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第91話 アーサー・サンドリオン

「パーティーは見事だったな」


 王の間に戻った彼女にグリムは言葉を贈る。元の女性の姿に戻った彼女はグリムの言葉を聞くと「ありがとう」と言うと小さく息を吐く。いくら彼女が計画した催し物とはいえ緊張していたことがその様子から見て取れた。


「本物のアーサー王もお酒は強かったのか?」


 一つ不安があるとすればその点だった。もしも本物のアーサー王がお酒に弱いのであれば今宵の結果に疑問を持つ人間が現れてしまうかもしれない。


 グリムの問いに彼女は「そうだな」と一言目で肯定する。


「普段アーサー王は決して人前でお酒を飲まなかったが、以前私と王妃、それとランスロットを含めた4人で飲んだ時は顔色一つ変えずに私と同じ量のお酒を飲んでいたよ」


 彼女の言葉を聞いてグリムは「そうか」と一安心する。


()()()()お酒は強かったんだな」


「あんたも……というのは以前グリムが話していた女性の……確かリオンと言ったか?」


 これまでの会話の中でグリムが誰を思い浮かべたのか、目の前の女性は察していた。


「そうだな……」


 彼女の顔を見るたびに目の前にいる人間がリオンではないとは思えない気持ちが強くなる。


「……素敵な名前だ。不思議とその名前で呼ばれた時、私は受け入れそうになった」


「……そうなのか!」


 彼女の言葉を聞いてグリムはなぜだか少しだけ気が高まった。


「だが、その名前はいささか()()()()()。その名は今の私には許されない」


 彼女の視線が腰に添えた剣に移る。聖剣エクスカリバー。それはこの世界で主人公であるアーサー王に与えられた剣だった。その目に籠った熱意だけで彼女がこの世界を絶対に完結させるという意思が伝わってきた。


「……サンドリオン」


「今、何と言った?」


「サンドリオン、二人しかいないときぐらい別の名前で呼んでも構わないだろ?」


「サンドリオン……アーサー・サンドリオンか、うむ、悪くない響きだ」


 彼女はその名前を聞いて頷く。


「……最初に出会った時とは逆になったな」


「何か言ったか?」


 彼女の質問には何でもないとグリムは言葉を返す。今の彼女にとっては可愛さよりも強さが必要なのだとこの短い時間の中でグリムは理解した。


 アーサー王としてこの世界の終幕へと導く。サンドリオンはアーサー王としてこの世界の結末を受け入れようとしている。


 彼女が最終的にどのような結末を迎えるのか、グリムが知らないわけがなかった。


「なぁ……サンドリオンはなぜてそこまでしてアーサー王の願いを叶えようとしているんだ?」


「白紙の頁」所有者は他の人間とは異なり境界線を越えて他の世界へと移動することが出来る。「白紙の頁」を持った人間のほとんどは物語が完結し世界と共に消失することを避ける為に世界を転々とする。


 いくらアーサー王がサンドリオンを庇って命を落としたとしても、彼女がこの世界と共に消失する理由を知りたかった。


「決まっている、私も彼の事が好きだからだ」


 彼女は即答した。好きだから……その相手の為に行動する。その気持ちをグリムは良く知っていた。


「グリムも見ていただろう。この世界にいる人々は皆アーサー王の事を愛している。役割によってはアーサー王の敵になりうる人間までもな……それは決して彼が主人公だったからではない。彼がアーサー王である以前に一人の人間としてこの世界を愛していた。その思いが人々の心を動かしているのだ」


