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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
21.流刑の恋人

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AMANTE DELL'ESILIO 流刑の恋人 I

「……え」

 視察先から帰り私室にいたジュスティーノは、レナートの報告を聞いて呆然となった。

「どうもピストイアのご実家から何か連絡があったらしく」

 レナート自身も事態が呑みこめていない様子だ。そわそわと廊下のほうをながめる。

「お父上にはごあいさつして行ったそうです。それと、もとからいた主治医あてに所見と看護に関する意見を記したものを」

 ジュスティーノは部屋の出入口に駆けよった。

 いきおいよくドアを開けて、イザイアの滞在していた部屋に向かう。


「ジュスティーノ様!」


 レナートが駆け足で追ってくる。 

「とうに付き人を連れて帰ったそうです!」

「うるさい!」

 毎夜来ていた部屋のドアを開ける。

 イザイアの私物はすでにになく、二人ですごしたベッドもきれいに整えられていた。

 やっと手元に置けたと思ったものが、知らないあいだにスルリと手からぬけて行った(むな)しさ。ジュスティーノは立ちすくんだ。

「だからとうに発ったと……」

「うるさい!」

 追ってきたレナートの服を思わずつかむ。

「満足か! 追い出せて!」

 レナートが複雑な表情でこちらを見る。「そこまで言われるか」と言いたげだ。

 軽く突きとばすようにしてレナートから手を離し、ジュスティーノはつかつかと廊下を歩き出した。

 うしろを追ってきたレナートが、私室を通りすぎたあたりで声を上げる。


「どちらへ!」 

「ピストイアだ。ご実家が何を言われたか知らないが、正式な契約書まで交わしているのだ。父上が承諾したとしてもこんなの勝手だろう」


「だからといって他家にいきなり直談判ですか! ジュスティーノ様!」

 レナートがうしろから肩をつかむ。

「おまえに止める権利なんかない!」

 ジュスティーノは腕をふり上げて退かせようとしたが、レナートはなおも肩をつかんできた。


「落ちついてください!」

「おまえが手紙など送るから……!」


 ジュスティーノはついそう口にした。

 レナートが、眉をよせてゆっくりと手を離す。

 彼は彼でイザイアに意に反したことをされたのだ。やむにやまれずの手であったのは分かっている。

 だがいまは、気づかう心の余裕はない。


「ピストイアに行く。おまえはついて来なくていい」

 ジュスティーノはそう告げて廊下を早足で歩き出した。




 馬屋で乗りなれた馬をえらび、ジュスティーノは手綱(たづな)を引いて正門のまえまで来た。

 門を開けるよう門番に指示しかけたとき、正門の格子(こうし)に向こうから手をつっこみ手まねきしている者がいるのに気づく。


 三十歳すぎほどの無精髭(ぶしょうひげ)を生やした男だ。


 門番が(とが)めようとしたが、強面(こわもて)のわりに愛想よくニッと笑いかけるので戸惑っている。

「ええと……」

 ジュスティーノは軽く眉をよせた。

 どこかで会った気がする。どこの者だったか。

「お忘れですか? エルモです」

 帽子を片手でとり男が名乗る。

 すぐにはピンとこず、ジュスティーノは目を泳がせた。

「聖書をお売りした者ですが」

「ああ……」

 ようやく思い出した。手を上げて門番を制止する。

「あの聖書で思い出すとか、若様も相当ですな」

 エルモが肩をゆらして笑う。

 身につけている服が以前会ったときよりも仕立てのよいものの気がするが、あのときは聖書に気をとられていたので定かではない。


「どうした。イザイアなら……」

「やっぱりご実家に帰られましたか」


 エルモがそう返す。

「何だかんだいって兄上様の言うことはちゃんと聞くんですよねえ、あの旦那。あれはあれで楽しそうに絡んでるというか」

 心臓を(にぶ)い針で刺されたような不快さを感じる。

 イザイアと彼の兄との、共有してきた時間の長さににわかに嫉妬心が湧いた。 


「お出かけで?」


 ガシャンという音とともに門が開けられるのをながめながら、エルモがたずねる。

「……近くの街まで」

「おつきの方は」

 エルモがこちらの背後を見やる。


 レナートには腹を立てたあげくの同行拒否ととられたかもしれないが、イザイアと鉢合(はちあ)わせしかねない御家になど連れては行けない。


 とはいえピストイアに行くことで頭がいっぱいで、代わりの同行者を呼ぶのを失念していた。

「いや……近くまでなので」

 ジュスティーノは、ブルルと鼻を鳴らした馬の手綱を引いた。

「たしかにピストイアは近場ですな」

 エルモがピストイアの方角をながめてニヤリと笑う。

 イザイアと親しいらしいのは以前会ったときに分かったが、行き先まで見抜かれているのか。


臨時(りんじ)の付き人って感じで雇いませんか?」


 エルモが自身を指さす。

「え……」

「若様、パガーニ家の本邸の場所はご存知で?」

「いや」

 ピストイアにそこまで土地勘はなかったが、大きな街だ。貴族の屋敷など通りすがりの者に聞けば分かるだろうというつもりでいた。

「道案内もできますし、荷物もちくらいしますよ」

「いや、荷物は」

 あせって出てきたので、財布すら持ってはいない。 

「ああ、馬車のほうがいい、若様。そのほうが安全です」

 エルモは愛想よく笑うと、ジュスティーノの手から手綱を外して門番に手渡した。


「ぐうぜんですが、知り合いの御者に馬車を頼んでまして。ちょうどこのお屋敷のまえで待ち合わせていたところで」


 門の外を見やると、屋形つきの馬車が(ひづめ)の音を立てて停まったところだった。

 門番が、戸惑った表情でジュスティーノに指示を求めるように見る。

 何か胡散臭(うさんくさ)げなものを感じてジュスティーノは眉をよせたが、エルモの強引さに考えをまとめる(ひま)がない。

「さあさあ」

 エルモが背中を押し、ジュスティーノを馬車に乗せる。


「付き人としての雇い代と馬車のお代は、お帰り後でけっこうですので」

 いっしょに屋形に乗りこみ、エルモはニッと笑った。





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