第135話 7人の小人たち
この世界に起きた奇跡はたった一つだけ。それ以外のものは結果からみれば奇跡のように思えるかもしれないが、一つ一つの紡がれた線が交わり起きた偶然であり必然の産物である。
◇◇◇
グリムはまず初めに城ではなく生まれ育った小人の住んでいる小屋を目指した。
ある程度進むと見覚えのある風景が次々と現れ始めた。
火をおこすために薪をよく拾いに行った雑木林、水を汲みに行った清流の川、白雪姫と共によく遊んだ小人が作ったブランコのつけられた木……
「まさかここまで同じなのか……」
木に下げられたブランコまで記憶の中にある白雪姫の世界と同じ情景にグリムは驚きを隠せなかった。
「誰だー!」
突然木の裏側から声が聞こえてくる。グリムが裏に回って確認するとそこには膝にまでみたない小さな小人が二人グリムを指さして声を上げていた。
「見たことないやつだ!」
「おまえ誰だ!」
小人たちはおびえた様子でグリムを見ていた。
「俺は……外の世界からやってきた人間だ」
「外の世界?」
小人の片方が首をかしげる。もう片方の小人は最初に見た時ほどおびえた様子はなく、今度は急にグリムに近づくとまじまじとグリムを観察し始めた。
「んー?」
「おい、もしかするとこの人って……」
「ほんとだ、この人は……」
小人が互いに顔を眺めて何かに納得したような顔になる。その理由はすぐに彼らの口から語られた。
「「王子様だ!」」
「王子様……?」
グリムは小人たちに聞き返す。
「よかった、噂は本当だったんだ!」
「これで僕たちは救われる!」
二人は肩を抱き合ってぴょんぴょんとはねて喜びだす。
「待ってくれ、何を言っているんだ?」
理解の追いつかないグリムは小人に尋ねる。
「あなたは白雪姫を助ける王子様なんでしょ!」
「こんなに整った顔の人だからそうにきまってる!」
「悪いが、俺は外から来た人間だ、王子様では……」
言い終える前に境界線を越える前にローズから1枚の「頁」を受け取り当てはめたことを思い出す。騎士から受け取った「頁」に書かれた役割が王子様ならば小人たちの言い分も理解できてしまう。
「一応、念のために言っておくが俺は外から来た人間だ」
フォローを入れるように小人たちから続けて想像を超える内容が出てくる。
「白雪姫も外から来た人が担ってくれたから大丈夫!」
「……何?」
小人の言った言葉に対して思わず聞き返す。
「この世界はある日お姫様と王子様が消えたんだ」
「でも少し前に外から白雪姫が来てくれたんだ!」
「とっても美人だったよ」
小人たちは和気あいあいと話す。
「この世界では白雪姫と王子様なんだな……」
二人に聞こえないようにぽそりとグリムはつぶやく。
生まれ育った世界では王妃と王子様が消えていた。白雪姫の世界では誰かが消えてしまうのが常なのかと勘ぐってしまうほどに白雪姫の物語では人々が消えすぎていた。
「王子様はこの後予定あるのー?」
「……それは」
ないといえば嘘になる。この世界に来た目的はサンドリオンに会う為だった。
「サンドリオンという赤い髪の女性を知ってるか?」
「サンドリオン?」
「赤い髪の女性は見てないなー」
目の前の小人たちは頭にクエスチョンマークを浮かべる。探し相手の事を知っていそうになかった。
「もしよかったらうちへ来る?」
小人の片方がグリムに提案してくる。小人の家といえばこの世界の中でも重要な場所である。目の前の小人たちが知らないだけでもしかしたら彼女がこの時に訪れている可能性がある。
「案内してもらってもいいか」
「おっけー!」
「王子様をごあんないー!」
小人たちははしゃぎながら歩き始めた。
小人といえど年齢は大きく異なる。目の前の二人は小人の中でも幼い印象を受けた。
