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第84話 運命の再開

「…………」


 二人きりになったとたん、先ほどまでの喧騒が幻だったかのようにその場に静寂が訪れた。


「なぜ俺をここに呼んだ?」


「…………」


 アーサー王は無言のままだった。甲冑で顔を隠しているせいでその表情を読み解くことも出来なかった。


「もう一度言う、どうして俺をここに呼んだ?」


「…………ひとつ、聞きたいことがある」


 ようやくしゃべり始めたと思いきや、アーサー王はグリムの言葉を無視して話しかけてくる。


「魔法が使えるというのは本当か?」


「……使えるよ」


 こちらも無視をしていては会話が一生成り立たないと判断したグリムはアーサー王の問いに答える。


「その魔法は他者を別の人間に変えることは可能か?」


「可能……だ」


 グリムは今までこの魔女の「頁」を使用した際に、ネコやオオカミ、ひよこのように大雑把な名称で対象の姿を変えていた。シンデレラの世界で魔女の役割を与えられた人間は町の少女という別人に姿を変えていた。アーサー王の質問の内容は不可能ではないはずだった。


「……そうか」


 アーサー王はそこで言葉をいったん区切った。


「一つ、頼みがある」


「……なんだ?」


「3日後の夜、このお城でパーティーが開かれる。その時に私に魔法をかけてほしい」


「……どういうことだ?」


 アーサー王の言葉に疑問を持つ。


「魔法ならマーリンにかけてもらえばいいじゃないか」


 人間を瞬時に移動させる魔法を使うことが出来るのならば、人の姿を変えるぐらい余裕でできそうである。なぜわざわざ外の世界から来たグリムに頼むのか分からなかった。


「これはこの世界の人間には絶対に頼めない」


「なぜだ?」


 グリムはアーサー王に聞き返す。しかし、すぐにその疑問は目の前の騎士が顔に着けていた鉄仮面を外すことで解決することになった。



 それと同時にグリムは言葉を失ってしまった。



「……これがその答えだ」



 玉座に座っていた騎士が素顔を晒した。甲冑の中から現れたのは肖像画に書かれた金髪の勇ましい男……ではなかった。


「驚いているようだな、そうだ……()()()()


 鉄仮面をひざ元に置きながら目の前の女性はそう告げた。




「…………」


 確かに男性だと思っていた人間が女性だった事実には誰もがびっくりするだろう。しかし、グリムが驚愕したのは()()()()()()



 ただ別人が出てきただけならばグリムもここまで驚くことはなかった。言葉を失うことはなかった。



 綺麗に透き通るような深紅色の髪、情熱的な緋色の瞳、大人びているその顔をグリムが忘れるはずもなかった。



「…………リオン?」



 仮面を外したアーサー王の中の人間はシンデレラの世界で「いじわるなシンデレラの姉」の役割を与えられた女性だった。



    ◇



「何か言ったか?」


 目の前の赤髪の女性がグリムの言葉に首をかしげる。


「リオン!」


 今度ははっきりと彼女の名前を呼んだ。しかし……


「……リオン?」


 グリムの言葉に彼女はきょとんとした表情をする。まるで聞き覚えの無いようなそんな反応だった。


「な……何とぼけたふりをしているんだ、まさか俺をからかっているのか?」


「……そんなつもりは一切ない」


 目の前の女性は整然と淡白な口調でそう告げた。とても嘘をついているようには見えなかった。


「リオンじゃない……のか?」


「そのリオンという人間と私の顔が似ているのか?」


 何度見ても目の前にいる女性はシンデレラの世界で出会った女性だった。

 しかし、当の本人はその名前を聞いても全くピンときていない様子である。


「すまないが別人だろう。私は数カ月前に別の世界で「白紙の頁」を持って生まれた人間だ」


 リオンにそっくりな顔をした女性は彼女の生まれについて説明する。


「……話を本題に戻してもいいか?3日後のパーティーの時、アーサー王になる魔法をかけてほしい」


「ま、待ってくれ……」


 あまりの情報量の多さに頭の処理が追い付かないグリムはその場でいったん深く深呼吸をする。


「……落ち着いたか?」


「あ、あぁ……」


 脳内に酸素をいきわたらせて状況を整理する。目の前にいる女性曰く、彼女はリオンではないという事。その女性がなぜかグリムに本物のアーサー王の姿に変えるようにお願いしている事をグリムは把握した。


「魔法をかける、というのは別に構わないが、どうしてリオン……あんたはアーサー王に成り代わっているんだ?」


「端的に言うと、この世界のアーサー王は()()()()()()()んだ」


「……な」


 彼女の衝撃的な発言に一瞬耳を疑った。


「この前の遠征時、私を庇って本物のアーサー王は戦死した。それ以降私が彼のふりをしてこの物語を続けている」


「…………」


 あまりにも異常すぎる話の内容に対してグリムは深呼吸をして落ち着けたにもかかわらず、無言でその場に立ち眩みをしてしまう。


「アーサー王が死んだなら、この世界は崩壊するんじゃ……」


「灰色の雪は降っていない。幸いアーサー王の死を見た者は私以外誰もいない……ゆえにまだ世界は崩壊する予兆は見せていない」


 確かに彼女の言う通り、この世界で灰色の雪は見ていなかった。この世界の人間たちは今もアーサー王は生存して物語は進んでいると認識をしている。物語は主役や主要な人物がいるだけでは決して成立しない。世界の大半を占めている人々がアーサー王の死を知らないがゆえに世界の崩壊は免れているのかもしれない。


「それでも、代役をこなすなんて……」


 不可能だと言いかけてグリムは言葉を止める。グリムはその実例をよく知っていた。


 生まれ育った白雪姫の世界で、グリムにとっては大切な人だった彼女は代役を最後まで成し遂げようとしていた。


「私にはその責任がある、彼の愛したこの世界と人々を……私のせいで失った彼の思いを、叶えないわけにはいかない」


 リオンに似た目の前の女性はそう言って手に持っていた兜に強く力を込めていた。その様子から彼女の覚悟が相当なものだということは見て取れた。



「……分かった、協力しよう」


「……本当か!」


 グリムの言葉を聞いて目の前の女性は顔を明るくする。


「兜を外すのはその時だけのつもりだから、君は終わり次第この世界から出ていくと言い」


 彼女の話を聞くとここ数日城の中でも兜を外さないアーサー王に人々が疑問を持ったらしく、その疑念を払拭させる為にパーティーを開くようだった。


「……そういえば、君の名前を聞いていなかったな」


 赤髪の女性がグリムの名前を聞いてくる。


「グリム・ワーストだ」


「グリム・ワースト……」


 女性はグリムの言葉を復唱する。


 しばらくすると「うむ」と頷きながらこちら側に顔を向けた。


「ワーストという名前は嫌いだが、グリムという名前は好きだな」


「…………っ!」


 細かい言動部分は異なるがその表情、その言葉は今目の前にいる女性はリオンではないのかと疑いたくなるほどにシンデレラの世界で出会った彼女にそっくりだった。

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