「サンドリオンもその一人ってわけか」


「そうだな……私は別の世界でこの姿で生まれ、「白紙の頁」を持っていると知った時、何をすればいいのか分からなかった」


 サンドリオンは自身の胸元から「白紙の頁」を取り出して眺める。


「世界に役割を与えられなかった人間が何をするべき……か」


 グリムはそう言いながら視線を自身の胸元に移す。元の姿に戻ったグリムは当然体内から「頁」を取り出すことは出来ない。彼女も今のグリム自身も境遇は似ていた。


「この世界に移ってアーサー王に出会ったとき、彼はこう言った『やるべきことなどと言う使命感で動こうとするな、やりたい事を見つけるべきだ』とな」


「やりたい事……か」


 アーサー王の台詞は役割を与えられた人間の口から出る言葉には到底思えなかった。


 しかし、これまでの情報からアーサー王という人物像をたどると自然と飲み込めるような気がした。


「それからしばらくの間、私は彼の言葉通りにやりたいことを探す為、一人の騎士としてアーサー王と共に遠征を重ねた」


「女ならお姫様やそれこそ王妃のようなものに憧れなかったのか?」


 シンデレラの世界にいた「意地悪なシンデレラの姉」を演じていた女性はお姫様を夢見ていた。目の前のリオンと同一人物にしかみえない女性にグリムは質問をする。


「私も一人の女だ。憧れがないと言えば噓になる。しかしそれ以上にアーサー王の生き方に感化された。ゆえに私は自然と花を愛でるよりも剣をふるう道を選んだ」


 淡々とサンドリオンは言葉を述べる。

 その一つ一つに彼女のこれまでの歩みのような言葉の重さがあった。


「もしよければアーサー王との日々を教えてくれないか?」


 グリムはサンドリオンの目を見つめて話す。同時に今の情景に既視感を抱く。


 目の前にいる女性はリオンではないと彼女自身で否定している。それでもこの場はシンデレラの世界、酒場でリオンがグリムの過去を尋ねた時と立場が入れ替わった形になっていた。


「協力者になってもらっているグリムに伝えないわけにもいかないな」


 サンドリオンは「ふっ」と大人の笑みを浮かべる。ゆっくりと彼女の過去について触れ始めた。



    ◇◇◇



「ある日の事、遠征先の巨人を相手にしていた時、騎士の一人が重傷を負って戦場の中に倒れた」


 サンドリオンの眉が一瞬ひそめた。グリムは何も言わずに彼女が続きの言葉を口にするのを待った。


「その騎士を庇おうと私は無謀にも一人で攻撃を仕掛けてきた巨人に立ち向かった。視線を私に誘導することは出来たが、騎士たちが数十人で立ち向かっていた相手だ、当然私一人では劣勢にたたされた」


 サンドリオンの手に力が籠められるのが見て取れた。


「崖際に追い込まれ、逃げ場を失った私に巨人は武器を振り下ろした。死を覚悟したその時、アーサー王が巨人の背後から強烈な一撃を巨人へと放った。巨人が傷を負い、片膝をついた隙に私はその場からアーサーのもとへ駆け寄った」


 彼女の説明でどのような状況だったか脳内にイメージすることは容易だった。騎士が数十人がかりで相手をしていた巨人相手に背後からとはいえ一人で傷を負わせるアーサー王の実力は本物であることが伺えた。


「……それが甘かった。巨人は片膝をついたまま、私を目掛けて薙ぎ払うように武器を振り回してきた。視線を切っていた私は反応が遅れて目の前に巨人の武器が迫った、そして……」


 少しの沈黙、それからサンドリオンは口を開く。


「私を庇う為、前に出たアーサー王が巨人の一振りを受けて谷底へと落とされた」


「…………」


「巨人はそのひと振りを最後にその場に倒れた。すぐに谷の下へ向かった。アーサー王はかろうじて息をしていたが、もう長くはなかった」


 サンドリオンの瞳が揺れる。その時の彼女の感情はとても言葉では表現できるものではなさそうだった。


「彼は最後に言った、『この世界の人々を頼む』と、最後の最後まで彼は他者の為にその生を全うしたのだ」


 人は誰もが死を直面した時、本音が出るだろう。アーサー王の役割を与えられた人間の最後の言葉は普通の人間からは決して出てこない聖人のような台詞だった。


「私という部外者の存在によって彼は命を落とした。私には彼に託された思いの責任がある。私はその日、彼に変わってアーサー王としてこの世界を完結させると決意した」


 サンドリオンの肩が震えている。どんな思いで彼女がその言葉を口にしていたのかは語るまでもなかった。今の彼女には何を言っても変わらない、それだけはよくわかった。


「……そうか」


 ただ一言、グリムは彼女に返した。今の彼女にかける言葉をグリムは見つけることは出来なかった。


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