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第100話 それぞれの思い

「後は……モードレッドが反乱してアーサー王を倒すのか」


 グリムは相変わらず否定的な感情を抱いたままだった。


 今の彼女がモードレッドに勝てるのか……

 勝てたとしても彼女はこの世界と共に消えていなくなってしまう……


 グリムが一人頭の中で葛藤している、その時だった。


「……マーリン、お前ならどこかで見ているんだろう」


 ランスロットは魔術師の名を叫んだ。しばらくするとグリムとランスロットの前に1羽の蝶々がひらひらと現れた。


「ここには俺たち以外誰もいない。その蝶の姿だと会話できる相手も限られるんだろ。魔法で元の姿にでもなったらどうだ」


「……そうだね」


 蝶々は少年の姿に変わりながらランスロットの言葉に相槌を打つ。玉座の間でも見た淡い青色の髪の少年がその場に現れた。


「世界を見渡せるお前の事だ。どうせアーサー王の正体にもとっくに気が付いていたんだろ?」


「君ほど早く確信には至らなかったけどね」


 マーリンは頭を軽く掻きながらそう言った。


「でもいいのかい?これでこの世界の人間同士で王様が死んだことを認識しあってしまった」


「いくら互いに隠し合ったとしても、崩壊はもう食い止めることは出来ないだろ?」


「それでも進行を遅らせることは出来たかもしれない」


 二人の会話を聞いていたグリムだがマーリンの言うことはもっともだった。この世界において重要な役割を持っていた二人がアーサー王の死を共有しあうのは世界が崩壊する速度に影響を与えないとは言い切れない。


「それでも、今から願いすることはお前にしか頼めないからな」


「……ボクに?」


 マーリンはきょとんとした顔になる、ランスロットはグリムと倒れているサンドリオンを一瞬だけ見つめるとゆっくりと理由を語り始めた。



 物語は最終局面に向けて動き出そうとしていた。



    ◇



「魔法でランスロットをアーサー王に変える?」


 驚きの声を上げたのはマーリンだった。グリムもランスロットの提案を聞いた瞬間言葉を失ってしまう。


「それは確かに可能だけど……いったいどうしてさ?」


「決まっている、俺がアーサー王の変わりにカムランの丘でモードレッドを倒すからだ」


「……な」


 ランスロットの提案にマーリンは口を開けて固まってしまう。


「……そんな事出来るわけないだろ!」


 正気を取り戻したマーリンがランスロットを責め立てた。


「どうしてそう言い切れる?」


「お前は「ランスロット」というこの世界で重要な役割を持った人間だ。そんな人間が主役を並行して演じられるわけがない」


「ふつうに考えたらそうだな、だが……」


 ランスロットは自身の胸の中から1枚の「頁」を取り出すとそこに描かれた騎士ランスロットについての役割について読み上げた。


「この世界のアーサー王伝説という物語の中で、俺に明確に与えられた役割はこの場でアーサー王と和解をするまでだ。後の事は何も載っていない、つまり……」


「……物語の終わりまでアーサー王を演じても物語に支障はない」


 グリムの回答にランスロットはその通りだと告げる。それはグリムがシンデレラの世界や赤ずきんの世界で行った作戦と同じ方法だった。


「「白紙の頁」を持った彼女がアーサー王をここまで演じて見せたんだ……俺にできない道理はないだろう?」


「そ……それは」


 マーリンは言葉に詰まった。


 確かに今の今まで彼女はアーサー王としてここまで世界を進行させた。しかしそれは役割を持たない外の世界からやってきた彼女が行ったからかもしれない。


 実際にその世界の住人でいて更に重要な役割を持っていたランスロットにできる保証はどこにもない。しかし……


「確かにそれは不可能ではない」


 グリムは口を開く。グリムは実際に生まれ育った最初の世界で重要な役割を与えられた人物が別の主要な役割を演じた姿を目撃している。


 なんの偶然か、白雪姫の世界と今のこのアーサー王伝説の物語の現状はあまりにも酷似していた。


「でも、それなら君じゃなくて、それこそ彼女やグリムが演じればいいじゃないか」


 マーリンがランスロットに言葉を返す。確かにその通りではあった。


「それはだめだ」


 ランスロットがはっきりと否定する。


「理由はいくつかある。一つ目は彼女では実力が圧倒的に不足しているという点だ。今のモードレッドは本物のアーサー王に肩を並べるほど力をつけている。俺に手も足も出なかった彼女では絶対にあいつには勝てない」


