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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
14.あなたには届かない

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SE TI DÀ FASTIDIO 迷惑なら

 屋敷の食堂広間。

 天井の豪華なシャンデリアが、あわい太陽光を受けてチラチラと乱反射する。

 暖炉(だんろ)まえの上座にイザイア、いちばんまえの席にジュスティーノ、そのとなりにレナート。

 男性三人であまり会話もなくというのが、ここのところの食事風景だった。

 壁ぎわにならんだ使用人たちは、あいかわらず無表情で淡々と職務をこなしている。 


 ジュスティーノにとっては、この面子(めんつ)はどちらと話すのも気まずい。

 イザイアの私室には、ここ数日も出入りしていた。

  

「医師殿」


 レナートが切りだす。

 ジュスティーノは、フォークを手にわずかに目を見開いた。

 レナートが、医師にたいして不信感を持っているようだとここ数日のあいだ感じていた。

 気まずくなることを言われはしないかと緊張する。


「きのう本邸のほうへ手紙を送りました」

「何を勝手に」


 すかさずジュスティーノは口をはさんだ。つい声が荒くなる。

「あなたのお屋敷内での居所がなかなかつかめないので、勝手に判断させていただいたのですが」

 レナートが言う。

 ジュスティーノは黙ってミネストローネを口にした。

 家と連絡をつけなければと思いつつも、ここのところは考えるのを避けていた。


 イザイアの私室に出入りするいまの生活を終わらせたくない。

 

「……勝手に送るな。もし手紙にペストの腐臭がついてしまっていたら、どう責任をとる」

「ありえるのですか、医師殿」

 レナートが問う。

「服の共用で感染した例はあるので、可能性はゼロではないが」

 イザイアは答えた。

 いつもはワインを水のように飲んでいたが、レナートが同席するようになってからはたしなむ程度の飲み方に変えていた。

 自身と出逢った当初もそうだったとジュスティーノは思い出した。

 あまり知らない人間のまえでは、イザイアはかなり本性をかくしてふるまう(たち)らしい。

「医師殿のお部屋に入りびたっていただけありますね。ずいぶんとお勉強させていただいたようだ」

 レナートが言う。

「承知しました、医師殿。次回からは気をつけます」

「御家の方々がご無事ならけっこう」

 イザイアがそう返し、品良くワインを口にした。

「手紙など……届くのか」

「街に出て商人に聞いたら早いですよ。為替(かわせ)の決済やら何やらで郵便がどうしても必要ですから」

 レナートがミネストローネを口にする。

「感染の広がっていない街の飛脚問屋(ひきゃくどんや)をつないでいるそうです。少々遅れはするそうですが」

 レナートが煮込まれた野菜を口にする。


「馬車を手配するよう本邸にお伝えしました」

「ペストの蔓延(まんえん)する地域に御者を呼ぶ気か!」


 ジュスティーノは声を上げた。

「ペストに(かか)った経験のある者を御者として使うよう伝えました。あなたは外套でもかぶって屋形から絶対に顔を出さないようにして帰ればいい」

 レナートがスプーンを置く。

「医師殿」

 そうイザイアに呼びかけた。

「回復した下男に周辺の地域をざっと見て来させましたが、感染者の出ていない村も周辺にいくらかあるようだ」

 屋敷の使用人がスッと手を出し、からの皿を下げた。

「せめて主人に、その情報だけでも教えてあげてほしかったのですが」 

「医師の仕事は患者を看ることだ。居候(いそうろう)させてもらった上に情報提供まで」

 ジュスティーノは反論した。

「ですがその情報提供をすれば、あなたの居候などというわずらわしいこともさっさと解消できたのでは」

「レナート」

 ジュスティーノは、強い口調で従者の言葉をさえぎった。


 レナートのこういったものの言い方は、いままで気にしたこともなかった。

 むしろ自身の気づかないところに気づき、はっきりと言ってくれる頼もしい友人という感さえあった。


 だがいまは、イザイアを非難するような彼の言い方が気にさわる。


「情報はおおむね把握(はあく)していたが、そういった地域は人家もきわめて少ない。良家の若君が(とも)もつけず通るには危険かと」

 イザイアが静かにワインのグラスを置く。

「なるほど」

 レナートはそう返答した。 

「こちらはこの周辺の土地勘はありませんし、疫病(えきびょう)に関しては素人だ。できるかぎり医師殿のご意見をお聞きしたいと思いますが」

 使用人がレナートの手元にデザートの皿を置く。

 レナートは、おもむろにフォークを手にした。


「一つだけ医師殿に申し上げたいことが」

「何ですかな」


 イザイアがワインを口にする。

「ジュスティーノ様がお部屋に入りびたっても、出ていけと言ってくださってかまいません。他家の御曹司なので遠慮なさっていたのでしょうが」

「レナート」

 ジュスティーノは強い口調でさえぎった。

頑固(がんこ)なことを言われるようでしたら、今後は私を呼んでくださってけっこうです」

「レナート!」

「承知した」

 イザイアが微笑する。しずかにグラスを置いた。

「迷惑に感じたら、そうさせていただこう」

 落ちついた口調で答える。

 


「迷惑なら」


 

 イザイアがもういちど言う。

 水差し(カラッファ)を持った使用人が、イザイアの横に進みでる。

 ワインをそそごうとしたが、イザイアが手をさしだして止めた。





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