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第132話 グリムと少女

「…………」


 この世界にこれ以上いることを望まれていないのはグリムもわかりきっていた。それでもこのまま少女を見過ごすことができなかった。


「…………」


 魔法が解けた厩舎にはかまどもなく、訪れた最初の時のように冷え切った室内で動物たちが身を寄せ合っていた。


 魔女の「頁」を利用して魔法を使えば昨日と同じようにこの場所で暖を取ることはできる。最低限の防寒具を身に着けているとはいえ、グリムにも雪の降るこの世界の寒さはこたえるものがあった。


「…………」


 それでもグリムは魔法を使う気になれなかった。頭の中にこだまするのはローズの言った言葉だった。



『あなたは奪うことしか出来ない』



 言葉はグリムの心に深く残っていた。それは好きではない相手に言われたからというよりもグリム自身が自覚していた事を指摘されたからだった。


 いばら姫の世界では最終的にマロリーの能力によってシツジに12番目の魔法使いの役割が与えられたことによって世界は無事に進むことができた。


 いばら姫の願いを叶えることはできず、さらにはサンドリオンにも迷いが生まれてグリムと別れる形になった。


 もしも……もしもグリムが他者から能力を奪うものではなかったら……マロリーのように誰かの為に役割を与えるような能力だったらとそう考えてしまった。


 いばら姫の願いをもっと別の形でかなえられたかもしれない。サンドリオンとも意見が分かれることはなかったかもしれない……そう考えてしまうのである。


「俺は……何のために生まれてきた」


 一度はシンデレラの世界でリオンに生きる意味を教えてもらった。しかし、その思いも今この時には揺らいでいた。シンデレラの世界では意地悪なシンデレラの姉の願いを、赤ずきんの世界では赤ずきんの願いを叶えることはできた。


 しかしその代償としてグリムは二人の役割を、命を奪った事実に変わりはなかった。


 アーサー王伝説の世界では自ら役割を受け入れて決意したサンドリオンから役割を奪った。


 いばら姫の世界では結局何もできないまま世界から離れた。


 そして今このマッチ売りの少女の世界でグリムは死の運命を与えられた少女を救うことは不可能だった。


「……俺は……何のために」


 ガタっと厩舎の扉が開く音が聞こえる。グリムは入口の方を見るとそこには頭に雪を乗せたマッチ売りの少女がそこにいた。


「…………こ、こんばんは」


 マッチ売りの少女はグリムと目が合うと申し訳なさそうでいて恥ずかしそうな表情を浮かべながら挨拶をする。


「ど、どうしてここに……」


 グリムは慌てて立ち上がる。


「えっと……お父さんに叱られました、お前がこんな短時間で売り切れるわけがいだろ……って」


 少女は手で神についた雪を払いながら苦笑いを浮かべた。その手に持ったかごには再び大量のマッチ箱がぎっしりと入っていた。


「そんな……」


 いくらなんでも理不尽だとグリムは思った。これでは彼女はどんなに努力しても報われない。


「……お父さんも、うすうす思っているんだと思います、私が……」


 少女はそこで一息入れる。グリムは彼女が次に何を言うのかわかってしまう。


「私が……死ぬことを」


「…………!」


 少女の口からでた言葉にグリムは声にならない感情が爆発するのを感じた。


「お父さんだけじゃない、この世界の人々も私の死を望んでいるんでいるんですよね?」


「それは……」


 嘘でも違うといえたらよかった。しかしグリムは言葉に詰まってしまった。


「それがマッチ売りの少女に与えられた役割だから……私が死ななければこの世界の人々は燃えてなくなってしまうから」


「…………」


 10歳にも満たない少女が口にしている現実にグリムは何も答えられなくなってしまう。


「グリムさん……もしよかったら少しだけお話しませんか?」


「…………構わない」


 何か彼女のためにできるのならグリムは協力を惜しむつもりはなかった。


「良かった」


 少女はにこりと笑うとグリムのそばに寄ってくる。


「今、魔法を使って……」


「いいえ、もしよければこれで」


 グリムの手を少女は握って動きを制した。少女の手はとても冷たく、近くで顔を見ると先ほども確認できたあざがはっきりと残っていた。


 少女は動きを止めたグリムの横でかごに入っていたマッチをつけた。


かまどほど温かくはなりませんが……」


 少女は無言で入口の方を見た。その様子からグリムは少女が他人の気配を気にしてグリムに魔法を使わせないように配慮していたのだと理解する。


「……あったかいな」


 少女の手のもとで照らされたマッチにグリムは手を近づけてそうつぶやく。少女はその言葉を聞いてえへへとうれしそうな笑顔を浮かべた。


「私の生まれについて話してもいいですか?」


「あぁ」


 グリムが頷いたのを見て少女はそれではと消えたマッチを置いて新しいマッチに火をつけなおすと語り始めた。


「この世界と私が生まれたのは……2年ほど前でした」


 いばら姫とは異なり、彼女は赤ん坊のころから生まれたわけではなかった。


「生まれて私に与えられた役割を認識したその日から私は毎日マッチを売り続けました」


「ま、待ってくれ、そうなると君は今日までの2年間ずっとマッチを売り続けていたのか?」


 少女の言葉をグリムは止める。少女が告げた内容が事実ならばとんでもないことである。


「はい、この世界は毎日雪が降り続けています……最初は町の人々もマッチを買ってくれたんですよ」


 少女は笑いながら過去について話す。


「それでも来る日も来る日も変わらない毎日を続けていて……気が付いたらマッチを買ってくれる人は減っていきました」


「…………」


「ある日私が家に帰って寝床についたとき、聞こえてきたのです、この世界が完結しないのは《《私が生きてるから》》じゃないかと」


「…………っ!」


 少女の言葉と同時に火が消える。箱の中身が尽きたのを確認した少女は新しい箱からマッチを問いだして火をつける。


「私が死んだらこの世界は完結する……私が死ねばきっと皆は喜んでくれる」


「……違う!」


 グリムは少女の手を握りながら気が付けばそう口走っていた。


「…………」


 少女は最初驚いた様子を見せたがすぐにグリムの目を見て少女とは思えない慈愛に満ちた顔になる。それはシンデレラの世界の一つ前に訪れた世界でも見た聖女の顔と同じだった。


「俺は……俺は君の死を望んでいない」


 グリムが言い返せる嘘偽りのない精一杯の回答だった。


「嬉しいです……私にもまだそんな事を言ってくれる人がいる」


 少女は笑った。この世界にマッチ売りの少女としての役割を与えられた彼女はこの先の結末は死以外なかった。そんな少女が笑うことにグリムは耐えられなかった。


 今のグリムには何もできなかった。グリムにできるのはただ他人から「頁」を奪うだけ。彼女の体から「頁」を取り出しても「頁」を抜き取られた少女は灰になるのはわかりきっていた。


「もしよければ、グリムさんが今まで見てきたものや訪れた世界の出会いについて教えてください」


「…………え?」


 自身の無力さをかみしめていると少女はそんな提案をしてくる。


「私はこの世界しか知りません……グリムさんの事を知りたいのです」


 マッチの火が消える。新しいマッチに火をともした少女はその緑色の目でまっすぐにグリムを見つめていた。


「わかった、まずはシンデレラの世界について話そうか」


 少女は目を輝かせてグリムに体を寄せる。グリムと少女の体は完全に密着し、マッチの明かりを同じ方向から見つめるような姿勢になりながらグリムは少女にこれまでの物語について語り始めた。

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