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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
17.薔薇の下──秘密を共有する

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SOTTO LA ROSA 薔薇の下──秘密を共有する III

 乱れたベットの上でジュスティーノは目を覚ました。

 いつものようにイザイアがかけてくれたらしい毛織(けおり)の毛布が裸の体をおおっている。

 気だるさを感じながら、手をついて上体を起こした。

 暖炉(だんろ)の上から部屋を照らしているロウソクは、最中のときからさほど長さは変わっていないように見える。

 そんなに長いあいだ眠っていたわけではないとホッとした。


 イザイアが椅子に座り書物を読んでいる。

 ロウソクのあかりに照らされ、灰色の髪と整った横顔がきれいなオレンジ色に染まっていた。

 情事のあとにいつも酒を飲んでいたり書物を読んでいたり、あまりいっしょに寝てくれることがないのは意図的にだろうか。

 二人で抱きあい余韻にひたる時間は、やはりムダとしか感じない人なのか。

 ジュスティーノは、ゆっくりとベットから降りた。

 靴を履いて、脱いだシャツを手にとりはおる。

 イザイアが顔を上げてこちらを見た。


「部屋に戻られるのか」

「レナートが起こしにくるまでに戻らないと何を言われるか」


 ジュスティーノは苦笑した。

 ふと昼間のレナートの発言を思い出す。

「……レナートが申し訳なかった」

「いや」

 イザイアがそう返す。

「従者としては、あのくらいでないと頼りにはならんだろう」

「そうだが……」

 ジュスティーノはため息をついた。

「若様を心配してのことだと分かっている」

 イザイアは書物を閉じた。

 おもむろに顔を上げて、ジュスティーノを見る。


「嫌いではないよ、若様。ああいう正面から(いど)んでくる方は」

 イザイアがクスッと笑う。


「必死で威嚇(いかく)する子犬のようで、かわいらしい」


「そうか……」

 たとえが独特だが、ともかくあまり気にしてはいないということか。

「おやすみ、若様」

 イザイアはふたたび書物を開き、ページをめくった。




 暗い廊下。

 ジュスティーノは、できるかぎり靴音を立てないよう気遣いながら自室へと向かった。

 足元を照らしているのは、手燭(てしょく)と窓からのうすい月明かりのみ。

 けっしてあかるいとはいえないが、おなじ階なので移動するのにそう難儀ではない。

 廊下の角を曲がり自室の手前まできたとき、ドアの前にだれかがいるのに気づいた。

 見回りの者だろうかと思いながら近づく。

 髪の色が白っぽく浮かんで見える。腕を組み、壁に背をあずけているようだ。

 たまたま通りかかったわけではなく、なにかを待っていたのか。

 レナートだった。

 いくら使用人でも、とうに寝ている時間だ。


「……何をしている」


 ジュスティーノは声をかけた。

「どちらまで」

 レナートがそう尋ねる。

 ジュスティーノはもと来た通路をふり返った。


「……いや。散歩というか、眠れないので」

「きのうもおとといも、その前もですか」


 レナートがそう返す。

 ジュスティーノは眉をよせた。

「ここのところ、毎晩この時間帯にここに来ていました」

 心臓が大きく鼓動(こどう)する。

 ジュスティーノは目を左右に泳がせた。

「何か……用事でもあったのか?」

 つい自身のシャツの胸元をつかむ。


「首に跡がついています」


 レナートが口調を変えずに言う。

 ジュスティーノはぎこちなく首に手をあてた。

「そちらではない。逆です」

 レナートがこちらを見もせずに言う。

 ほんとうについているのか。それとも(かま)をかけているのか。

 後者だとしたら、ずいぶんと不誠実ではないかとジュスティーノは目を眇めた。



「あの医師とは、切れたほうがいい」



 レナートが、目線をそらすように横顔を向ける。

 ジュスティーノはどうごまかそうかという(あせ)りで唇を噛んだ。

「何を言って……」


「あの医師についての(うわさ)を聞いた人物に、あらためて詳細を聞きました。まともにつき合える相手ではない」


 ジュスティーノはため息をついた。

「また噂か」

「噂とあえて言っているのは、確たる証拠がないからです。人の感情をコントロールすることに非常に長けた人物なのだそうです」

 ジュスティーノは鼻で笑った。


「それならあきらかに間違いだ。イザイアは感情の理解ができない」

「できないからこそ、いっさいの情をからめず人の心を分析し、利用することができるのでは?」


 ジュスティーノは無言で足をふみ出した。

 自室のドアを開ける。

「もう遅い、あしたにしよう。おまえももう寝ろ」

 レナートがドアに手をかけ、閉められないよう強引に引く。

「人目のある時間帯では話せないから待っていたんです!」

「いい加減にしろ! 父上の主治医だぞ。看護はどうする!」

「あとは、以前からの主治医に引きついでいただけばいい!」


 つい手を上げそうになった。


 ジュスティーノは上げかけた手を下ろして、レナートから顔をそらした。

「さほど問題のない相手であれば、口だしはしません。たとえそれが男性であっても。法や宗教が禁じているといっても、そんなものは建前だということくらい知っている」

 手を上げそうになったことに気づいただろうか。

 ジュスティーノは黙ってレナートに背を向けた。





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