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第44話 本当の願い

「……何しに来たか、聞くまでもないわね」


「…………」


 漆黒のローブに身を纏い、帽子を深くかぶって顔を隠している魔女は何も答えない。


「安心しなさい、私はもうこれ以上何もしないわよ」


「…………」


 帽子を深くかぶって顔を隠している魔女は何も答えない。


「これであなたの思い通りになったかしら?」


「…………」


 顔を隠している魔女は何も答えない。


「これでもあなたの気が済まないなら馬でも豚でも好きなものに変えるといいわ」


「…………」


 魔女は何も答えない。


 帽子のつば部分をつかみ、顔の部分を隠すように帽子を深くかぶり直していた。


 リオンの方に顔を向けずに魔女はお城の二階側へと体制を向けた。場内からは歓声の声が上がる。舞踏会は最高潮を迎えようとしているのだろう。


「…………」


 リオンの問いに魔女は相変わらず何も答えないまま舞踏会の会場を見続けた。


「あの子なら王子様と幸せそうに踊っているわ」


 魔女はその言葉を聞くと帽子で顔を隠したまま体を再びリオンのほうへと向けた。


「そう、あの子なら……シンデレラなら……」


 言葉に出した瞬間リオンの胸に秘めていた感情が溢れ出ようとしていた。



「私も……踊りたかった、あの場所で踊りたかった!!」


 魔女に向かって頬に涙を流しながら叫んだ。


 一度吐き出せてしまった言葉はとどまることを知らなかった。


「でも叶わなかった!今日この日の為に準備をしてきたのに、あの場所で踊る……そんな唯一の希望すら叶わなかった!」


 いつまでも顔を見せようとしない魔女の前に立ち上がり、声を上げる。


「この世界に生まれた時から叶わない希望を押し殺して私は必死に「意地悪なシンデレラの姉」を演じてきた!」


 留めていた言葉のダムが決壊し、そして遂にその言葉を口にしてしまう。


「私だって、本当は意地悪なシンデレラの姉なんかじゃなくて、()()()()()()()()()()()()!」


 魔女の服をつかんでリオンは叫ぶ。


 この世界に生を受けた時、物語を知った時、自分に与えられた役割を確認した時、この世界で生きていた毎日、一体どれだけたった一つの叶わない願いを抱き続けてきただろう。


「うっ……うっ……」


 魔女の服を掴みながら膝から崩れ落ちそうになる。




 それを魔女の姿をした目の前の人間に片方の腕で優しく支えられた。


「それが……お前の本当の願いなんだな」


「……え?」


 ようやく言葉を発した魔女の声に違和感を抱く。なぜならその声はリオンを今朝馬の姿に変えたあの女の声ではなかった。


「その声……あなた」


 深くかぶっていた帽子をゆっくりと上げる。リオンの視界に映ったのは魔女ではなく()()()だった。



「な……あなたその恰好いったいどういうこと?」


「ずいぶんと泥と木々にまみれて汚れたな」


「ちょっと、私の質問にこたえなさいよ、一体どういう冗談のつもり?」


 グリムは一瞬黙ってリオンを見つめると再び口を開いた。


「その姿……まるで灰に被れた女の子(シンデレラ)のようだ」


「…………っ!?」


 シンデレラという単語にリオンはドキッと胸の鼓動が高まった。


 リオンは困惑するが魔女の姿をしたグリムは問いには答えず、にやりと不敵に笑う。


 そしてわざとらしく先ほどよりも大きな声で言葉を放つ。


「かわいそうな灰被りの女の子、意地悪な者たちに邪魔をされて、行きたかった舞踏会にいくことすら叶わない」


 魔女の姿をしたグリムはわざとらしく大げさなジェスチャーで両手を広げて空に向かって叫んだ。


 そこでグリムは言葉を一度区切る。そしてリオンの瞳を見つめてきた。


「その不条理、この魔法使いが覆してみせよう」


「何を……言っているの?」


 状況が理解できずにリオンは戸惑う。


「そのわざとらしい口調は何、どうして魔女の格好をしているの?」


「魔女はずっとひたむきに努力するシンデレラの願いを叶えるのが仕事だろう?」


 グリムは質問に答えようとせず、また意地悪そうに魔女を演じるように笑う。


「それがなんだっていうのよ、いい加減私の質問に答えなさい」


「……俺はこの世界でひたむきに努力するお前を見てきた」


「……え?」


 今までのわざとらしい口調ではなく、リオンの事をじっとみつめて本来の口調で言葉を向けられた。


「見ず知らずの男に手を差し伸べた一人の女性を、町の人たちに役割を与えて生きがいを作った意地悪なシンデレラの姉を、シンデレラの幸せを心から願っていたリオンを……ずっと俺は見てきた」


「な……何よ」


 先ほど魔女と相対した時とは違う、挑発ではなく誠実に透き通るような言葉によってリオンは顔に熱が帯びるのを感じた。


 グリムにいきなり自身の事についてここまで語られるとは思っていなかった。


「そんなシンデレラの願いを俺が叶えよう」


 そう言うとグリムは懐から取り出した杖をリオンにむけて魔法を放つ。


 髪についていた木々などは全て装飾品にかわり、泥にまみれて汚れていたドレスはきれいな深紅のドレスに変わる。


「え……え……?」


 リオンは状況を呑み込めずにいた。


「後は……足元を失礼」


 最後にグリムは深紅のガラスの靴をリオンの足にゆっくりと当てはめた。


「ガラスの靴はシンデレラにとって大切なものだ......さぁ、準備は整った。これで心置きなく舞踏会に参加できるだろう?」


 魔女の姿をしたグリムはお城の方に手を向ける。舞踏会への準備は整ったといった様子だった。


「……だめよ」


 ギリギリのところでリオンは踏みとどまる。


「既に本物のシンデレラと王子様が踊っているわ」


 今あの場所を、最高の舞踏会に水を差すわけにはいかなかった。


「今更私が現れても場をかき乱すだけよ」


「…………」


 グリムは無言のまま、先ほどまでのわざとらしい演技をぴたりと止めてしまう。


「ありがとうグリム、ここまでしてくれて。一瞬だけど、まるで私もシンデレラになれたみたいで嬉しかったわ」


 リオンはそう言ってゆっくりとガラスの靴を脱ごうとする。


 夢から覚める時だとそう思った。

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