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第116話 二人の会話

「私と彼は赤子の姿でこの世界に生を受けました。私はこの世界の物語の主役として、彼は何も書かれていない「白紙の頁」の所有者として……そして物心がつくころには私は王女として、彼は城に使える従者として生きるようになっていった」


 全ての生き物は世界に与えられた役割にふさわしい容姿で生まれてくる。いばら姫の物語は主役であるいばら姫が呪いをかけられる赤ん坊のタイミングから始まる。彼女が赤子の姿で生まれてくるのは当然である一方で役割を持たない「白紙の頁」を持ったシツジが赤子で生まれてくるのは偶然だった。


「年齢が近い事もあって私はシツジとばかり話すようになっていった……最終的に私は100年の眠りから覚めて王子様と結ばれる、それでもそんなずいぶんと未来の相手よりも私は目の前の彼に惹かれていった」


 空から灰色の雪が降る事はなく、彼女も燃えていない。いばら姫が王子様意外に恋をする行為は物語に反していると世界は判断しなかったのだとグリムは推察する。


「どういうところに惹かれていったんだ?」


「私は今でも覚えている……7歳の頃、兵士たちの見張りのもと初めて城の外へと出た、その時私と彼は本で読んだ四葉のクローバーを探していたわ」


「四葉のクローバー……」


「その日結局見つけることは出来なかったわ」


 シツジが話していた内容と彼女の話は一致した。


「本当はお母さまが読み聞かせてくれたお話に出てきた四つ葉のクローバーの本物を見て見たかったのだけれど……父は外出を許してくれなかった。結局現物を見る事は叶いそうにないわね」


 いばら姫はため息を吐いた。目の前のお姫様は今でもその願いを抱いているようだった。

 シツジは今も彼女の為に探しているという事実を伝えかけたが、グリムの口から言うべきではないと思い、続けて彼女の話を聞くことに専念する。


 それから彼女はこの世界について、王様について、王妃について、12番目の魔法使いについて、そしてシツジについて語り始めた。




    ◇◇◇




「あなたは確か……ローズさん?」


「ローズでいいですよ」


細柄な騎士はにこりと笑う。王様から借りている部屋のベッドの上で横になっているとノックと共に一人の男が入ってきた。それが目の前の男だった。


 ローズと名乗った男はそういうと自身の体内から1枚の「頁」を取り出す。


「あなたと同じ「白紙の頁」の所有者です」


「私と同じ……」


「白紙の頁」とは世界から何も役割を与えられなかった人間である。


「どうかされましたか……?」


「あなたはマロリーさんと旅をされているのですよね?」


 そうですよ、とローズは肯定する。


「彼女やグリムは……いえ、なんでもないわ」


 言いかけた言葉をサンドリオンは止める。サンドリオン自身、この世界に共に訪れたグリムについていまだに詳しくは知らないはず……だった。


だった、というのもマロリーの持っていた1冊の本を読んで以降、「白紙の頁」を持って生まれた時とは別の記憶がサンドリオンに付与されたような、思い出したような感覚になったのである。


グリムやマロリーは自身の能力を使うことによっていくつもの世界で人々を救い、救おうとしていた。一方でサンドリオンはアーサー王伝説の世界で何一つ成し遂げることが出来なかった。


「もしかしてあなたは自身に何か負い目でも感じているのですか?」


「!」


「図星ですね」


 ローズはふぅと息を吐く。


「もしよければこれまでのあなたのおい立ちについて教えていただけませんか?」


「時間はたくさんありますよ」と言葉を添えながらローズは近くにあった椅子に腰を掛けて座る。サンドリオンは起き上がりベッドに座するような姿勢になって彼にこれまで経験してきた自身の人生について話し始めた。


