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第38話 魔女の企み

「ありがとうございます」


 お城の庭園についたシンデレラは馬車から降りて魔女にお礼を言う。


「舞踏会は既に始まっているみたいだね」


「私が参加できること自体奇跡なのです。これ以上望むことはありません」


「そうかい、そうかい」


 魔女はにこりと笑う。


「お姉さまも既に踊っているのかな」


 お城の階段の先、明かりに満ちた会場のほうを見てシンデレラはつぶやいた。


「……いいかいシンデレラ、あなたにかけた魔法は12時を過ぎると解けてしまう、必ず時計の針が12時を回る前までに帰ってくるんだよ?」


「わかりました!」


 シンデレラはそう言うと階段を駆け上がっていく。見えなくなるところまで見届けた魔女は振り返ると空になった馬車に戻り、再び台車の上に乗る。


 ここまでシンデレラを導いた白馬に再び鞭を打ちこみ、来た道とは異なる森の方向へと向かわせる。


 しかし、白馬はその場から動こうとはしなかった。


「なんだい、シンデレラの物語に12時を過ぎたお姫様を魔女達が待っているなんて展開はないんだよ。それとも()()()舞踏会に行きたかったのかい?」


 魔女は笑う。今までシンデレラに向けていた優しい笑みとは違う、歪んだ口元だった。


「さあ、いつまでもここにいるんじゃない。足を走らせな」


 全身を鞭で強く叩きつける。ここまでの道のりでは暗闇によってはっきりと見えていなかったが、お城の明るさで全身がはっきりと映った白馬の体は至る所が痣になっていた。


 白馬は言われた通りに森に向けて力なく馬車を引き始めた。


 ◇



 お城から離れてしばらく時が過ぎた森の中で魔女は馬の歩みを止めさせる。


「ここら辺で大丈夫だね」


 魔女は一息吐くと馬を制止させて台車から降りた。


「さて、そろそろ魔法が解けるころ合いかね」


 魔女がそう言うと魔女自身と馬が突然光を放ち始め、美しい貴婦人の姿をしていた魔女は老婆の姿に、白馬は形を変え人型に変わっていった。


「気分はどうだい、意地悪なシンデレラの姉……いや()()()って呼んだほうがいいのかい?」


 魔法が解けて人間の姿に戻った女性にむかって魔女は名前を呼んだ。



 魔女によって姿を馬に変えられていたリオンは裸の体を両手で隠すようにしてその場に座り込む。何度もぬかるんだ道を進んだ彼女の肌は泥まみれになっていた。


 彼女の緋色の髪は道中の木々にぶつかり木の葉や枝がささって汚れていた。

 加えて全身は馬の時に叩かれたせいで青色の痣や内出血によりひどく傷ついていた。


(いったいどうしてこんなことに……)


 リオンは傷だらけになった自分の体を震わせながら心の中で声を上げた。



 ◇◇◇



 それは今朝方の出来事だった。朝一に仕立て屋に向かったリオンは道端で突然何者かによって背後から後頭部を殴られて気を失った。


 意識を取り戻した時には見知らぬ家の中で監禁され、身動きは取れない状態になっていた。


「ようやくお目覚めかい」


 目の前に一人の老婆が現れた。黒装束のようなドレスを纏った姿を見てリオンは一目で彼女がこの世界の魔女であることを把握した。


「まったく、よくないねぇ、ああよくないよ」


 魔女とリオンは初対面のはずだが、目の前の老婆は明らかにリオンに対して嫌悪感を抱いている事はその様子から伝わってきた。


「これはいったいどういうこと?」


 リオンの理解が追い付かず、質問をする。しかし帰ってきたのは返答ではなく薙ぎ払うように勢いよく振られた魔女の平手打ちだった。


「あんたに質問の権利は無いんだよ」


 キッと睨むリオンに対して魔女はそのまま会話を始めた。


「今夜は舞踏会の当日だね、魔女は当然シンデレラを舞踏会へと連れていく、そのための準備をしなければいけない」


 大きなジェスチャーでわざとらしく準備をするような仕草をしつつ魔女は話を続ける。


 そう、今日は舞踏会の当日だった。


 そんな大切な日に意地悪なシンデレラの姉という役割を持った人間を監禁する理由が思い浮かばない。


「シンデレラの為のドレス、これは魔法で彼女の着ているボロ服を変えてしまえばいい」


 そう言いながら魔女は近くに置いてあった汚れた雑巾に杖で魔法をかける。魔法の光を浴びた雑巾はたちまち綺麗な人形サイズのドレスに早変わりした。


 その変化に驚いたリオンの様子をみて満足げになった魔女は一人で話を進めていく。


「シンデレラを乗せる馬車、それは魔法でかぼちゃを変えればいいさね」


 今度は魔女が手の平に持っていた小さなサイズのかぼちゃに魔法をかける。するとたちまち小さい馬車へと姿を変えた。


「そして最後にこの馬車をひくための馬、それは……」


 今度は何故か話の途中でぴたりと言葉と動きをやめてしまう。


 その様子を不思議に思ったリオンが老婆の顔を見るとそこで二人の目が合った。

 そして怪しげに魔女はにやりと笑った。


「あぁ、困ったね、私としたことが馬車をひくための馬に変えるものを用意することを忘れてしまった」


 わざとらしく大げさに魔女は声を出した。


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