第26話 かみ留め
「それは……リオンを、シンデレラの姉を助けるためだ」
「あいつを?」
グリム自身、本当は他者から「頁」を抜き取る行為をするつもりはなかった。しかしあの場で暴走する馬から彼女を救うにはこれ以外の方法はなかった。
グリムはつい先ほど起きた状況について詳細に話した。すべての話を聞き終える頃にはドワーフの男は銃を下していた。
「馬はその後どうなった?」
「……最後は消えたよ」
「そうか」
過去にこの能力を使って他人の「頁」を抜き取ったことがあった。抜き取られた人間はリオン達を襲った馬のように灰になって消えてしまった。「頁」が燃えて焼失する様子とは異なるが、それでも命を奪っていることに変わりはない。他者を殺す行為と同義であると捉えていたグリムはこの能力の使用を極力避けていた。
「その「頁」はどうなる?」
「……しばらくすると所有者と同じように灰になって消えるはずだ」
長時間本来の所有者から離れると「頁」はやがて跡形もなくなる。
「頁」が消えてしまう理由は世界から生を受けた人間と「頁」はどちらも互いに共存している存在であり、片方だけではその形を保つことが出来ないから、とグリムは考えていた。
どこかで「頁」を手放して誰かに見られたら問題になりかねない。グリムはその事態を避けるために「頁」が消えるまで胸元に隠しておくつもりだった。
「……やはり「頁」だけでは成り立たないか」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
ドワーフの男は何かを知っていそうな意味深な反応を見せると銃を近くに立てかけ、隣に置いてある戸棚から何かを取り出し、そのままグリムの方へ放り投げた。
「これは?」
弧を描いて投げられたものを掴み取る。手に取って確認すると金色の小さなアクセサリーだった。
「なんてことは無い。俺が作った髪留めだ」
武器職人を名乗っていたドワーフの男がなぜこのようなものを作ったのか問いかけたが、リオンの影響であることを察したグリムは機転を利かせる。
「これをあいつに渡せばいいのか?」
「いや、それはお前用だ」
「俺に?」
想定外の回答に思わず聞き返してしまう。
「嫌なら捨ててくれても構わない」
ドワーフの男はぶっきらぼうに答えた。髪留めはよく見ると特殊な形状をしていた。並大抵の技術では作れそうにない技巧の品と呼べそうな品物だった。
「いや、ありがたくいただくよ」
職人が自身の為にと渡してきた作品を無碍にするわけにもいかないと思ったグリムは素直にそれを受け取った。
「髪留めなんてつけたことはないが……」
「言っておくがそれはただの髪留めじゃない」
「それはどういう意味……」
言葉の途中で左手に持っていた髪留めと右手に持っていた「頁」が突然淡い光を放ち始め、髪留めの方に右手が引っ張られる。
「「頁」を手放せ、じゃないとケガするぞ」
「……っ」
言われた通りに右手の「頁」を放すとあっという間に「頁」が髪留めに吸収された。
「何が起きた……この髪留めは一体?」
「言葉遊びの類だな、それは髪留めであり、文字通り紙を留めるものだ」
「紙を留めるもの……?」
原理は分からないが言葉が二つの意味を持っているのは理解することが出来た。
「これはあんたが作ったのか?」
「そうだ」
「どうしてこんなものを作れる?」
普通の鍛冶師が世界の理に関わるようなものを取り扱えるだけでもありえない。
それだけではなかった。彼は会話の中で所有者から離れた「頁」が消えてなくなることを知っていたような口ぶりだった。
「その問いに対する答えはお前が「頁」を持たない理由と同じになるな」
「俺と同じ……」
ドワーフの男はこの髪留めを作ることは出来ても、どうして作れるのか理由は分からないのだ。
「その髪留めなら数枚は「頁」を留められる」
髪留めをよく見てみると馬の役割が書かれた「頁」は髪留めの穴の開いた部分の一つに白色の宝石のような形になって収まっていた。残りの空いている穴の個所は3つ。後3枚までなら「頁」はなくならずに済むという事だろう。
「なぜこれを俺に渡した?」
「……言っただろう、捨てても構わないと」
ドワーフの男はそういうと向きを変えて鍛冶場の方へと歩いていく。
「その髪留めの使い方はお前次第だ」
鍛冶場の扉を開けると同時にこちらを向いて口を開いた。
「本当にお前が他人の「頁」に触れられるのなら……それはきっとあいつを救える力になれる」
「お、おい……あいつって誰の事だ?」
それだけ言い終えるとドワーフの男は奥の鍛冶場に入り、扉を閉めてしまう。
これ以上聞いても彼は何も答えてくれそうになかった。
「…………」
グリムは大人しく宿屋へと戻ることにした。