◇
二人の小人に導かれてグリムは一つの小屋にたどり着く。
「とうちゃーく」
「ついたよー」
グリムは小屋の全体を眺める。お城の形や先ほど見かけたブランコからうすうす感じていたグリムではあったが、小人たちの家もその形は生まれ育った白雪姫の世界と瓜二つだった。
「あ、シロだー」
「おーいシロ!」
「シロ?」
小人たちが大声で叫ぶ。叫んだ先には別の小人が切り株に座っていた。
「僕たちは名前がないだろー?」
「だからそれぞれの被っている帽子の色で名前を呼んでいるんだ」
二人の小人は説明をしてくれる。小人たちはそれぞれ異なる色の帽子をかぶっている。
目の前の二人は赤色と緑色、声をかけた小人は白色の帽子を身に着けていた。
「…………」
「ん?」
シロと呼ばれた小人はこちらを見るとぴたりと動きを止めた。
「…………」
口を開いたので何かを喋るのかと思いきや白色の帽子を被った小人は猛スピードで切り株から立ち上がり遠くへ走り去っていった。
「…………なんだったんだ?」
「シロは変わってるやつでなー」
緑色帽子の小人が笑いながら話す。
「ほかの小人と比べてよくわからないんだよなー」
赤色帽子の小人も同じような意見を述べた。
「いったん王子様をほかのみんなにも紹介しようー」
「こっちだよー」
小人たちに連れられて家の中に入る。家の中のつくりまで以前の白雪姫の世界と同じだった。
「ただいまー、見てみて!」
「ただいまー、聞いて聞いて!」
二人の元気な声を聴いて奥の方から別の小人たちがやってくる。
「どうしたんだ、二人とも?」
「何かあったのかい?」
赤色と緑色の小人の声を聴いて現れた紫と黄色の帽子を被った小人たちはグリムを見るなり二人と同じようなリアクションを始めた。
「もしかして王子様!?」
「王子様だー!」
グリムがしゃべるよりも際に紫と黄色の帽子の小人ははしゃぎ始めた。
「うるさいぞ4人とも!」
家の奥から荒らげた声が聞こえてくる。呼ばれた4人の小人はびくりと体を軽く跳ね上げて声のした方を見る。視線の先には黒色の帽子を被った小人が腕を組んで立っていた。
「まったくこの世界は終わりを迎えるというのに何をはしゃいでいるんだ」
黒色防止の小人は深いため息を吐いた。その反応に対いて4人の小人たちはグリムを引き連れて彼の前にまで近づいた。
「王子様も見つかったんだ!」
「これで僕たちは救われるよ」
「……何?」
黒色の帽子の小人がグリムの顔を見る。ほかの小人に比べると風格のようなものがあり、年齢層が明らかに他の小人よりも上のようにみえた。
「……確かに王子様に似ているな」
「でしょー!」
「だが、また外から来た人間なんだろ?」
黒色の帽子の小人が喜んでいる小人たちに水を差すように言葉を告げた。
「それはそうだけど……でも絶対王子様だよ」
「……そうだといいな」
黒色の帽子の小人はそれだけ言うと奥の部屋へと戻っていった。グリムは拒絶されているわけではないが、歓迎されているようでもなかった。
「相変わらずクロは冷めてるなー」
「もっと喜べばいいのにねー」
他の小人たちは対して気にも留めずに気楽な会話をしていた。黒色の帽子の小人とは対照的な反応を見せた。
「王子様、よかったらこの後薪運びを手伝ってくれないかなー?」
「王子様は役割があるからだめよ!」
緑色の帽子を被った小人がグリムに話しかけてくる。それに対して赤色の帽子の小人が牽制する。
「別に構わない、その場所に案内してくれるか」
グリムの言葉を聞いて小人は顔を輝かせてグリムの手を取って外に出る。
「僕たちだけだと薪を運ぶのも一苦労なんだー」
家を出た緑の小人は歩きながらそう言った。




