表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
21.流刑の恋人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/116

AMANTE DELL'ESILIO 流刑の恋人 IV

 パガーニ家の正門を出ると、エルモが馬車とともに待っていた。

 大きな通りの端で馬の(ひづめ)がカツカツと石だたみをたたく。

 御者はむかしの商売仲間なのだとここにくる道中に聞かされた。

 いまはこの御者の家に厄介になっているのだと。

 ジュスティーノの姿を見つけると、エルモは大きく手をふり駆けよった。だれも連れていないのを確認するようにジュスティーノの背後を見やる。


「旦那はもうここにはいなかったんで? ご自分のお屋敷に帰られたんですか」

「……遠方まで、馬車を出せるか」


 ジュスティーノは尋ねた。

「旦那のお屋敷に向かうんですかい? あのあたりはまだペストがあるでしょうし、どうかな」

 エルモが渋い表情をする。

「リヴォルノに行く」

「リヴォルノ」

 エルモが復唱する。

「港町のリヴォルノですか? 今日中にはムリですよ」

「馬車で寝泊まりでも私はかまわない」

 ジュスティーノは、停めてある馬車に向かいながらそう告げた。

 もはやリヴォルノに行くことしか考えていなかった。

 エルモの連れてきた御者に断られたら、この場ですぐにべつの馬車を頼むつもりだ。

「旦那はどうしました」

 エルモが首をのばしてパガーニ家の正門をながめる。


「……兄君に命じられてゴルゴナ島に発ったそうだ」

 エルモが落ちつき払って「おや」とつぶやく。



「とうとう流刑に処されたか。あの旦那らしい」



 そう言い、ゲラゲラと笑いだす。

「笑っている場合か!」

 ジュスティーノは声を上げた。

「……一時的にペスト患者の隔離施設になっているそうだ」

「ああ……」

 エルモがそうつぶやいて頭を掻く。


「あの旦那のことだ。そういう非日常ほどワックワクですよ。心配してると拍子抜けしますよ、きっと」


 そう言いあとをついてくるエルモを、ジュスティーノはふり返った。


「……恐怖心がないのだったか」

「ないというか、きわめて薄いというか。それでもって常に好奇心を(そそ)るものを求めてる」


 エルモが馬車の屋形の扉を開け、ジュスティーノの背中を押す。 

「戦の多い時代なんかに生まれてたら、ぴったりだった人なんじゃないですかねえ」

 ジュスティーノは屋形の座席に座りながら、エルモの愛想のよい顔を見た。

 つくづくイザイアを不憫(ふびん)に思う。

 生きづらさを感じてきたのではないだろうか。想像するとせつない。

「リヴォルノまでだと、途中で馬を休憩させることになりますので、三日はかかると思いますが」

 横に座ったエルモがそう告げる。

 ジュスティーノは軽く唇を噛んだ。気持ちはあせるが、そんなところか。

 御者台で出発の準備をはじめた御者が気になった。

 屋形の窓から顔を出し、御者に声をかける。


「おまえは? 急な遠出になるが、承知してくれるのか?」

「ああ、大丈夫、若様」


 エルモが服の(そで)をつかむ。

「いい(もう)(ぐち)があると前々から話してたんですから。こんなことも想定して準備してますよ」

 エルモがニッと笑う。

「……そうか」

 想定の範囲内だったとは心強い。

 ジュスティーノは安心して座り直した。



「馬車代は料金プラス紹介料と、ここからさきは、かかった時間に、二割ほど上乗せでよろしいですか?」



 エルモが急に早口になり言う。

「え……」

「ほら、なんせ遠方ですから」

「ああ……」

 ジュスティーノは、屋形の窓の外を横目で見た。

 言っている内容を精査するべきと思ったが、イザイアを追うことばかりが気になってそちらに集中できない。

「請求書は、オルダーニ家に送付でよろしいでしょうか」

「ああ」

 夕方近くのこの時間帯でも、あまり人通りのない静かな通りだ。

 前方のかなり先のほうはときおり横切って行く人が見える。

 あのあたりに広場があるのか。

 まだ出発しないのかと、ジュスティーノは御者のほうをちらりと見た。

「ああそうだ」

 エルモが声を上げる。

「馬車で寝泊まりとなると、毛布がいりますね。途中の街で調達しますんで」

「……ああ」

「んで、お食事は……と」

 エルモがガサガサと音を立てて地図を広げる。この地方一帯の地図のようだ。

 用意がいいなとジュスティーノは横目でながめた。

「宿場がなければ付近の店で調達しますが、若様、好ききらいはないですか?」

「ああ」

「必要なものは道々調達しますんで、ご安心ください」

「……ああ」

 ジュスティーノはそわそわと窓の外をながめた。

「調達の手数料も上乗せで」

 上の空でうなずく。

「まいど」

 かたわらでふたたびガサガサと音がする。地図をしまっているらしい。

 イザイアは、いまどのあたりなのか。ジュスティーノはもうすぐ夕方になる空を見上げた。

 ゴルゴナ島に渡るまえに捕まえたいが。


OK(ヴァ・ベーネ)。出発だ」

 エルモが御者に向けて告げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