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第101話 カムランの戦い

「……言っておくけど、ボクの魔法も絶対じゃない。グリムの能力と違って、アーサー王に姿を変えたからと言って実力が上がるわけじゃないからね」


 グリムとアーサー王を演じていた女性と別れてからしばらくしてマーリンはランスロットに指をさしながら指摘する。


「俺の実力を信頼していないのか?」


「君の事を信頼はしたくないかな」


「そうかい、そうかい」


 ランスロットはマーリンの言葉を適当に聞き流す。


「グィネヴィアの事はどうするの?」


「真実を告げるわけにはいかないしな……すまないがしばらく魔法で誤魔化してもらえるか?」


 円卓の間で会話を交えた際に彼女もアーサー王の正体について気づき始めているのは分かっていた。それでも真実を伝えるべきではないと判断した。


「君はどれだけボクに借りを作るつもりだい?」


「恨むならアーサー王を恨んでくれ」


 ランスロットがそう言うとマーリンは確かにねと同意してニヒルに笑う。



    ◇



「キャメロットの方ではモードレッドが反逆を始めたみたいだ。いよいよだね」


 魔法でお城の状況を把握したマーリンはランスロットに情報を共有する。


「では、始めるか」


 決戦に向けて円卓の騎士と魔術師が最後の準備を開始した。



    ◇◇◇



 戦争が始まった。キャメロットの近く、カムランの丘にてこの世界に生まれた騎士たちが刃を交えている。騎士たちのほとんどはこの場所が最後の舞台であり、与えられた役割の終着点だった。


「アーサー!!」


 若き円卓の騎士の声が戦乱の中に響き渡る。鎧を全身にまとった反逆の騎士がこの世界の主人公である最強の騎士目掛けて戦場の中を駆け抜ける。


 彼の前に道をふさぐように現れる騎士たちを次々と薙ぎ払い、遂にモードレッドは王のもとへたどり着く。


「その命、もらい受ける!」


 モードレッドは言葉と共に両手で握った剣をアーサー王目掛けて振り下ろす。



 反逆の騎士と同じく全身を鎧に包んだアーサー王はその一撃を真正面から剣で受け止めた。


 剣と剣が交わるその衝撃で辺りにいる人間達が吹き飛ばされる。二人のぶつかり合いは他の騎士とは比較できないほどに互いの実力派この場において突出していた。


「僕は今日、ここであなたを超える!」


 アーサー王の剣から自身の剣を離してモードレッドは数歩後ろに下がる。そしてすぐにアーサー王目掛けて再度突撃し、こんどは目にもとまらぬ速さで剣をふるい続けた。


 アーサー王はその攻撃を一つ一つ正確に受け切り、わずかな合間を縫うようにカウンターの一撃をモードレッドに向けて放った。


「……っく!」


 アーサー王から一撃を食らったモードレッドはたまらず距離を取る。モードレッドとは違い、アーサー王は自ら攻めることはなく、あくまで受け身の姿勢を崩そうとはしなかった。


(強い……さすがお父様)


 モードレッドは言葉にはしないが、内心で目の前にいる王様に一瞬心を奪われる。


 生まれてから今までずっと追い続けた偉大なる父の背中はあまりにも大きく、その実力は対峙すると痛いほど彼の身に染みた。


「それでも……僕は負けない!」


 剣を振りなおしてアーサー王に詰め寄る。騎士の戦いは常に真剣勝負、アーサー王が定めたルールである。


 この戦争が始まるまでモードレッドは父親とその近いが守れるかどうか自信がなかった。けれども円卓の騎士として、アーサー王の息子としてこのカムランの丘にて父親が唯一作った約束を果たせなければ、モードレッドは一生自分の事を許せないだろう。


「はぁっ!」


 モードレッドはアーサ王に再び剣を振り下ろす。先ほどとは異なる、アーサー王に気づかれないように振るった受けられる前提の一撃。アーサー王は剣でそれを受けようとする。


(いまだ!)


 剣が交わる刹那にモードレッドは剣の軌道をわずかにずらす。対峙する剣の上を流れるようにしてモードレッドの剣はアーサー王の首元に迫った。捉えたとそう思えた。しかし……


「……がっ!」


 アーサー王のもとに剣が届くよりも先にモードレッドに衝撃が走る。何が起きたのかは吹き飛ばされた時に理解した。


(蹴り!?)


 モードレッドの視線が剣先とアーサー王の顔にばかりいっていたせいか、アーサー王の放った蹴りに反応することが出来なかった。


(この日の為に今までその戦い方を隠してた……?)


