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第126話 交わる刃

「やはり動き出しましたか」


 ローズは城の最上階からグリムが逃げるのを目撃する。この世界でローズが監視していたのは初めからグリム一人だけだった。


「……本当にあなたの言った通りになりましたね」


 玉座の間から離れ、ローズの隣に立ったマロリーはグリムを眺めながらそう言った。


「彼は私と決して違うのです……彼は世界を滅ぼすことになんのためらいをもたない」


「彼にも何か意図があるのでは?」


「たとえ目的があったとしてもそれが世界を滅ぼしていい理由にはなりません」


 ローズの言っていることにマロリーは言葉を何も返さなかった。


「……頼めますか」


「……お嬢が言うのなら」


 マロリーと共にこの場に来た銀髪の騎士は少女の言葉を聞くと塔の最上階から飛び降りてグリムの跡を追いかけた。


 銀髪の騎士は単細胞ではあるが戦闘面に関しては誰よりも秀でていることを同郷のローズは知っていた。彼がグリムを取り逃がすことは無いだろう。


「……どこへ行くのですかローズ?」


「私はやることができましたので」


「王様に伝えに行くのですか?」


「それもありますが……本題は別ですね」


 それでは失礼と言ってローズは城の中へと戻った。



    ◇◇◇



「……世界を守るよりも大切なことですか」


 誰もいなくなった空の見える回廊でマロリーはぼそりとつぶやく。彼女自身世界よりも優先するべき事象があるとは思えなかった。


 けれども本当にそんなものがあるならば……世界を敵に回してでも成し遂げたいものがあるのならば、それはいったいどんなものなのか興味があるのも事実だった。


 マロリーは銀髪の騎士の姿が見えなくなると城の中へと入ったもう一人の騎士の後を追った。



    ◇◇◇



 シツジを取り返そうと襲ってくる兵士たちを次々と魔法で小さな生き物に変えながらグリムは城の外に出た。


 外に出て森の中に入る頃には追手もほとんどいなくなっていた。


 走りながらポケットに隠しているネズミに変えたシツジの事を考える。目を覚ました時彼はいったい何を思うのだろうか。


 結局サンドリオンとは会えないままだった。


 彼女は一体どこへ行ってしまったのか。幸いにも羅針石は渡している。この世界ではぐれたとしても彼女が石を辿ればまた出会えるだろう。


「…………!」


 突然グリムの背筋に寒気が走る。本能的に何か危険を察知した。


 振り向くよりも先にグリムは髪留めから1枚の「頁」を取り出した。現時点で体内に入れていた魔女の「頁」を取り出すと即座にもう1枚の「頁」を自身に当てはめた。


 グリムの姿が魔女の姿から騎士の姿へと変わるとほぼ同時に背後から凄まじい勢いで詰め寄ってくる銀髪の騎士の一撃が振り下ろされた。


 間一髪のところでグリムは手にしていた聖剣で応戦する。


「そうは……うまくいかないよな」


 相対する人間はマロリーとともに旅をする銀髪の騎士だった。


「…………その恰好はまさか」


 銀髪の騎士は剣を受け止めたことよりもグリムの格好に目が言っていた。


「そうだ……これはアーサー王の姿だ」


 ローズと銀髪の騎士はアーサー王伝説の世界出身だったと赤ずきんの世界でマロリーから聞いていた。たとえ別世界のアーサー王だとしても根本的な恰好の部分に大きく相違が出るとは思えない。銀髪の騎士が驚いたのは間違いなくグリムがアーサー王の姿をしたからだと結論付けた。


「そうか」


 最初、多少驚きはしたもののすぐに銀髪の騎士は距離を取り武器を構えて落ち着きを取り戻す。


「見過ごしてはくれないよな?」


「お嬢の命令だ」


 騎士はそれだけ言うと再び近づいて攻撃を仕掛けてくる。目にもとまらぬ剣戟をグリムは一つ一つ丁寧にさばいていく。


「なるほど……身体能力は取り込んだ「頁」に対応するのか」


 銀髪の騎士は冷静にグリムを分析する。普段のグリムであれば受けきるのはおろか反応することすら至難の業である銀髪の騎士の攻撃に合わせられるのは彼の言う通り「頁」に描かれた役割によってグリムの身体能力が向上するからであった


 なんとか対応できるとグリムが安心しかけたその時だった


「だが……」


「…………な」


 先ほどと同じように騎士の攻撃を受け流そうとしたところ今度はうまくいかずにこちらの剣がふきとばされてしまう。


 アーサー王伝説の世界では平静を欠いていたとはいえランスロットと対等に戦うことが出来た。そんなグリムが押し負けているという事実に困惑する。


「いくら身体能力が上がっても、それを扱う者の技術が追いつかなければ意味がない」


 銀髪の騎士はそう言うと素手になったグリムに一撃を入れる。


「…………がっ!」


 つい先ほどまで同じような攻撃を仕掛けていたのは力の強弱を隠すためであり、今の一撃は同じ振りでも重みが圧倒的に違っていた。


 その事に気が付かなかった結果、グリムは力負けをして剣が吹き飛んだというわけだ。


 気が付くころにはグリムはその場に倒れこんでいた。


「…………く」


 グリムはそこで完全に意識を失った。

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