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第117話 いばら姫の記憶

    ◇◇◇


「お父様、どうかお願いです!」


「だめだ、城の外へ出ることは断じて許さん」


 それはまだいばら姫の母親が生きていた頃だった。いばら姫は7歳になったが、一度もこの城から出ることは許されなかった。何度も彼女の父親である王様にいばら姫はお願いをしたが、決して許すことはなかった。


「お前はこの国のお姫様である以前に、この世界の主役である。そんなおまえにもしも何かがあったらどうするんだ」


「そ、それは……」


 いばら姫は言葉を返せなかった。


「あなた、そうはいってもこの子ももう7歳で。、一度もお城以外の景色をみていないのはいくらなんでもかわいそうじゃありませんか?」


 王様の隣の席に座る王妃がいばら姫を見ながら助け舟を出す。


「ならん」


 王様はそれを一蹴すると目をつむる。これ以上話すことはないといった様子だった。


「……失礼します」


 いばら姫は落ち込んだまま玉座の間を後にする。


「ターリアその様子だと……」


 扉を出ると近くで待っていた少年がパタパタと駆け寄って声をかけてくる。世界から役割を与えられていない「白紙の頁」を持ったこの世界でいばら姫とともに育った少年だった。


「お父様には許してもらえなかったわ」


 少年はその言葉を聞いて気を落とす。


「本に書いてあった幸せの象徴を君と探しに行くの楽しみにしていたのに」


「私はお城の中から出られないから探しに行くのはシツジ、あなた一人になっちゃうわね……」


 いばら姫は「白紙の頁」を持った少年、シツジと城を出て四つ葉のクローバーを探しに行く約束をしていた。

 これまでは一度も城の外に対して興味を持っていなかったいばら姫であったが、母親に読んでもらった1冊の本に書かれていた幸せのシンボルという四つ葉のクローバーの話を聞いてそれを見つけてみたくなったのだった。


「……頑張って見つけてみるよ」


「うん……ありがとう」


 その本に書かれた話では四葉のクローバーというものは見つけること自体に意味があるらしい。ただもっているだけではなく、苦労して見つけたものに幸運は宿る……そう本には書かれていた。本当はシツジとともに探して見つけたかったが、城を出ることを許されなかったいばら姫には探す権利がなかった。


「……話は聞かせてもらったわよ」


 突然背後から声が聞こえてきていばら姫は飛び上がり驚く。振り返るとそこにはいつのまにか彼女の母親である王妃が立っていた。


「お、お母さま、聞いていたというのは……」


「もとはといえば私があなたにあの本を読み聞かせたのが原因だったのね……それなら彼に、王様に秘密で探しに行きなさい」


「え?!」


 王妃の言葉にいばら姫は驚きの声を上げる。声が大きすぎたせいか母親である王妃は慌てていばら姫の口を塞いであたりを見回す。扉は占められていたため特に誰かに聞かれた可能性は低く、王妃はほっと一安心する。


「でも、お父様が……」


「だから秘密といったでしょ?大丈夫、半日ぐらいなら部屋で寝ていることにすれば大丈夫よ」


 王妃は片目で娘であるいばら姫にウインクをする。嬉しくなったいばら姫は王妃に抱き着いて大好きと笑顔になる。王妃は優しく抱きしめ返した。


「もちろん城の兵士たちを護衛につけるから、くれぐれもはぐれちゃだめよ」


「うん、わかった!」


 いばら姫は元気よく返事を返して母親から離れるとシツジのほうへと振り返り彼の両手をつかむ。


「これで一緒に探しに行けるわ!」


「よ……よかったね」


「うん!」


 いばら姫は嬉しそうに手をぶんぶんと縦に振り、それに合わせてシツジも体が動く。


「それじゃ、行きましょ!」


 いばら姫はシツジの手をつかんだまま城の入口のほうへと駆け出した。シツジはそのあとに引っ張られてついていった。


   ◇◇◇


「……ふふ、かわいらしいわね」


 二人のその様子を見ていばら姫の母親である王妃は微笑ましく笑う。

 いばら姫に両手を握られたシツジは顔を赤くして視線をそらした。


 王妃から見ればその反応だけでシツジという少年がいばら姫に対して好意を抱いているのは明白だった。


「白紙の頁」の人間であるシツジは本来この世界には存在しない役割を持っていない人間である。たまたまいばら姫と同じタイミングでこの世界に赤子の状態で制を受けた彼は城の中で彼女とともに育てられた。