 その圧倒的な実力だけでなく、思慮深い彼の戦い方にモードレッドは息を呑んだ。


(お父様はいったいどれだけの……)


 自分の為だけではない。この世界のすべての人間の思いを背負っているアーサー王はいったいどれほどの重圧の中、この場所に立っているのだろうか、モードレッドには想像することが出来なかった。


(それでも……)


 負けられない、負けたくないと思える覚悟がモードレッドにも芽生えていた。


 物語上モードレッドはこの場所で負けてしまうのが運命である。その事実を分かっていても、アーサー王に挑める最初で最後のこの機会を、アーサー王との約束を果たすためにも全力を尽くそうとモードレッドは思えたのだった。



    ◇◇◇



(やはりとんでもない男だな)


 顔を鉄兜で隠し、アーサー王を演じているランスロットは対峙するモードレッドを見て敬意の念を抱いた。アーサー王としての戦い方を意識していたつもりだったが、モードレッドの剣が自身の首元まで迫った時、思わず普段の戦い方をしてしまっていた。


(アーサー王のふりなんて言ってる余裕はないな、これは……)


 自身が負けてしまったら元も子もない。それでは何のために彼女から役割を引き継いだのかわからなくなってしまう。


(モードレッドには悪いが俺としての全力で戦わせてもらう)


 アーサー王の姿をしたランスロットは剣を構えて初めて自らモードレッドに攻め込んだ。


 今まで受けの姿勢を保っていたアーサー王が攻めに転じたため、驚いた様子を見せるモードレッドに間髪入れずに胸元目掛けて剣を突き刺すように伸ばす。モードレッドはそれに対して剣を下から当てることで迫った剣の軌道をわずかにずらして致命傷を避けた。


「はぁ……はぁ」


 モードレッドの兜が割れて顔があらわになる。多少息を切らしながらも決してその闘志ほ炎が消える気配はなかった。


「っあああ!」


 モードレッドが声を荒らげて迫ってくる。つい先日までの自信のない表情をしていた彼とは見違えるほどにその顔は輝いていた。


(もしも……本物のあいつがこの場でモードレッドと戦えていたのなら、心の底から喜んだだろうな)


 そんな感情を抱きつつ、今この世界の主役であるアーサー王を演じる身として負けられないランスロットは剣を構えてアーサー王の息子と向かい合った。


 カムランの丘の戦いもいよいよ終局を迎えようとしていた。



    ◇



 地面には無数の死体が広がり、動ける者の人数を数えたほうが早いほど、生きている人間の数は少なくなっていた。


「はぁ……はぁ、アーサー!!」


 全身の至るところの鎧が砕け、兜は完全に破壊されて頭からは流血をしているモードレッドが声をあげてアーサー王めがけて一撃を放つ。


「…………」


 アーサー王はモードレッドの一撃を鎧で受け切り、その衝撃により鉄兜が砕け散る。そして王の持つ剣はモードレッドの胸を貫いた。


 最後の力が尽きたのか、モードレッドは突き刺されたアーサー王の剣にもたれるように倒れこみ、その手から剣をおろした。


「……お、とう、さま……ボク、がんばり……ましたよ」


 丘の上、アーサー王しか聞き取ることが出来ない声量でモードレッドは思いを打ち明けた。


「…………」


 アーサー王は最後まで無言を貫き、やがてモードレッドの瞳から光が消えた。



    ◇



「……せっかく声も変えてあげたんだから、何か言ってあげてもよかったんじゃない?」


 戦場でただ一人生き残った王のもとに蝶々が現れ、その肩に留まると彼に直接声をかけてくる。


「俺が何を言ってもそれは本当のアーサー王の言葉にはなりえない」


 マーリンによって見た目だけでなく声帯まで本物のアーサー王に変えられたランスロットはその中世的な声で蝶々に話しかける。


「偽りだったとしても父親に褒めてほしかったかもしれないよ」


「それはモードレッドの誇りを傷つける行為だ」


「そういうものかな」


 マーリンは分からないといった反応をする。ランスロットは騎士としてそこだけは譲るわけにはいかなかった。


「……なんとか間に合いそうだな」


 空を見上げてアーサー王の姿になったランスロットはつぶやく。灰色の雪は降り続いたまま、足元を軽く覆いつくしていた。


「そうだね、泉までの案内は付き合うよ」


「悪いな、よろしく頼む」


「君に謝られるとそれはそれで気持ち悪いね」


「じゃぁどうすればいいんだよ」


 二人は互いに笑いあう。


 丘の上、この世界の主人公の姿をした男の乾いた声が灰色の空に流れていった。

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