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第125話 全ては手のひらの上

    

    ◇◇◇


「結局彼を見つける事が出なかった……」


 いばら姫は悔しそうにつぶやいた。あれから場内をひたすら探したが牢屋のような場所はなく、マロリーの動きもなかった為シツジを見つける事は出来なかった。


「こうなったら……現場を強行突破するしかないな」


「あ、あのサンドリオンさんは?」


 少女はこの場にグリムしか居合わせなかったことを不思議に思ったらしい。


「彼女は……分からない」


「え?」


 いばら姫は疑問符をあげた。グリムも内心では同じ思いだった。


 いばら姫が誕生日を迎えた当日の朝、サンドリオンはいなくなっていたのだ。

 彼女が消えた事を不安に思いすぐにでも探しに行きたかったが、シツジが魔法使いの役割を与えられるまで時間がないと判断したグリムはいばら姫の部屋に直行した。


 いばら姫が誕生日を迎えるこの日に堂々と城の中から彼女に会えるわけもなく、グリムは最初に彼女と出会った時のようにテラスから侵入していた。


「……今はシツジを連れ出すのを最優先にしよう」


 グリムは自身に言い聞かせるようにそう言った。いばら姫はグリムの言葉を聞いて「はい!」と気を引き締めなおした。


「マロリーさんの能力の使用は警備が一番行き届いている玉座の間で行われます。いったいどうやって搔い潜れば……」


「……一つだけ案がある、君が人質になるんだ」


「どういう意味ですか?」


 少女はグリムの案を聞いて問いを返した。


「君の命を交渉材料にその場からシツジを連れ出す」


 グリムはいばら姫に作戦を説明する。本当は使いたくなかった手だった。


 この世界の人間なら、特に王様には効果のある手段ではあるが、褒められたものではない。嘘とはいえいばら姫の身を危険にさらす行為である。


「時間がありません……彼を助けられるのなら私はなんだってします」


「…………そうか」


 彼女の言葉を聞いたグリムは髪留めから魔女の「頁」を取り出して自身に当てはめる。

 作戦開始の合図だった。



    ◇◇◇



「それではマロリー殿、頼みますよ!」


 玉座の間にはシツジを囲うようにして王様と城の兵士たち、マロリーの付き人である銀髪の騎士が集まっていた。


「……わかりました」


 シツジの目は虚ろになり両手には鎖が繋がれていた。この数日の間に彼に何が起きていたのか、マロリーは王様に問い詰めたが何も答えてはくれなかった。


 彼を逃がさないようにしていたのだとマロリーは大方の想像はついていた。


 今更王様を咎めても何も起きないとマロリーは自身の感情を鎮めるとシツジの胸元に手を当てた。


 伸ばした彼女の手はシツジの胸の中に入り込み、そして1枚の「頁」を彼の体内から取り出した。


「頁」とシツジは完全に切り離されたわけではなく、「頁」の周りにまとった淡い光がマロリーの手と少年の体を紡ぐ。これ以上「頁」を引っ張ると彼から完全に離れてしまう。そうなれば目の前の少年は灰のように消えてなくなる。そうならないようにマロリーは細心の注意を払っていた。


「半信半疑だったが……本当に他者から「頁」を取り出せるのだな」


 王様の驚嘆の声が聞こえてくる。

 

 マロリーは少年の「頁」を持った左手と反対の手に羽のついたペンを取り出した。


(……こうするしかないのですね)


 マロリーが少年の「頁」に文字を刻もうとしたその時だった。



    ◇◇◇



「おまちください!」


 玉座の間に通じる扉が勢いよく開かれる。そこにはこの国の王女であるいばら姫が立っていた。


「……何をしている、お前にはおとなしくしていろと言ったはずだが」


 王様が高圧的な口調でいばら姫を制しようとした。


「今すぐに彼を放しなさい!」


 しかし少女は王様の言葉を無視して叫んだ。

 彼女の言葉にその場にいた人々はざわめき始めた。


「いったいどういうつもりだ?」


「彼をこの世界から逃がします」


 王様の言葉を斬るように即断でいばら姫は言い放った。


「貴様……何を言っているのかわかっているのか。そうなればお前も私も、そしてこの世界もすべて燃えてなくなるのだぞ」


「構いません!」


 人々はなぜいばら姫がそんなことを言うのか理解できていなかった。


「もしも言う事を聞けないというのなら……」


 いばら姫は手に持っていたナイフの先を自身の首元に押し当てた。


「何をやっているのですか」


「姫様、おやめください!」


 兵士たちが驚きの声を上げる。


「私は本気です!今すぐに彼を開放しなさい!」


「……マロリー殿、シツジに役割を与えるのを止めてもらってもよろしいか」


「……はい」


 彼女の決意を本気と受け取ったのか王様はやめるようにマロリーに告げた。彼女はそれに従って「頁」をシツジの体内へと戻していく。


「グリムさん、サンドリオンさん後はお願いします」


「……あぁ」


 いばら姫の背後からグリムは現れるとマロリーの目の前にいたシツジを抱きかかえるようにしてこの場を去っていった。


    ◇


「……わからないな、なぜ貴様はこのような行為をする」


「シツジは「白紙の頁」の人間です、彼にこの世界を巻き込ませるわけにはいきません」


「…………それで世界が滅ぶとしてもか」


「はい」


 いばら姫は王様をまっすぐに見つめていた。父親が怖くないと言えば噓になる。それでもこの場だけは絶対に譲れなかった。


「……やはりまだ子供だな」


「……え」


 いつのまにか背後に回っていた兵士によっていばら姫は手に持っていたナイフを奪われその場に身動きの取れないようにして地面に体を押し付けられる。


 捉えられたとしてもグリムはシツジを連れ出すことは出来た。作戦は成功したといばら姫は思った。


 しかし……


「わからないな……なぜ今日この時までシツジにも真実を言ってはいけなかったんだ」


「……え?」


 王様の言葉を聞いていばら姫は一瞬自身の耳を疑った。


「ローズ殿の言う通りなら真実を告げていても彼は魔法使いの役割を受け入れたのだろ?」


 まったくと王様は深いため息を吐いた。いばら姫は自分の父が言っている言葉を何一つ理解できていなかった。


「お父様はシツジがあらかじめ役割を受け入れると思っていたのですか?」


 人の心など分からない人間だと思っていた。物語を完結させるためなら平気で妻に手をかけるような残虐な人間に人の言葉が信じられるとは思えなかった。


 いばら姫の問いに王様は「そうだ」と答えた。そして続けざまになぜシツジに真実を告げなかったのか理由を語った。


「この場で彼を一時的に逃がす。この世界を救うために5日前に《《ローズ殿に提案された》》ものだった」


「な……」


 いばら姫は言葉を失ってしまう。父親は人の心を理解しているわけではなかった。ただ世界を完結させるためにあの細柄な騎士に従っていたのだった。



 全てはローズの思惑通りだった。

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