 

 ほかに年の近い子がいなかったことやいばら姫はシツジと話す機会が多かったせいもあり、彼は気が付けば彼女の話し相手としてこの城の中では認識されていた。


 物語に支障をきたす可能性があると王様が彼のことをよく思ってはいなかったが、彼の名前のゆえんにもなったいばら姫の執事として雇うことでことは済んだ。


 もし仮にいばら姫が彼のことを好きになったとしても、逢引きでもしない限りはこの世界が滅ぶことなどないと王妃は思っていた。


 いばら姫と結ばれる王子様が現れるのはこれから100年以上先であり、それまでの間にいばら姫がどのような経験をしようとも物語に対して大きな影響はない。


「それまであの子には少しでも幸せになってもらわないとね」


 100年の眠りにつく前に一つでも彼女にとって思い出を残したいとそう王妃は願っていた。


 眠りにつく呪いは彼女だけでなくこの城に住んでいる人々も含まれている。

 その事実はシツジを除いたすべての人間が持っている「頁」のあらすじの部分に記載されていた。


 この世界に生まれて育った年月でいえばほとんどの人間が同じではあるが、精神年齢は生まれた時の容姿に沿うことが多い。



「彼は……あまりにも厳しすぎる」


 王妃は夫である王様の事を考えながら頭を悩ましていた。


 王妃や王様は大人の姿で生まれてきたこともあり、思考がすでに成熟した状態で生まれている。王様はより現実的に世界の完結を望み、王妃はいばら姫を実際に産んだわけではないが、彼女の事を自身が産んだ大切な娘と思っていた。


「……お母さま、聞いてるかしら!」


 ふといばら姫の声が聞こえてくる。声のほうを見るといつのまにか目の前にこちらの顔を除いている王妃の娘の姿があった。


「ごめんなさい、少しぼーっとしていたわ」


 王妃の言葉を聞いていばら姫は「ふーん」と首をかしげる。


「王妃様、大丈夫ですか?」


 いばら姫の隣にいたシツジは心配そうに王妃の顔色を窺っていた。


「大丈夫よ、それよりも今から娘をよろしくね」


「わ、わかりました!」


 王妃に対してきれいにお辞儀をする。いばら姫と同い年であるシツジだが、彼のその態度は城の兵士たちと同じくらい従者としての振る舞いをしていた。


「でもどうしてお城の扉からじゃないの?」


 いばら姫は王妃に尋ねる。今いる場所は城の入口ではなく、いばら姫専用の部屋である東の塔にいた。


「王様にばれる可能性を防ぐためよ。テラスからはしごを使ってここから抜けだすの」


 王妃の説明を聞いていばら姫は再び「ふーん」とわかっているのかどうか怪しい反応を示す。一方のシツジは理解しているらしく、王妃の言葉を聞いて「なるほど」と頷いていた。


「あなたたち、しっかりと二人を見張るのよ」


 王妃の言葉を聞いて兵士の二人は敬礼をしてすぐにテラスのほうへと向かっていった。王様には内密にお姫様を城の外へ連れだす行為に協力いてくれる兵士はたくさんいるわけもなく、王妃は親しい兵士を選んでこの場に用意していた。


「いばら姫、時間は日が暮れる前まで、兵士たちの命令には従うこと、決して一人にはならないこと、わかったかしら?」


「はーい!」


 いばら姫は大きな声で王妃の言葉に賛同するとすぐに兵士の後を追ってテラスへと出ていく。シツジは王妃のほうに一瞥すると彼女の後を追いかけた。


「兵士もいるし、シツジもいるから大丈夫……よね」


 二人の背中を見ながら王妃はぽそりとつぶやいた。


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