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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
2.死と病の迷宮

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LABIRINTO DI MORTE E MALATTIA 死と病の迷宮 I

 所有地の別邸に着いたときには、太陽は中央よりやや西にかたむいていた。

 視察のあいだ拠点にしていた屋敷だ。


 ジュスティーノは、遠目に正門をながめた。

 アーチ型の門に、黒灰色の門扉。

 両脇の門番の待機所の壁に、アイビーの葉が這っている。

 敷地内の庭木が門にかかり、門の周辺は影になってややうす暗い。


 二週間まえに発ったときととくに変わりはない外観だが、近づくにつれてジュスティーノは違和感を覚えた。

 正門をじっと見る。

 番をしている者が見当たらない。

 門番の待機所の窓を見るが、人影はないようだ。


「だれかいるか!」


 ジュスティーノは門扉のまえで声を上げた。

 返事はない。


「ジュスティーノ・オルダーニだ! だれかいるなら開けよ!」


 何の返事もない。

 キ、と音がした。

 門扉が風に吹かれて小さく開いたり閉じたりを繰り返す。

 ジュスティーノは困惑した。

 不用心な。

 馬から降り、手ずから門扉を開ける。

 庭を見回すが、人影はない。

 何者かの襲撃にでも遭ったかと思ったが、庭に荒らされた様子はなく噴水がきれいな水を吹きだしている。

 馬を引き、馬屋のほうへと向かった。

 通路に庭木の葉が散らばっている。


 ときおり腐ったような臭いを鼻腔に感じるが、どこからの臭いなのかよく分からない。


 馬屋に近づくと、放たれた馬が馬屋の周辺で草を食んでいた。

 なぜ放っているのだ。ジュスティーノは馬屋を見回した。

 使用人たちは、いったい何をしているのか。

 主家の人間がいないとなると、いつもこうなのか。

 ジュスティーノは連れていた馬をつなぎ、手袋を外しながらつかつかと屋敷に向かった。


「だれかいないのか!」


 声を上げながら玄関の扉を開ける。

 正面の臙脂(えんじ)色の絨毯(じゅうたん)が敷かれた階段を見やるが、だれも降りてこない。


 留守番をさせていた従者すら出てこないとは。


「だれか!」

 ジュスティーノは声を上げた。

 とりあえず従者の部屋に行ってみるかと階段ホールに向かう。

 腐ったようなイヤな臭いが鼻腔に入っては消え、また移動すると(にお)う。

 いったい何の臭いなのかと思いながら、ジュスティーノは階段を昇った。

 自身の私室からほど近い従者の部屋をノックする。

 返事はなかった。

「私だ。入るぞ」

 まさかこんな昼間から寝てはいないだろう。

 返事を待たずドアを開ける。


 開けたとたん、ひどい腐臭(ふしゅう)がジュスティーノを襲った。


「な……?」

 ジュスティーノはとっさにドアを閉め、口をおさえた。

 強烈な吐き気がする。

 ベッドに従者らしき者が寝ていた気がした。

 顔が真っ黒だった。

 生きてはいない状態なのだと直感する。


「なに……」


 ほかの使用人は。

 頬が(こわ)ばる。

 急いで引き返し、階段を降りた。

 どこから確認するか迷ったが、ひとまず食堂広間に向かう。

 ドアを開けてあたりを見回す。

 だれもいない。

 廊下に出て、行ったこともない厨房に向かう。

 食料の搬入口、使用人しか使わないほそく陰気な廊下、炉辺(ろべ)のある調理作業部屋を見てまわる。


 かすかに息づかいが聞こえた。


 音の源をさがす。

 下男が一人、作業台の横に倒れていた。

「どうした! 大丈夫か!」

 ジュスティーノは駆けよった。

「何があった!」

「ペストだって……お医者さまが」

 下男が苦しそうに顔をゆがめる。

 ジュスティーノは手をさしのべようとしてピタリと止めた。


 介抱してやるべきだろう。

 だがそれをしては、自身も感染する。


「医師は……呼んだか」

 そう尋ねる。

「何人かはお医者さまのところに運ばれたみたいですが……あと何人かは部屋で休むって言ったまんま……」

 出てこなかったのか。ジュスティーノは息をつめた。





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