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第130話 マッチ売りの少女

    ◆◆◆


 『マッチ売りの少女』



 凍えるような冬の雪が降る町の中、一人の少女がマッチを売っていました。


「マッチは……マッチはいりませんか?」


 少女はくる日も来る日もマッチを売り続けました。


「そのマッチをすべて売り切るまで帰ってくるんじゃないよ!」


 父親にそう言われた少女は毎日マッチを売り終えるまで家に帰ることは許されませんでした。


「マッチは……マッチはいりませんか?」


 少女はくる日も来る日もマッチを売り続けました。


 ある日とうとうマッチを売りきることができない日がやってきました。


「このままではおうちに帰れない……」


 少女は必死になってマッチを買ってくれる人を探します。


「危ないよ、お嬢さん!」


「あっ……」


 少女は馬車に惹かれかけます。間一髪のところで少女は馬車から離れます。


「お母さん、こんな所に靴があるよ!」


「まぁ、小さくて可愛らしい靴ね、おうちのツリーに飾りましょう」


「……あ」


 少女の履いていた靴は何も知らない家族に拾われてしまいました。


「マッチは……マッチはいりませんか?」


 はだしになった少女はそれでもマッチを売り続けます。しかし誰も買ってはくれませんでした。


「このままだとお父様に殺されてしまう……」


 マッチを売りきらなければ家に入ることも許されません。少女は途方に暮れて一人路地裏に入ります。


「冷たい……」


 少女は寒さに耐えきれず売り物のマッチの1本に火をともします


「あったかい……」


 マッチのあかりが広がると少女の目の前には突然大きなかまどが出てきます


 少女はかまどで温まろうと手を伸ばしますが、マッチの火が消えると、かまども姿を消してしまいました。


「もう一度……」


 少女はかまどで温まろうとマッチに火をともします。


 今度は目の前に生まれてから食べたことのないようなごちそうが現れました。


 少女は料理に触れようと手を伸ばしますがまたしてもマッチの火が消えるとごちそうはなくなってしまいます。


「もう一度……もう一度だけ……」


 少女は再びマッチに火をともします。今度は亡くなったはずの優しい祖母が現れました。

 祖母に触れようと手を伸ばすと祖母は消えそうになりました


「いやだ、私をおいていかないで!」


 少女は残ったマッチをすべて使って祖母に触れようと手を伸ばしました。


 少女はようやく触れることができました。


「つらかったね……もうあなたは一人じゃないよ」


「……うん!」


 祖母にやさしく抱きしめられた少女は幸せな笑顔を浮かべました。


 次の日町の中で死んでいる一人の少女が見つかりました。あたりには使い切ったマッチがちらばっています。


「かわいそうに、マッチの火で暖をとろうとしていたんだね」


 人々は少女の死を見て悲しみます。それでも夢の中で少女は死の間際、幸せの幻想に包まれていたのを知る者は誰もいませんでした。



    ◆◆◆



「マッチ売りの少女だと……?」


 老人の言葉を聞いてグリムは言葉を失う。マッチ売りの少女とはどんな存在なのか、この世界がどういった物語なのか、彼女がどういう結末を迎えるのかグリムは知っていた。


「それで誰も彼女を救おうとしなかったのか」


 マッチ売りの少女は最後に死ぬことで物語は完結を迎える。この世界にとって彼女は《《死ぬこと》》が与えられた役割なのだ。


 この世界の人々からみると死ぬはずだった少女を救おうとしているグリムという存在が異端である。故に誰もグリムには手を貸さずに決して触れようともしなかった。


「…………っ!」


 グリムは歯を食いしばる。この状況はあの時と同じだった。シンデレラの世界にたどり着く前の世界、聖女ジャンヌダルク物語と。


「お、おいどこへ行くんじゃ!」


 老人の声を無視してグリムは少女を抱いたまま走り始めた。いくあてなどない、ただこの場にいても彼女は死んでしまう。それがグリムは耐えられなかった。


「はぁ……はぁ」


 やみくもに走り続けた先に厩舎を見つける。中を確認すると幸いにも人は誰もおらず、動物たちが体を丸めて暖をとっていた。


「すまない」


 それは動物たちに向けた言葉なのかそれとも少女に向けた言葉なのかグリムはわからなかった。冷え切った少女を動物たちと自分の体温で温めようとする。


 グリムは髪留めから「魔女の頁」を取り出すと自身にあてはめる。近くにあったからのバケツに向けて魔法を放つ。


「かまどになれ」


 光の当たったバケツはたちまち形をかまどへと変える。かまどの中に厩舎の中に大量に敷かれていた干し草を詰めこみ、少女が持っていたマッチを一つ拝借して火をくべる。


 たちまちかまどの中の炎が熱を放ち、冷え切っていた室内の温度が少しずつ温かくなるのを感じた。


「…………ん」


 少女がかすかに声を漏らす。グリムはかまどの火を切らさないように動物たちのそばに少女を置いて藁を集める。


「…………温かい」


 少女は目を覚ました。グリムは安堵する。


「……ここはどこ?あなたはだれ?」


 少女はあたりを見回してグリムに声をかけてくる。


「ここは町の厩舎で、俺の名前はグリム……グリムワーストだ」


「グリム……さん?私はどうしてここに……」


 少女は途中まで言葉を言いかけてはっとした様子をする。

 どうやら自分がどうして気を失っていたのか思い出したようだった。


「いけない……マッチを売りにいかないと!」


 慌てて少女は立ち上がろうとするが、膝からすぐに崩れ落ちた。すでに動く力さえなくなっているようだった。


「無理をするな」


「……でも」


「君の「頁」には今日マッチを売りきることが定められているのか?」


「いえ、そういうわけではないですが……」


「それなら明日になったら売りに行けばいい」


 グリムは少女の頭を優しくなでる。少女はその手を両手でつかむとグリムの目をまじまじと見つめ始めた。


「どうした?」


「……あなたはこの世界の人間ではないのですね?」


 少女の手はとても冷たかった。その瞳からは怯えたような様子を感じた。

 これまでこの世界で少女が受けた仕打ちを考えれば当然だった。


「そうだ、俺は外の世界からやってきた」


「…………」


「外の世界と関わっている間は物語に支障をきたすことはほとんどない、ゆっくりと休め」


「わ……わかりました」


 少女はグリムの言葉を聞くとそっと両手をグリムから離して再び動物たちのもとに身を寄せた。


「お……おやすみなさい」


「おやすみ」


 少女に言葉を返すと嬉しそうに微笑み、そしてすぐに彼女は眠りについた。


「…………ぐぅ」


 少女は眠りについたが、そのおなかから音が聞こえてくる。空腹よりも睡魔が勝っていたのかもしれない。


「…………」


 グリムは少女が寝ていることとかまどの中の炎が十分に燃えていることを確認すると足音を立てないようにして厩舎を出た。周囲には人の気配はなかった。


「……何か食べるものでも探しに行くか」


 グリムは真夜中の町の方へと歩き始める。つい先ほどの騒動を考慮してグリムは自身の姿を魔女の「頁」を利用して別人に変えた。

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