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第20話 主役

「じょ、冗談でもそんなこと言うなよ!」


 静寂を破り細柄な男は大声で怒鳴りつける。その声を聴いた大男はびくりと体を震わせて相手側に顔を向けた。


「なんだよ、「死神」なんてただの噂話だろ?まさかお前信じているのか?」


「そ、それは……」


 細柄な男は一瞬言いよどむ。驚かされたのが気に食わなかったのか、大男は不機嫌そうな態度を強くする。


「人々から「頁」を()()()()()()()()()()存在なんているわけがねぇだろ!」


 大男の声が店内に響き渡る。


「そ、それでも万が一そんな奴が現れたらどうするんだよ。世界が滅んだら俺たちは全員燃えて死ぬんだぞ」


 細柄な男は怯えたような声で言葉を返す。


「だからそんな存在いるわけねぇだろ!自分以外には触れられない「頁」をどうやって奪うんだ?」


 世界から与えられた「頁」はその所有者以外触れることが出来ない……それは物語の住人が知る世界のことわりの一つである。大男の乱雑な言葉に対して細柄な男は黙ってしまう。


「「死神」が本当にいるのなら俺の「頁」を奪ってほしいぐらいだぜ」


 大男は皮肉に笑いながら両手を大きく広げて煽るような仕草を取る。店内の雰囲気はつい先ほどまでの穏やかな酒場とは対極的に悪くなっていた。


「…………」


 グリムは視線をカウンターに戻し、お酒を飲み直そうとした。


「ちょっといいかしら?」


 聞きなれた女性の声が先ほどまで場を乱していた大男の近くから聞こえてくる。

 グリムが横を見るといつの間にかリオンの姿はいなくなっており、テーブル席に座っている大男の目の前に彼女は立っていた。


「あー?誰だお前は?」


「ばか、おまえ知らないのか、彼女はこの世界の中でも役をもった……」


「私は……意地悪なシンデレラの姉よ」


 リオンは細柄な男が彼女について説明しようとした途中で手を伸ばして制する。そして大男の問いに対して自分自身でその存在を名乗った。


「なんだよ、まともな役割を与えられた人間か、そんな奴でも酒場に来るんだな」


 最初は苛立ちを隠せていない大男だったが、突然にやりと笑う。


「いや、「意地悪なシンデレラの姉」か、なるほど……俺よりもある意味()()()()()()()()()を与えられた人間だな」


 物語の中で特に明確な役割を持たない人間よりも損な役割を与えられたと大男は判断したのか、自分よりも下の人間を見て安堵したような態度に急変していく。


「嬢ちゃんも自分に与えられた役割が嫌になってお酒を飲みに来たんだろ、お互い貧乏くじを引いた仲間だ、こっちの席で飲みなおそうぜ!」


 仲間を見つけたと思ったのか、機嫌のよくなった大男は快活に笑いながらリオンを誘う。お酒のせいもあるが大男は相当に情緒が不安定になっているように見えた。


「あなたとは違うわ」


「……あ?」


 しかしリオンはばっさりと否定した。それを聞いた大男の笑いが止まる。


 くるりと大男とは反対側をむくとリオンはそのまま歩き始め、机もイスも置かれていない空いた場所にたどり着く。


「ここは酒場よ、お酒は皆で楽しく飲まなくちゃ」


 そう言うとリオンは店主に一瞬視線を送る。それを受け取った店主は頷くとカウンターの下にかがんでごそごそと何かを取り出そうとした。


 大男が言葉を発しようと立ち上がった瞬間、カウンターから軽快なリズムの音楽が流れてくる。音源は店主が弾き始めたギターだった。


「それじゃ始めるわよ」


 スカートの丈の端を縛り、ひざ元まで足が見える姿になったリオンは奏でられた音楽に合わせて踊り始めた。



    ◇



「素敵……」


 店内にいた一人の女性がリオンを見てぽつりとつぶやく声が聞こえた。彼女だけではない、店内にいる全ての人々がお酒を飲むことを忘れて赤い髪をなびかせて可憐に踊るシンデレラの姉の姿に見入っていた。


 グリムはリオンの稽古場の様子を見ていたが、今目の前で踊っている彼女の動きはそのどれとも違っていた。今の彼女の姿は舞踏会で披露する淑女ではなく、店主のギターが奏でる情熱的な曲調に合わせて一人軽快なステップで優艶に舞う華麗な踊り子のようだった。



「主人公」という言葉がある。それは物語の中でただ一人だけに与えられる役割である。皆の憧れの存在であり、決して望んで与えられるものではない。


 しかし今この場で皆の視線を集めて踊っている彼女は誰が見ても「主人公」と呼ぶにふさわしかった。


「……そうか」


 その思考にたどり着いたグリムはなぜ彼女がいきなり踊り始めたのか理解した。これは大男に対してどんな役割を与えられたとしてもその人間の価値は自分で決めるというリオンなりの回答なのだ。


 言葉ではなくその姿で、意地悪なシンデレラの姉としてではなく、一人の女性としての存在をこの世界に示していた。



 音楽のペースが一段と加速し、ラストスパートに向けてリオンの動きはさらに激しさを増していく。決して楽な運動量ではない事は見ている誰もが感じ取れたが、当のリオンの表情には一切の疲れをみせず、気力に満ちたその顔は輝いていた。


 ギターの最後の音が鳴り終えると同時にリオンは決めポーズで締めくくった。


 すぐに店内のそこら中から拍手と歓声が上がる。先ほど騒ぎ立てた大男とリオンの視線が合うと大男は深くお辞儀をした後に両手で大きく拍手をした。彼女の思いは伝わったのだろう。


 店内を軽く見渡した彼女は軽く会釈をするとゆっくりとグリムの方へと向かって歩き、再び隣の席に座った。

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