 グリムとマーリン、サンドリオンはそれをどうにかしようと玉座の間に集まって考えていただからだ彼の話す内容はもっともだった。


「そ、それならグリムはどうだい、アーサー王の力を得たグリムなら出来るだろ」


「アーサー王の力を得た?」


 マーリンの言葉にランスロットは食いついた。マーリンは一瞬しまったといった表情をするが、グリムが無言で首を縦に振ったのを確認して仕方がないようにグリムの持つ能力について彼に説明をした。


「そうか……グリムは「白紙の頁」の所有者でもなかったんだな」


 話を聞き終えると意外にもあっさりとした感想を漏らした。先ほどの激昂した態度からもっと詰め寄られかねないと思っていたが、今は本物のアーサー王との約束が最優先にしているのかもしれない。


「二つ目の理由だが、今のグリムには実力があっても覚悟がない」


「覚悟だって?」


 マーリンが聞き返す。グリムを見た後、倒れているサンドリオンの方を向きながらランスロットは口を開いた。


「彼女ならアーサー王の遺志を継いでこの世界の終幕まで付き合うだろう。しかしグリムは違う。彼はこの世界と共にその生を終えるつもりはない」

 

 そうだろう?とランスロットはグリムに視線を送る。

 グリムはゆっくりと首を縦に振って肯定した。


「覚悟があっても実力が伴わない女と、実力があっても覚悟の無い男……そしてこの場にはもう一人、その()()を持った男がいるだろう?」


 わざとらしくランスロットはアピールする。マーリンはそれを聞いて目をつむるとはっきりと聞こえるほどに大きく深いため息を漏らした。


「それでランスロットはグリムではなく、ボクに頼ろうとしたわけだ」


 その通りだとランスロットは笑う。そしてグリムの方に体を向きなおすと視線を合わせた。


「グリム、お前は彼女を連れて一刻も早くこの世界から離れろ」


「この世界から?」


「グリムがいなくなったら君のかけた魔法だと解けちゃうからね」


 それでボクにお願いしたというわけさ、とマーリンは説明する。


「彼女を連れて行っていいのか?」

 

 グリムの問いにランスロットは首をかしげるが、すぐに何かを理解したのか大笑いをした。


「お前にとって彼女は大切な存在かもしれないんだろ?それなら責任をもってこの世界から連れ出して見せろ」


 他人の色恋沙汰にはあまり口を出すつもりはないけどよ、とランスロットはからかってくる。


「……他人の妻には手を出す癖に」


 マーリンのつっこみに「うるせーよ」とランスロットは言葉を返した。


「それじゃ、僕からは約束通りこれを返すよ」


 マーリンはそう言うとグリムの目の前に赤色の宝石を出現させた。


「これは……?」


「君が持っていたガラスの靴の形を魔法で変えてみたんだ。これなら君が所持している「頁」のようにその髪留めに当てはめられるよ」


 マーリンの言う通り髪留めの開いていた箇所に赤色の宝石はぴったりと当てはまった。


「ただし、一度でも元のガラスの靴に戻したら二度とその形には戻らないからね」


「ありがとう、助かる」


 ガラスの靴の片割れを持ち続けるのは苦労していたのでマーリンの工夫は素直にありがたかった。


「本当は君がアーサー王として役割を果たすまで返すつもりはなかったんだけどなぁ」


 マーリンはボソリととんでもない事を言う。


「お前は相変わらず人の心が無さすぎる」


「王妃を寝取った人間にはそんなこと言われたくないなー」


 ランスロットとマーリンがぎゃーぎゃーと口論する。仲が良いのか悪いのか分からないように見えたが、あれだけ互いに言いたいことを言い合えるのは良いほうだとグリムは結論付けた。


「近くの厩舎に馬と馬車を用意してある、グリムは騎乗の経験あるか?」


「大丈夫だ」


 白雪姫の世界で王子様の役割をこなすために練習していた過去がある為、最低限は可能だった。


「それじゃ、ここでお別れかな」


 マーリンが両手を叩きながら締めようとする。


「そうだ、グリム、もし彼女が起きたらこれを渡してくれ」


「ん?」


 マーリンは魔法で目の前に1つの封筒を出現させる。


「アーサー王が彼女に綴った手紙だ」


「……わかった、必ず渡すよ」


 最後にランスロットから別れの言葉と手紙を受け取るとグリムは馬車を使ってこの世界にある境界線を目指し始めた。

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