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第102話 アーサー王の言葉

「ここは……?」


「意識が戻ったか」


 サンドリオンが馬車の中から顔を出したのに気が付いたグリムは彼女の方を見る。


 乱れた赤い髪が馬車を走らせる事で前から流れてくる風によって揺れていた。ランスロットにアーサー王の武器と防具を渡した結果、彼女は鎧の代用として下着の上に皮のローブを纏わせていた。


 今の彼女は誰が見ても王様ではないただの女性にしかみえなかった。


「……ランスロットはどうなった!」


 意識がはっきりしてきたのか、サンドリオンの顔つきが険しくなる。馬車の中で立ち上がろうとしたのか、そのままよろめいて馬車の中で倒れていた。


「あれだけの攻撃を受けたんだから、無理するな」


「教えてくれグリム、いまこの物語はどうなっている!」


 体を無理やり起こしながらサンドリオンはグリムに迫った。


「……サンドリオンが負けて、ランスロットが代わりにアーサー王を演じ始めた」


「……な」


 グリムの言葉を聞いてサンドリオンは目と口を開いて一瞬だけ固まってしまう。


「どういうことだ、私の正体がばれたのか、どうしてランスロットがアーサー王を演じている、私達は今どこへ向かっている!」


「落ち着け……」


 矢継ぎ早に質問してくるサンドリオンがグリムの肩を掴み更に顔を寄せてくる。その手に込められた力と彼女の鬼気迫る表情から彼女の思いの強さが伝わってきた。


「ランスロットは初めから正体に気付いていたらしい。彼はサンドリオンに変わって物語を進めると進言したんだ」


「な……何を言っているの?」


 掴まれていた彼女の手の力が緩む。状況を理解できずに戸惑いを見せているのが見て取れた。


「俺たちは、境界線を目指している」


「境界線を……?」


「この世界から離れるんだ」


 グリムの言葉を聞いた瞬間にサンドリオンの表情が直前の困惑から一変する。


「なぜだ、なぜこの世界から離れようとしている!」


「このままこの世界にいたら消失してしまう。その前に離れるんだ」


 グリムの言葉を聞くとサンドリオンは視線を下におろした。赤い髪が垂れるように下がり、彼女の顔が見えなくなる。


「馬車を止めてくれ……この世界から離れるならグリム一人で行くんだ。私はキャメロットに戻る」


「それはできな……」


「馬車を止めろ!」


 リオンが顔を上げながら怒号のようにグリム叫んだ。


 グリムは彼女の言う通りに走っていた馬の足を止める。

 

 サンドリオンは止まったのを確認するとよろめきながら馬車から降りると今来た道を行き返すように歩き始めた。


「あっ…………いっつ」


 地面の出っ張りに躓いて彼女は転んでしまう。傷だらけの体に鞭を打つようにして立ち上がり、また一歩踏み出そうとしていた。


「そんな状態で戻って、今のあんたに何ができる」


「うるさい!お前に何が分かる、私は……アーサー王として、アーサー王の代わりに……」


 今度は自身の足同士が引っかかり彼女は転んでしまう。立ち上がろうとするが、体が痛むのかなかなか起き上がれなかった。


「やるべきことを探すのではなくやりたいことを探すのだってアーサー王に言われたんだろ」


「わたしは……アーサー王と約束をしたのだ、だから……」


「それは本当にアンタのやりたい事なのか?」


 グリムの言葉を聞いてピクリとサンドリオンが反応する。


「そうだ……今の私にとってはやるべきこともやりたいことも同じだ」


「本当に……そうなのか?」


「お前に一体私の何が分かる!」


 サンドリオンに差し出したグリムの手を拒むようにして振り払われる。彼女の手がグリムの服に触れて胸元にしまっていた手紙が地面に落ちる。


「……これは」


 彼女は視界に映った手紙の文字を見て何かに気づいたようだった。


「それは……あんた宛にアーサー王が書いた手紙だ」


「アーサー王が?」


 サンドリオンは驚きながらグリムが落とした手紙をその体制のまま手に取って読み始めた。



    ◇◇◇



 紅い髪の「白紙の頁」の所有者へ

 このような形で言葉を伝えることを許してほしい


 この手紙を其方が読んでいるころには我は既にこの世にいないかもしれない。

 なぜそう言い切れるのか、それはその時が来たらこの手紙を其方に渡すようにお願いをしていたからだ。


 我はこの世界の主人公として人々のために尽くしてきた。

 その役割を疎んだことはない、むしろ誇りに思っている、


 しかし、それと同時に世界に定められた役割に従うことに対して窮屈と感じていたのも事実である。


 そんな時、外の世界から来たそなたに出会った。「白紙の頁」を持った、世界に縛られない存在である其方と過ごした時間は我にとってはかけがえのないものであった。


 我の死は物語の中で決まっている、我はそれが受け入れがたいのだ。

 なぜ世界によって我の死が決められなければならないのか。

 もしも世界の(ことわり)を超えられたら……何度そう願ったかは分からない、


 我は其方がうらやましい。もしもそなたがこの世界と共に終幕を迎えようとしているのならば、どうかその判断は踏みとどまってほしい。

 我と違い、そなたは自由なのだから。



 この世界でやりたいことを探すのではなく、いくつもの世界を旅して、そなたの本当のやりたいことを見つけてほしい。それが我の願いである。



    ◇◇◇



「…………」


 手紙を読み終えた彼女はわなわなと体を震わせながら涙を流し始めた。


「……読んでもいいか?」


 彼女は無言のまま首を縦に振った。グリムはアーサー王が残した手紙を読み始める。


    ◇


「…………願い、か」


 グリムはアーサー王の手紙を読み終える。


 本当はアーサー王としてはアヴァロンへ向かう小舟に乗る頃に彼女がこの手紙を読むことを想定していたのかもしれない。


 アーサー王は物語に縛られることなく、自らの意思で彼女の命を救い、世界の(ことわり)を超えたのだった。


「…………」


 結果的に今の彼女に一番声の届く人間の言葉によって、サンドリオンはこの世界を離れる理由を得た。


「……立てるか」


 グリムは再び手を差し伸べる。サンドリオンは袖で涙をぬぐい、今度はグリムの手を取って立ち上がった。


「行こうか」


「……えぇ」


 グリムにサンドリオンは肩を借りながらゆっくりと歩き出した。


 こうして二人は灰色の雪が降る偉大なる王達の世界から離れたのだった。

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