    ◇


「なるほど……あなたはアーサー王伝説の世界でそんなことが」


「……結局私は何もできなかった」


 サンドリオンはアーサー王伝説の世界で起きた出来事を振り返って手に力が込められる。


「いいえ、あなたはアーサー王が死んだ中で懸命にその代わりを担おうとした。それは立派なことです、普通の人間であれば逃げ出すでしょう」


 励ますような彼の言葉を聞いてサンドリオンは少しだけ胸が軽くなった。


「グリムが来てくれなかったらどうなっていたか……」


 サンドリオンは彼の顔を思い浮かべる。グリムがいなければどうなっていたか彼女は正直想像がつかなかった。


「……果たしてそうでしょうか?」


「え?」


 今までやさしい表情でサンドリオンの言葉に相槌を打つようにして聞いていたローズが疑問符を返してきたためサンドリオンも同じように聞き返してしまう。


「彼がいなくてもきっとあなた一人でも物語は完結させていたと思いますよ」


「そんなことは……」


「ないとは言い切れません」


 ない、と言いおるよりも先にローズが言葉を重ねてくる。


「正直に申し上げますと私は彼のことを危険な存在として見ています」


「どうして?」


 それは自然と彼女の口から出てきた疑問だった。


「あなたはマロリーが持っていた本は読みました?」


 彼の言葉にサンドリオンは頷いて肯定する。


「彼はシンデレラの世界で魔女から「頁」を奪いました……その結果、魔女は物語を完結する前に彼によって殺されてしまった」


「それは……意地悪なシンデレラの姉のために……」


 違うとは言い切れなかった。それでもその行為は決して理由のないものではなかった。


「例え理由があったとしても命とも同価値の「頁」を奪うことが許されるはずがありません」


 ローズは断言する。静かな口調ではあったが、熱の籠っているように感じられた。


「赤ずきんの世界では狩人から「頁」を奪いました……しかもこの時は物語の重要な場面、狩人が消えたことでいつ世界が滅んでもおかしくはなかった」


 赤ずきんの本を読んだサンドリオンはグリムが赤ずきんの世界で何をしたのか分かっている。シンデレラの世界とは異なり、彼の言う通りグリムは物語の中で役割を終えていない狩人から「頁」を取り出し、自ら演じて見せていた。


「そしてアーサー王伝説の世界ではアーサー王を演じていたあなたを世界から切り離した……そうですよね?」


「それは……」


 違うとは言い切れなかった。


「そもそもの話ですが……果たしてそのアーサー王伝説の世界は完結したのでしょうか?」


「……え?」


 彼の言葉を聞いた途端サンドリオンは自身の体温が下がるのを感じた。


「彼やあなたを含めて誰もその世界の完結を見届けてはいません……本当に無事に物語は終幕へと導かれたのか定かではありません」


「そ……それは」


 サンドリオンは言葉に詰まってしまう。


「あなたは最初に言いましたよね、私は何のために生まれてきたのかと」


「…………」


「私は役割を与えられた人間と同じようにすべての「白紙の頁」の所有者にも生まれてきた意味はあると思っています」


 ローズはそういうと立ち上がり、こぶしをかざして語り始める。


「マロリーはそんな人々に役割を与える能力を持った選ばれた存在です」


 サンドリオンは彼の言う選ばれた人間という表現が少しだけ気になった。


「この世界で生まれ育ったシツジという少年は消えた魔法使いの役割を担うために、そしてあなたはきっとアーサー王の代わりを務める為に……そういう風に誰かの代わりを担える存在として我々は生きている、いつか来るべき時に役割を果たすために我々は生きているとそう思っています」


 彼の演説めいたしぐさのせいか、それとも何か別に引き寄せるようなものがあるのかサンドリオンは彼から目が離せなかった。


「もしかしたら彼はこの世界でも何かを企んでいるかもしれない……それこそ魔女や狩人の命を奪ったように、」


「そんなことは……」


「ないとは言い切れないですよね」


「あなたは以前、彼は死神ではないと否定されましたよね?」


「本当にそうでしょうか、彼の意思と行為は世界を滅ぶすためではないとしても……ただ何かをなそうとするその結果世界が滅んでいると私はそう考えております」


「…………それ、は……うっ」


 突然ずきんと頭が痛むと同時に記憶が流れ込んでくる。


 頭の中に出てきた記憶はサンドリオンとしてのものではなく、シンデレラの本に出てきたリオンという女性の記憶だった。酒場で彼の口から語られた生まれた故郷では確かに彼によって世界は滅んでいた。


 わからない……それが今の彼女の答えだった。グリムと出会ったのはアーサー王伝説の世界のはずである。しかしこの世界でマロリーが持っていたシンデレラの本を読んで以降、自身の中に白紙の頁の人間として生まれたとき以外の記憶が存在しているような気がした。


 グリムはローズの言うような死神ではないと言い切ったのは本来であれば存在しえない記憶によるものだった。それはシンデレラの世界で意地悪なシンデレラの姉が経験した記憶である。


(わからない……わからないの)


 シンデレラの記憶に触れようと深く考えれば考えるほど頭が痛みを帯びてしまう。


 グリムは悪い人間ではない……そう思えるのは出会って日の浅いサンドリオンとしての記憶ではなく、意地悪なシンデレラの姉としての記憶による思い込みではないのか。


「白紙の頁」を持っているサンドリオンから見れば彼の行いは許されないものではないか……そう考えてしまう程にローズの言葉を聞いてサンドリオンの心は揺らいでいた。


「……時間はあります、また良ければ話を聞きに来ますよ」


 ローズは言い終えると部屋を出ていった。

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