第46話 赤髪のシンデレラ
翌日は朝から町中が盛り上がっていた。
「このガラスの靴の持ち主を見つけ出せ」という王子様の号令で衛兵たちが町の中の女性たち全員を集めて昨夜舞踏会に残されたガラスの靴をぴったりはける人物を探していた。
「お姉さま、昨日はいったいどこにいたのですか?」
シンデレラがリオンに問いかける。心配そうな彼女の表情を見るとリオンのことを気にかけていたことが読み取れた。本当に優しい子だなとリオンは改めて痛感する。
「昨日は私もお城にいたわよ」
「え、そうなんですか?」
「それどころか王子様に指名されて踊ったのよ」
「え、でも王子様はお姉さまをみてはいないと……」
「おい、そこの赤髪の女性、こちらにこい」
衛兵がリオンを呼び出す。
「それじゃあ行ってくるわ」
リオンは衛兵に言われた通りに、靴がセットされた台の目の前までたどり着くと目の前に丁寧に置かれたガラスの靴を見る。
いつ見ても綺麗で透き通るような色をしている。この世界の主人公が履くにふさわしいガラスの靴だった。
二日前にドワーフの鍛冶屋でこっそりと目の前の靴を履こうとした事を思い出す。
あの時とは違う感情を持つ自分がいた。
「それではその靴を履いてみせろ」
衛兵に言われた通りに履いていた普通の靴を脱いでガラスの靴に足を当てはめようとする。
当然ガラスの靴にリオンの足ははまらなかった。
「よし、もう行っていいぞ」
衛兵はリオンがシンデレラではないことを確認するとその場から離れるように指示する。
「他にはもういないか……む、なんだ」
衛兵が手を挙げたシンデレラを目にとめた。
「私にも履かせてください」
シンデレラの言葉を聞いて兵士はこちらに来るように命令する。
「お姉さま……嬉しそう?」
すれ違いざまのリオンの表情を見てシンデレラがそう言ったのが聞こえた。シンデレラはその理由を知る由もない。一瞬その表情を見て足を止めるが衛兵に促されて慌ててガラスの靴の所まで駆けて行った。
そして町中からこの日一番の歓声があがる。ガラスの靴の持ち主が見つかったのである。
◇
「こんな三文芝居はやくおわらないかしら」
風に乗って遠くから悪態をつくような声が聞こえてくる。見ればリオンではない意地悪な姉とシンデレラの継母が口惜しそうにガラスの靴とシンデレラを睨んでいた。
確かにこれはあらかじめ決められていた物語に沿った芝居かもしれない。
しかし、それを言い出したらここまでのすべてのこと全てが無駄になってしまう。
それに……とリオンは思う。
「お、お母様、体が燃えているわ」
意地悪なもう片方の姉が叫ぶ。悪態をついたシンデレラの継母は青い炎に包まれていた。
「きゃああああああ」
自身が燃えていることに気づいた意地悪な継母の悲鳴もあがるが、町中の人々はシンデレラの祝福で一切気付いていない。
「え、え、なんで私まで……いやあああああ」
次いでもう一人の姉も青い炎に包まれた。
おそらく最後の最後で靴を履きに行くことを拒んだから……物語の役割を演じなかった為に世界があの二人を燃やしたのだろう。
なにか一つでもずれていたら、リオンもあの二人のようになっていたかもしれない。そうならなかったのは間違いなくあの男との出会いだった。
彼は今頃何をしているだろうか。
別の世界でもリオンのように与えられた役割に苦しんでいる人々の為に懸命に抗い続ける姿が想像できた。
「……あ」
シンデレラを含めた全ての人間と世界が温かな黄色い炎に包まれ始めた。
シンデレラの世界は無事終幕を迎えたようとしていた。
「もし、もう一度願いが叶うなら……」
主役でなくてもいい。生まれ変わるのなら、ただもう一度、彼に出会いたい。
赤髪のシンデレラの姉はそう願った。
こうして世界と共に彼女の「意地悪なシンデレラの姉」としての物語の幕は閉じた。
◆◆◆
シンデレラという物語がありました。
主人公であるシンデレラには二人の姉がいました。
姉達に名前はありませんでした。ある時シンデレラの姉の一人が町の外で男を助けます。
男は助けてくれた姉に灰被りの乙女という意味を持つサンドリオンという名前を与えました。
「そんな強そうな名前は嫌だわ、そうね……リオンならいいわよ」
リオンという名前を与えられたシンデレラの姉は近々お城で開かれる舞踏会の準備をするために町中の人達を纏めていました。
「私の夢は舞踏会で王子様と踊る事よ」
リオンはその夢を叶えるために舞踏会が始まるまで人一倍努力をしていました。
それもこれも彼女の晴れ舞台である舞踏会の為でした。しかし……
舞踏会の当日、会場にはリオンの姿はありませんでした。
「これ以上でしゃばるあんたを舞踏会にいかせるわけにはいかないねぇ」
シンデレラよりも目立つ可能性のあったリオンをよく思わなかった魔女は魔法を使ってリオンを馬の姿に変えてしまったのです。
舞踏会の会場にシンデレラを届けたのちに魔女はリオンにかけていた魔法を解きました。
「もしまだ邪魔をしようとするのなら再びお前を別の生き物に変えてしまうよ」
リオンはこの世界で唯一の願いである舞踏会に行くことすら阻まれてしまったのです。
その時、暗闇から最初に助けた男が現れました。
男は魔女の相手を引き受けるとリオンを舞踏会にいくように促しました。
会場にたどり着いたリオンは王子様にダンスの申し込みをされて嬉しそうな顔を浮かべる美しい姿のシンデレラと鏡に映った泥まみれの自分の姿を見比べます。
「今の私ではこの場所にふさわしくない」
リオンは城を離れ、一人お城の片隅で泣いてしまいます。
「私も踊りたかった、私だってシンデレラになりたかった!」
「かわいそうな灰被りのお姫様、その願いをかなえよう」
先ほどリオンを助けた男が魔女の格好をして現れます。男は魔法をかけると汚れていたリオンの身なりを整えました。
「でも、もう王子様と踊ることもできないわ」
魔女の格好をした男は自分に魔法をかけると王子様の姿になりました。
「綺麗なお姫様、一緒に踊ってもらえませんか?」
王子様の格好をした男とリオンはお城の前で舞踏会を開きます。
「この時が一生続けばいいのに」
リオンはそう思いました。
しかし、終わりを告げる12時の鐘が鳴り響きます。
舞踏会もお開きになり、王子様は別の世界へと旅立とうとします。
「次に私に出会ったときにその靴を渡しなさいよ」
リオンは男にガラスの靴を渡します。男はそれを受け取ると一人闇の中に消えていくのでした。
次の日、町ではシンデレラ探しが始まります。
お城の舞踏会に参加していない彼女の足は当然ガラスの靴にあてはまりませんでした。
それでも彼女は幸せでした。
シンデレラになる、彼女の本当の願いは叶ったからです。
◆◆◆
これは誰に語られることもない意地悪なシンデレラの姉の物語。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語が少しでも誰かに面白いと思えてもらえたらそれ以上の幸せはございません。
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改めてにはなりますが、ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。もしよろしければ次回もよろしくお願いいたします。




