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第81話 誇り高き騎士の物語

境界線を越えた先、グリムは街道沿いのような場所にたどり着く。

 新しい世界は赤ずきんの世界と比較するとかなり拓けた世界だった。


「ここは……どんな世界だ?」


 あたりのほとんどは農地だった。遠くを見つめると町のようなものをいくつか確認出来た。これだけではこの世界がどんな物語かは到底分からない。


「とりあえず……人がいる場所にいくか」


 街道に沿って歩き始める。このあたりが境界線ということもあり、人の気配はなかった。


「……っつ」


 頭部と背中に痛みが走る。赤ずきんの世界で狩人から攻撃を受けた箇所がうずき、その部位をグリムは優しく触れる。


 可能な限り早くどこかの町に入り、宿を取って休息を取るべきだとグリムは判断する。しばらくは歩かなければいけない事を考えてため息を吐いた。



    ◇



「……ん?」


 新しい世界に入り、歩き続けているとグリムが向かっている道の先に何かが動いているのを確認する。


「なんだ……?」


 砂埃を纏っているせいでその正体が何かは分からないが、その何かがこちら側に向かってきていた。


「……大きい、いや多い?」


 近づくにつれてその何かの形がはっきりとする。それは1個体ものもではなかった。その正体は馬に乗った騎士の軍隊だった。


 このままでは彼らの邪魔になると思ったグリムは街道から少し外れて木の近くに移動し、彼らが通り過ぎるのを待つことにした。


 この世界で初めて出会う人間達ではあったが、猛スピードでどこかへ向かう彼らを呼び止めるわけにもいかない。


 しかし、この認識は間違えていた。


 騎士の軍隊はグリムの横を素通りせずに、グリムを囲うようにしてその場にとどまった。


「……な」


「貴様、外の世界から来たものだな、死にたくなければおとなしくしろ」


 騎士の一人が馬から降りると剣を鞘から抜き出し、切っ先をこちらに向けてくる。


 他の騎士たちも次々と地面に足をおろして同じような仕草を取り始めた。

 そこで初めてグリムは騎士たちの目的が自分自身だったことに気が付いた。


「……歓迎されているわけではないよな?」


「この状況がそう見えるのか?」


 甲冑で全身を纏った騎士がグリムの皮肉に対して真面目に言葉を返してくる。


 グリムは囲んでいる彼らを観察するが、全ての騎士たちが武装をしており、生身のグリムでは分が悪いと判断する。


「俺を捕まえて、どうするつもりだ?」


 大人しく手を挙げて降参のポーズを取った。


「そうだな、まずは牢屋に投獄する」


「……無抵抗の人間に対してそれはあんまりじゃないか?」


「それが()()の命令だ」


「王様……?」


 グリムのこだまするような言葉を無視して騎士たちは距離を詰めてくる。


「その右手に持っている物はなんだ?」


 騎士の一人が問いかけてくる。グリムが両手を上げたその片方の手に持っていたのは緋色のガラスの靴だった。


「ただの靴だよ」


「没収する」


「……な」


 先程から会話をしている騎士の言葉を合図にグリムの斜め後ろにいた別の騎士にグリムの手にしていたガラスの靴は奪い取られる。


 すぐさま取り返そうと奪い取った騎士の方を向くが、他の騎士たちが剣を向けてその行動を遮った。


「命が惜しいなら動くな」


「…………命か」



 脳裏に浮かぶのはリオンの顔と彼女の言葉だった。



『いつかそのガラスの靴をかえしてね』



 叶うはずのない願い。それでも彼女の思いが託されたガラスの靴をグリムは捨てることが出来ずにいた。


 自身の命とガラスの靴を天秤にかける。

 グリムは即座に無言のまま髪につけていた金色の髪留めに手を当てた。

 淡い光を放つと同時に1枚の「頁」が現れる。グリムはそれを体内にあてはめた。


「貴様、何をしている?」


 不可解な光と行動を見た騎士たちが慌てた声を上げるとともに剣を構えなおす。


 光に包まれたグリムは姿をシンデレラの魔女に変えた。


「な、なんだその恰好は?」


「……ひよこになれ」


 騎士の質問を無視してグリムは周囲に向けて魔法を放つ。


 魔法が当たった騎士や馬たちはたちまち小さなひよこになった。


「ぴぃーぴぃー!」


 ひよこの姿に変えられた者たちが地面で慌てふためいていた。


「……これは返してもらう」


 地面に落ちたガラスの靴をグリムは傷がないか確認しながら回収する。


「無事か」


 特にかけたりもしていなかったことに安堵する。


 赤ずきんの世界では入ってすぐにオオカミに襲われた。この世界では鎧をまとった人間たちにいきなり捕らわれかけた。なぜこうも新しい世界に入るたびに襲われるのかとグリムは自身の運の無さにあきれてしまう。




