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【完結】背徳 〜サイコパス医師に堕とされた御曹司の恋〜 〘R15版〙  作者: 路明(ロア)
6.夢魔

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LA MIA MENTE E IL MIO CORPO SONO DISTRUTTI 心も体も壊れる II

 朝の診察。

 はじめに入室したのは、ここ数日ほど状態の思わしくない従者の部屋だ。

 ベッドの上で微動だにせず横たわる姿を、ジュスティーノは部屋の出入口のそばでながめる。

 入口のすぐ近くにあるテーブルに、消毒用の酒を入れたカラッファを置く。

 ベッドのそばで従者の様子を診るイザイアの動きを目で追った。


「……回復のきざしは」 


「横這い状態ですな。若いので何とか耐えている」

 倒れた付き人を運ぶさい、彼も手を添えていた。

 止めるべきだったと後悔する。

 イザイアが杖で従者の首や(わき)のあたりをさぐる。


「……そこが、どうなるのだ」

「荷物持ちの太股のつけ根が()れていたでしょう。首や脇がおなじように腫れることがある」


 イザイアが杖を器用に使い、もと通り毛布をかける。

「それと、顔などに膿疱(のうほう)潰瘍(かいよう)

「……それがあるのか」

「さほど多くはないが」

 イザイアは軽く顔をかたむけ従者の顔を覗きこんだ。

「苦痛は」

 ジュスティーノは、ベッドから目をそむけた。

「どうでしょうな」

 イザイアが答える。

「意識がだいぶ低下していますからな。肺にはいまのところ移行してはいないようですし、あるとしたら痛みくらいか」

「意識は……失くしているわけではないのか」

「ほんのわずかなら音や光に反応している」

 イザイアが答える。

「では、意識をとりもどすのはまだ容易なのか?」

 ジュスティーノはベッドの横に駆けよった。

 従者のかたわらに手をつこうとして、イザイアに背後から抱き止められる。

「若様」

 肩幅の広いがっしりとしたイザイアの上腕は、思いのほか力があった。

 ベッドからはなれた場所に引きずられる。

 ジュスティーノは懸命に身をよじり、従者のもとに駆けよろうとした。

「手でも握ってやればよいのか!」

「それは医者として反対ですな」


「私だ!」


 ジュスティーノは横たわる従者に向けて叫んだ。

「分からないのか! 意識をもどせ!」

 片手で剥ぐように自身のペストマスクを外す。

「若様」

 イザイアが、抱き止めた格好のままジュスティーノを強引に部屋の外に連れだそうとする。

 ジュスティーノは、なおも身をよじり抵抗した。


「邪魔しないでくれ! これは私の役割だ!」


 従者を目覚めさせることしか頭になかった。

 危険なことをさせてしまった。せめてもの責任をとってやりたい。

「若様、いったん廊下に」

 イザイアは部屋の出入口にジュスティーノを引きずり連れてくると、片手でドアを開けた。

「私が何に感染しようが私の勝手だ! 貴殿に迷惑はかけん!」

 ジュスティーノは抵抗しながら叫んだ。

「病人が増えたら医師として迷惑ですが」

 イザイアは、ジュスティーノをドアの開いた部分に押しこむようにして廊下に連れだした。

「では私だけ感染しても外に捨て置け!」

 廊下に出ると、イザイアは自身の仮面をとった。


「落ちついて」


 そう言い、ジュスティーノを背後から抱きしめる。

 革製のマントを通してなので体温は伝わらなかったが、きつく抱きしめられた感触でジュスティーノは不安と恐怖が引いて行くのを感じた。

「慣れていない者にはやはりつらすぎたか。申し訳なかった」

 イザイアが耳元で言う。

「何があっても若様のせいではない。若様はやれるだけのことはやった」

「……感染した者を、素手で運ばせてしまった」

 ジュスティーノは顔をゆがませた。泣きそうだ。

「だが、わたしに(たく)して治療を受けさせている」

「それだけだ」

「やれることをやったならよいのでは」

 ジュスティーノは無言でうつむいた。

 感情が混乱して、どうと整理をつけていいのかが分からない。

「納得できませんか?」

 イザイアが抱きしめた両腕に力をこめる。 

「落ちつくまでこうして差し上げていてもよろしいが」

「……それでは貴殿に迷惑をかける」

 ジュスティーノは答えた。


 なぜここまでしてくれるのかと思う。

 自身が足元さえおぼつかないほどに混乱すると、かならず支えに現れて答えをくれる。

 こうして弱音を受けとめてくれる人間に出逢ったのは、はじめてだ。


「ここで休んでいるから……従者を診てやってくれ」

 ジュスティーノはそう告げた。

 イザイアの腕をやんわりとつかんで離すよう促す。

 腕を離したあとも、イザイアは背後からじっとこちらを見ているようだった。

 ややしてから、二歩、三歩と離れる衣ずれの音が聞こえる。

「……やさしいな、貴殿は」

 ジュスティーノは苦笑した。

 うつむいた姿勢のまま、イザイアのほうをふり向く。


 視界の端で、イザイアの唇がクッと狡猾(こうかつ)そうに笑んだ気がした。


 気のせいだろうと思ったが、ジュスティーノは確認するために顔を上げた。

 イザイアは、すでに仮面をつけていた。





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