第68話 手作りのサンドイッチ
「な……」
森の中でガラスの靴を探していたグリムはこの世界の中で重要な役割を持った3人が交える状況を目撃してしまう。
「ぐふっ…ぐへへっ……」
狩人は赤ずきんとウルを見て不気味に笑っていた。
「なんだ……」
「ぐひっ……ぐひひ」
昨日ウルの正体を知った時の恐怖とは違った感情がそこにはあった。
「こ、怖い……」
赤ずきんは怯えてウルの背後に隠れる。
「おい、ガキ……おれはお前の正体を知っている」
狩人がウルを指さしてそう言った。ウルは目を見開き驚いた様子を見せる。
「今ここで正体をばらすのも面白いかもなぁ」
「……やめろ!」
ウルが叫ぶ。うろたえる姿を見て狩人は満足そうに笑う。
「ど、どうしたのウル……」
突然声をあげたウルを見て赤ずきんが心配そうに彼の肩に手をかける。
「止めるべきか……」
『我々はあくまで部外者、物語に直接は関わるべきではない人間です』
茂みから出て狩人たちの間に入ろうとしたグリムだったが細身の騎士に言われた言葉を思い出して動きが止まる。
「交換条件だ、次の満月の夜になったら物語を進めろ」
立ち止まっている間にも彼らの会話は続けられていた。
「言葉の意味、わかっているよなぁ?」
物語を進めるというのはウルがオオカミとなって赤ずきんを食べることを意味していた。
結局のところ今この場で正体を明かすか先延ばしにするかの違いでしかなかった。
「言っておくが、村にいる大人たちは全員お前の正体を知っている。この世界も、そしてお前にこれ以上先はないからな」
狩人はそう言って立ち去った。赤ずきんとウルだけがその場に残された。
狩人の言ったように村人たちは既に物語が進まない理由を知っている、知ってしまった。こうなってしまえば村人たちは物語を完結させる為に動き始めるだろう。
そうなれば今までのように物語が停滞することはあり得ない。
「ね、ねぇウル、どうしたの、あのおじさんはもういないよ。遊びに行こうよ」
「…………」
ウルは何も答えなかった。
「やあ、二人とも」
おろおろとしていた赤ずきんとウルを見かねたグリムは二人の前に姿を現した。
「グリムさん、こんにちは!」
赤ずきんの方は顔を明るくして挨拶をするが、少年の顔は沈んだままだった。
「その……なんだ」
二人の前に現れたものの、何か都合の良い言葉も思い浮かばず困ってしまう。後先考えないで行動している自身を反省する。
「あ、その包みは……」
赤ずきんがグリムの持っていたお弁当を見てそうつぶやく。
「あぁ、良かったら二人でどうだ?」
話題を変えるチャンスだと思ったグリムは二人に弁当を差し出す
「ありがとう!」
赤ずきんは嬉しそうにお弁当を受け取ると中からサンドイッチを取り出してウルに手渡す。
「はい、どうぞ!」
「……」
「受け取らないなら食べちゃうよ?」
「……ぎゅるるる」
サンドイッチの臭いを嗅いだせいか、無言のままだった少年のお腹がなる。
「ほらほら!」
半ば強引に赤ずきんは少年にサンドイッチを押し付ける。ウルはようやくサンドイッチ受け取った。
「グリムさんもどうぞ!」
赤ずきんが最後のサンドイッチを包みから取り出すとグリムに手渡しをする。それをグリムはお礼を言いながら素直に受け取った。
「いただきます!」
サンドイッチをいったんひざ元において行儀良く手を合わせた後、赤ずきんは口を大きく開けてサンドイッチにかぶりつく。もぐもぐととても美味しそうな笑顔で食べ始めた。彼女につられるようにグリムとウルもサンドイッチに口をつける。
「おいしいね!」
「そうだな」
「…………!」
グリムは赤ずきんの言葉に笑顔で肯定する。
ウルは言葉を発さないが、気落ちしているよりかは食べるのに夢中になっているようにみえた。
「お母さんの料理はおいしいなぁ......私もこれくらい上手に作れたなー」
「赤ずきんも料理は作るのか?」
「練習してるの!」
グリムの問いに対してあまり上手に出来ないけどね、と赤ずきんは照れ臭そうに笑った。
「……食べてみたい」
少年がぽそりとそうつぶやいた。
「ほんとに?」
赤ずきんは嬉しそうな反応を示す。
「ほんとだ」
少年の言葉を聞くと少女ははじけそうな程の笑顔で「約束ね!」と少年に小指を差し出した。ウルはどうすればいいのかわからず困っていたのでグリムは無言で小指を重ねるしぐさをする。真似するようにウルは少女の小指に地震の小指を重ねた。
◇◇
「今度必ず作ってくるね!」
しばらくして食べ終えると赤ずきんは立ち上がり、そういって村へと走っていった。
「あんたも……俺の正体知っているのか?」
「あぁ、知ってるよ」
少年の問いにグリムは答える。
「……」
「なあ、よかったらウルがどうやって赤ずきんと出会ったのか、これまでどのように過ごしてきたのか、教えてくれないか?」
「……俺は話すの苦手だ」
「かまわない、俺は知りたいんだ」
この世界に来て何度か彼とは顔を合わせて会話を交えたが、グリムはまだ彼の事を詳しくなかった。
それでもこの少年が赤ずきんの事を大切に思っているということ、それだけは知っていた。
「……分かった」
それから夜になるまで、グリムはこの世界の中で彼がどのように生まれてきたのか、赤ずきんとどのように接してきたのか彼の口から紡がれるお話に耳を傾け始めた。




