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底辺ダンジョン配信者、目撃する

 2時間ほど階層を下り続けて現在は第5階層まで降りてきた。ここまでに6回ほどエンカウントしたが特に危なげなく返り討ちにしてしまった、思ったより手ごたえがなかったことに軽く失望してしまう。


・なんもないなぁ

・まあ、ビギナー向けだし

・初見で完全攻略したった動画上げる?


「うーん、今回はこのくらいでいいか。夜になるとモンスターが活性化するらしいし、深入りは禁物だからな」


 冷静になって考えると、ビギナー向けとはいえ何の情報もないダンジョンに長居するのは普通に怖くなってきたというのが本音だ。宝箱も見当たらなかったしもう来ることもないかもな、そんなことを考えながら来た道を歩いて戻っていた。


「―――ッッッ!!! ―――ッぁ!!!」

「ん? 他にも人がいるのか」


 少し先の小部屋から声が聞こえているようだ、なにか不穏な気配を感じながら足音を立てないように近づいていく。


「オーディール……これはどういうこと。今日は別行動だったはずでしょ、ギルドで手続きをしてくるって」

「ああ、そういえばそんな事を言ったね。そっちは私の秘書のべリスにやってもらっているから安心してくれ、表向き私は今ギルドの会議室にいることになっているがね」

「……オーディール、わっ、わたしは」

 

 なんだあれは、1人の女を4人の男が囲んでいるみたいだ。よく見ると男たちは全員転移者のようだ、薄暗いダンジョンの中でひと際煌めく金髪を伸ばした男はエルフだろう。頑強な肉体を全身鎧(フルプレート)に窮屈そうに収めているのはドワーフ、後ろには獣人が二人控えている、立ち振る舞いを見るだけで全員凄まじい実力者だと分かる。特にリーダーだと思わしきあのエルフの男はかなり強そうだ。仲間割れだろうか、剣呑な空気が満ちていてこっちの背筋が凍りつくのではと思わせるほどだ。直接止める勇気はないが、いざという時のために動画を撮っておこうとスマホを向ける。


(画面にノイズが走って使いものにならない。こんなこと初めてだぞ)

「アリサ、無駄だよ。配信で僕たちを告発したかったようだがスマホの操作も満足にできないんじゃないかな」

「なんでっ! さっきまで操作出来たのにっ! お願いッ、直って……」


 エルフの男、オーディールはにやりと(わら)うと掌にすっぽり収まるほどのガラス球を取り出す。ガラス球の内部には紫色の透き通ったオタマジャクシのような生物が泳ぎ回っていた。


(でん)(らい)(りゅう)の卵、こいつは雷の魔力を流し込むと特殊な電磁波を発するのさ。この電磁波は生物には何のダメージも与えない程度の微弱なものだが、機械にはよく効くのさ」

「クロッサス、あなたもそうなの……? みんなそう思っていたの?」


 アリサは震える声で周りの男たちに助けを求める。


「……ああ、概ね俺も同じ考えだ」


 巨大なメイスを肩にかけたドワーフの男がこともなげに返事を返す。オーディールにアリサにクロッサス、どこかで聞いたことがある単語だ。


「アリサ、君の気持ちはよく分かるよ。役立たずな自分を変えたくて、せこせここんな初心者向けダンジョンで特訓していたなんて涙が出てきそうだ」

「……」

「僕たちはこれっぽっちも君に期待なんかしちゃいなかったのに、いつか強くなれればと頑張ったんだね。本当に君は努力家だ」


 オーディールはそっとアリサを慈しむように頭を撫でる。アリサは放心状態なのかなんの反応も示すことが出来ない。

 

(あいつ、急になにを)


 瞬間、オーディールはアリサの髪をつかんで思い切り地面に投げ飛ばした。


「いっっぁ、あ、やめ……」

「地球のきみが僕たちに並び立とうなんて本当に馬鹿だねぇ、君はそれなりに聡明だと思っていたけど肝心なところでオツムが弱いのかな?」


ここまでのモンスターなどと比較にならぬほどの殺気と悪意が(あふ)れた発言だった。


「お飾りの姫さまには申し訳ないけど、ご退場いただこう。まぁ、これまで頑張ってきた君の努力に免じてチャンスをあげるよ」


 オーディールの足元に金色の魔法陣が展開する。(ふところ)から黒真珠(ブラックパール)のはめ込まれた短杖(ロッド)を取り出すと呪文を唱えだした、しかし詠唱に失敗したのか10秒ほどで魔法陣は消滅した。


(なんだ、何も起こらないぞ。失敗したのか)

「じゃあね、アリサ。今までありがとう、それなりに楽しかったよ」


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