたが医師殿なみに無責任な方ならこんなことはしない」


「あの人は無責任か……」

 ジュスティーノはつい複雑な表情になった。

「いい加減あの医師のことは忘れてください。あなたにあんな伝言をして、本心であろうはずがありません」

 ジュスティーノは上着をはおり襟元(えりもと)を整えた。

 クラバットを片手で軽く整えながら、つかつかと部屋の出入口に向かう。


「ピストイアに行ってくる。おまえはついて来なくていい」





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