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第124話 迷い


    ◇◇◇



「……以上が今朝の出来事よ」


 城の西側に建てられた塔の客人をもてなす部屋、その中階層の一室にノックもなしに飛び込んできた彼女の説明をグリムとサンドリオンは黙って聞いていた。


「私が甘かった……もっとはやくに無理やりにでもグリムさんにお願いするべきだった」


 いばら姫は手に力を込めながら声を震わせていた。


「落ち着くんだ。まだマロリーによって役割が与えられたわけじゃないなら……なんとかなるはずだ」


「そう……ですね」


「少し良いか?」


サンドリオンが手を挙げてグリムといばら姫の会話の間に入る。ハッとしたいばら姫は彼女の方を向いた。


「挨拶が遅れました、はじめまして私はいばら姫といいます」


 いばら姫の挨拶にサンドリオンも自身の名前を名乗り挨拶を交わす。この世界で彼女たちが直接顔を合わせたのはこれが初めてだった。


「いばら姫、あなたの願いはグリムから聞いている、それを踏まえたうえで改めて尋ねたい。シツジはいまだに何も聞かされていないんだな?」


「はい……あの父が余計なことを話すとは思えません」


「そうか……それなら彼の救出までなら私も手を貸そう」


 サンドリオンの言葉を聞いてグリムといばら姫は驚く。


「グリムさんの話ではあなたはシツジをこの世界から逃がすことに反対していると聞いていましたが」


「私はシツジの意思を無視する行動が許せないだけだ」


 サンドリオンの言葉の意味をグリムは理解する。彼女にとってはシツジには彼自身に自分の選択をしてほしいのだろう。それは同じ「白紙の頁」を持った彼女だからこそ思えたのかもしれない。


「サンドリオンさん、ありがとうございます」


「お礼は彼を助け出してからで問題ない」


「シツジが捕らわれている場所はわかるのか?」


「それが……わかりません」


 いばら姫いわくこの城の中に牢屋のような場所はないらしく、王様だけがして散る隠し場所などがあるかもしれないとのことだった。


「まずはどこにシツジがいるかを探すところからか」


「もしも見つからなかったらその時は……」


「大丈夫だ、シツジの居場所が分からなくとも、マロリーさえ常に場所が分かればいい」


「……そうか」


 グリムといばら姫はサンドリオンが言いたいことを理解する。シツジを魔法使いにする手段を持っているのはマロリーのみである。マロリーの行動を常に追えば必ずシツジにはたどり着けるだろう。


「私は彼女を監視しよう」


 サンドリオンは自らマロリーを見張る役を買って出た。


「いばら姫は間違いなく行動を制限される。そしてグリムはローズに警戒されている……それなら私が一番の適任のはずだ」


「……そうだな」


 サンドリオンの言い分はもっともだった。


「それまでに見つかるのが最善ですが……」


 いばら姫は不安そうな声で話す。




 それから4日間、城の中をくまなく探し回ったがシツジを見つけることはできなかった。


 そしていばら姫が誕生日を迎えた。



    ◇◇◇



 時はシツジを捜索していたいばら姫の誕生日を迎える前日に戻る。


 マロリーを監視していたサンドリオンのもとにローズが近づいてきた。


「あなた、ここ数日まるで彼女を監視しているかのように動いていますね」


「……そう見えたか?」


 サンドリオンは毅然とした態度でローズの言葉にとぼけた。

 既に彼にはばれていたのは承知の上だった。


「何かを企んでいる……あなたではないですね……彼ですか?」


「………………」


 サンドリオンは無言を貫いた。

 これ以上詮索されるのを防ぐためでもあった。


「安心してください、マロリーの希望で「白紙の頁」の人間に役割を与えるのは誕生日の当日と決まっていますから」


 サンドリオンは何も話していないが、目の前の細柄な騎士は全てお見通しのようだった。


 彼の言葉が嘘である可能性もあると考えたサンドリオンはそのまま鵜呑みにするつもりはなかった。


「しかし彼も酷いですね……病み上がりのあなたにこんな役目を押し付けるなんて」


「別に押し付けられたわけでは……」


 彼とは会話をするつもりはなかったがつい言葉を交えてしまう。言葉を返したサンドリオンを見てローズは笑った。


「以前あなたに話した彼に関する事を覚えていますか?」


「…………」


 平静を取り繕うとサンドリオンは再び無言になる。ローズは気にせずひとりでに会話を進めた。


「どうでしょう……また彼はこの世界を滅ぼそうとしていませんか?」


「…………」


「あなたはその計画に加担している……いや、させられていると言った方が正しいのでしょうか」


「これは私の意志だ……決して誰かのものではない」


 話すつもりはなかったというのに気が付けば自然と言葉を返してしまう。ローズは会話を作り出すのに長けていた。


「本当にあなたの意志ですか?」


「何が言いたい?」


「今あなたを動かしているのは「白紙の頁」としてのあなたではなく、意地悪なシンデレラの姉としてではありませんか?」


「…………それは」


 違う、はずである。自身の意志でサンドリオンは決めたつもりだった。

 しかし、果たしてこの意志は彼の言う通り、本当にサンドリオンとしてのものなのだろうか。


 シンデレラの本を読んでからサンドリオンは自身がおかしくなっているのは分かっていた。今の自分の中には「白紙の頁」を持って生まれた記憶と「意地悪なシンデレラの姉」の役割を持って生まれたリオンとしての記憶が混在していた。


「……わからない」


 つい口ずさんでしまった。その言葉を聞いてローズはすぐに口を開いた。


「断言します、今のあなたの行いはあなたの意志ではない。シンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉の意志です」


「……どういうことだ?」


「あれから私もマロリーに色々聞いて私なりに考えなおしましたが……あなたは間違いなく「意地悪なシンデレラの姉」の転生者です」


「……やはり、そうなのね」


 ローズが告げた普通の人間ならば否定しかねない内容を耳にしてもサンドリオンは驚くどころかすんなりと受け入れた。


 そうでもなければ本から得られる情報以上の記憶が自身の脳内から呼び起こされるはずはなかった。


「意地悪なシンデレラの姉として、かつて救われたあなたは彼の力になりたい、そう思って力をかしているのですよ」


「…………」


「けれど、それが《《間違っている》》ことぐらいあなたも分かっているはずです。この世界の全ての人間は世界の完結を望んでいます。それなのにあの男は世界を滅ぼそうとしている」


「それは……違う」


 サンドリオンは直接いばら姫から話を聞いている。決しグリム一人によってシツジを連れ出そうとしているわけではなかった。


「なぜあなたは「白紙の頁」を持った少年をこの世界から逃がそうとしているのですか?」


「私はただ……少年の意志を尊重したいだけだ」


 結局サンドリオンはローズに自身の心中を吐露してしまう。ローズはそれを聞いて「ほぅ」と興味深そうな反応をする。


「もしも、シツジという少年がアーサー王伝説にいた時のあなたと同じように……世界を救う為に魔法使いの役割を受け入れたらどうしますか?」


「…………」


 サンドリオンは何も答えることが出来なかった。


「明日はいばら姫の誕生日です。この世界の完結を楽しみに待ちましょう」


 ローズは最後にそう言うと自室へと戻っていった。





「私は……どうすればいい?」


 一人部屋の外に残されたサンドリオンは答える者がいない質問をひっそりと漏らした。


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