「驚いた、あんた魔法を使えるのか!」


 突如グリムの背後からひょうきんな声が聞こえてくる。振り返るとそこには一人の騎士が立っていた。


「いつの間に……!」


 辺り一面の生物を全てひよこに変えたつもりだったグリムは背後に現れた騎士に驚いて距離を取る。


「あんたの早着替えにも驚いたが、それも魔法のたぐいなのかい?」


 騎士の男は慌てるグリムを気にも留めずに平然と話しかけてくる。


「……いきなり襲ってきた奴らに答えると思うか?」


「それはそうだ」


 騎士はひよこになった彼らを見ながら大きくため息を吐く。

 他の騎士たちは全員鎧を全身にまとっていたが、目の前で会話している男だけは頭に甲冑をつけていない為、素顔が晒されていた。



 ずいぶんと顔の整った男だとグリムは思った。グリムと比較しても軽く10歳は年が離れているように感じる。けれども口調のせいか、その身軽な立ち振る舞いのせいか、対面していると年の差をあまり感じられなかった。


「……ん?」


 目の前の騎士を見ていると、1羽の蝶々が彼の肩にとまった。

 騎士は視線を一度蝶に向けると眉間にしわを寄せた。


「……あんたとは普通に会話をしてみたかったんだが……そういうわけにもいかないらしい」


 騎士は蝶々が肩から離れるのを見届けると、腰に装備していた剣の柄に手を当てた。

 

 グリムはその動きを見て警戒を高めながら杖の切っ先を目の前の騎士に向けた。


 先程に比べれば距離は多少取ってある。目の前の男が剣を抜いて攻撃を仕掛けるよりも先に魔法を当てられるとグリムは読んでいた。しかし……


「……悪いね」


「……な」


 いつの間にか距離を詰めていた騎士は手にしていた剣を鞘から抜かずに、そのまま柄の先端部分をグリムのみぞおちに強く押し付けていた。その事に気が付いたのは痛みがやってきてからだった。


 呼吸が出来ず、グリムはその場に倒れこむ。瞬きをした覚えもなかった。文字通り一瞬で騎士はグリムの眼下まで迫り、攻撃を仕掛けていたのだった。


「あんた……いったい……」


 崩れ行く意識の中でグリムは目の前の男を睨んだ。


「よく話し方でなめられるが、これでも俺は()()()()()なんでね」


「円……卓?」


 その単語には聞き覚えがあった。この世界が何の物語かグリムは理解しかけたところで気を失ってしまう。



    ◇◇


 これがグリムにとってこの世界の始まりだった。


 舞台は誇り高き騎士の物語。


 そしてこの世界でグリムは()()()()()を果たすことになる。


 騎士に倒されたグリムは当然、そのことをまだ知る推しもなかった。



    ◆◆◆



 アーサー王伝説


 あるところに名高い王様がいました。


 彼の名前はアーサー・ペンドラゴン。世界を統治し、キャメロットと呼ばれるお城に住んでおります。


 彼には気高き騎士たちが何人も使えていました。


 アーサー王は同じ卓を囲う事で全員の事を平等に思いあい、後に人々はキャメロットに集う騎士たちを円卓の騎士と呼ぶようになります。


 そんな誇り高き騎士たちの物語ですが、いつまでも続くことはありませんでした。


 ある時、円卓の騎士の一人、ランスロットがアーサー王の妻であるグィネヴィアと禁断の恋に落ちます。激怒した円卓の騎士たちがランスロットを責め立てますが、騎士の中でも随一の実力だったランスロットに騎士たちは返り討ちにあいます。


 グィネヴィアを連れて城を出たランスロットをアーサー王は追いかけます。長い旅路を越えて、ランスロットと対峙したアーサー王は戦いの末に和解を結びました。


 ところが今度はキャメロットで円卓の騎士の一人であり、アーサー王の息子でもあるモードレッドが反旗を翻しました。


 お城の近く、カムランの丘と呼ばれる場所でアーサー王とモードレッドは戦います。


 重傷を負いながらも勝利したアーサー王は自分の死期を悟り、妖精たちが集う泉に訪れると、そのまま小舟に乗って理想郷と呼ばれるアヴァロンへと旅立ちました。


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