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第31話 抗えない運命

「シンデレラの物語に生まれた女性なら誰しもが思うはずだ『もし私が主人公(シンデレラ)だったら』とな」


「…………」


 グリムはドワーフのセリフとリオンの表情を見て何も答えることはできなかった。



「俺は「白紙の頁」を持った人間が嫌いだ」


 リオンに気づかれないように扉を出た後、再び夜空を眺めながらドワーフの男は口を開く。


「ある「白紙の頁」持ちの人間は俺にこう言った『与えられた役割を持っているものは幸せ者だ』とな」


「白紙の頁」持ちはめったに存在しない。ドワーフの男の言う「白紙の頁」の所有者はお城の王子様にも出会った人物と同一かもしれない。


「俺には『役割を与えられなかった人間』の気持ちは分からない」


 だけどな、とドワーフは言葉を続ける。


「『役割を与えられた人間』の気持ちは分かる」


 役割を与えられた「頁」を持つ者の気持ちは同じ境遇の彼ならば理解することが出来ると彼は言っているのだ。


「お前はどうなんだ?」


 ドワーフの男は真剣なまなざしでグリムの目をもう一度見る。


「俺は……」


「あの子に名前を与えたお前なら出来る事が……この世界で役割を持たないお前にしか出来ない事があるんじゃないのか?」


「俺にしかできない事……?」


 グリムは瞳を閉じて自身の過去を振り返る。


 今までいくつもの世界でグリムは与えられた役割に抗う者を見てきた。


 ドワーフの男が言ったように与えられた役割のない……「頁」すら持っていないグリムはそんな人たちの願いを叶えようと何度もあがき続けていた。


 しかし、一度として与えられた「運命」から彼らを解き放つことは叶わなかった。


 それどころか、自身が関わったことでより最悪の形へと世界を導いてしまった……しまい続けていた。



『グリム、あなたは()()の人間よ』



 グリムが育った最初の世界で言われたその言葉は、今も心に深く刻みこまれていた。



『グリム・ワースト、変な名前ね?』



 この世界でリオンに名前を名乗った時に言われた台詞を思い出す。


 生まれた時、グリムに名前はなかった。グリムという名前自体、ある人間から貰った名前だった。


 今も記憶に残っている大切な人からの最後の言葉を忘れないようにする為に、最悪の意味を持つワーストという言葉を()()()()()()()()()


「俺は……これ以上この世界に関わらないほうがいい」


「なぜだ?」


 この世界で馬の命を奪った時点で本当はすぐにでもこの世界から離れたかった。

 これ以上この世界に関わることでリオン達が積み上げてきた物語を壊してしまうことが怖かった。


「本来この世界にいなかった人間はその存在自体が異分子だ。そんな俺が動いて物語をかき乱せば世界は崩壊してしまう」


「その言い方、まるで自身が経験したかのような言い草だな」


 断言したグリムに対してドワーフの男は何か感づいたようだった。


「お前の過去がどうだったかは俺には当然知りえない、けどな……」


 先程と同じような言い回しでドワーフの男は言葉を重なる。


「今の彼女を救える可能性があるのは役割を持たないお前だけだ」


 ドワーフの男は時折ただの住人ではないような発言をすることがある。今の彼はまるでこの世界の何かを知っているような、動かしているような気配さえ感じられた。


「あんたは一体何者なんだ?」


「……俺はただのしがない鍛冶師さ」


 ドワーフのそれだけ言うとそのまま鍛冶場へと戻っていった。


「…………」


 グリムは再び外に出て夜空を見上げた。星の一つ一つがはっきり見えるほどきれいな空だった。


 この世界は順調に進んでいる。二日後には舞踏会が開かれ、三日後にはシンデレラの物語は幕を閉じるだろう。


 誰しもが与えられた役割を演じて、その役割を全うして物語は完結する。


「…………」


 脳裏に浮かんだのは鍛冶場で見たリオンの顔だった。その顔は今までのどの表情とも違っていた。そう、あの顔はきっと……



「なーに辛気臭い顔をしているのよ」


 突然横から声が聞こえてくる。驚いて声の方を見るとリオンがグリムのすぐ横に立っていた。


「いつからそこにいたんだ」


「ついさっきよ。鍛冶場にあなただけ戻ってこなかったから心ぱ……迷子になったのかと思って探しに来てあげたのよ」


 軽く咳払いをして言葉を訂正する。


「そうか、心配かけてすまなかった」


「別にあなたの事なんて心配してないわよ!」


 グリムの言葉に対してリオンは慌てながら大きな声で返す。


「……やけに素直じゃない、何かあったの?」


 グリムの様子に違和感を持ったらしく、落ち着きを取り戻して問いかけてくる。


「…………」


 グリムは無言でリオンの顔を見る。


「な、何よ。私の顔に何かついてる?」


 まじまじと見つけられて恥ずかしいのか顔を少し紅潮させて目をそらす。その様子はガラスの靴を眺めていた時とは違う、グリムの知るいつものリオンそのものだった。


「なぁ、お前は……」


シンデレラに憧れているのか、と言いかけて言葉を止める。あの顔を見てしまったグリムはその質問の答えを既に知っていた。


「私が何かしら?」


「……リオンは舞踏会を楽しみにしているのか?」


 とっさにごまかした質問の内容はこれもまた分かり切ったようなものになってしまった。リオンはグリムの問いに呆れるようにため息を吐きながら答える。


「当たり前じゃない、「意地悪なシンデレラの姉」にとって最高の晴れ舞台は舞踏会で踊る所よ?」


 その為に今までずっとダンスの練習をしていたのだから、とリオンは言葉を付け足す。


「そう……だったな」


「なによ、あなた本当に大丈夫?」


 歯切れの悪いグリムに対してリオンは心配そうに顔を覗く。


「とにかく、見てなさい。私は明後日を最高の舞踏会にしてみせるわ」


 リオンは誇らしげに笑いながら話す。


「俺は舞踏会に招待されていないからな」


「そんなの、王子様に言ってあなたも参加すればいいじゃない」


 リオンはさらりと言うが、物語の根幹的な場面に自分が姿を見せることは流石に避けたかった。


「悪いが、やめとくよ」


「そう……」


 リオンは一瞬気落ちしたように視線を下げるが、すぐに顔を上げてグリムの手を掴むと鍛冶場へと歩き始める。


「お、おい」


「召使に命令よ、治ったガラスの靴をあなたがシンデレラに届けなさい」


「昨日も言ったが俺はお前の召使いじゃない」


 グリムの返しにリオンはふふっと笑う。


「よかった、まだ言い返す気力はあるみたいね」


 その言葉を聞いてグリムはリオンに何度目かの気遣いを受けていた事を理解する。


 ほんの少し前まで自分自身に与えられた役割に対して葛藤していたリオンが今は他人を思いやっている。その事実にグリムは言葉が出なかった。


「私があの子にガラスの靴を返すわけにはいかないからお願いね」


 リオンは言い終えると掴んでいた手を離して一人家の外に出て行こうとする。


「…………」


 物語に主人公は基本的に一人しか存在しない。シンデレラの役割を与えられた少女も優しい女の子であり主役にふさわしかった……それは否定しない。


 けれどもなぜ今目の前にいる彼女は「意地悪なシンデレラの姉」という役割を与えられているのだろうか。


 鍛冶場で一人、ガラスの靴を眺めていた彼女の顔はグリムが何度も経験してきた抗えない運命を突き付けられた時の顔そのものだった。

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