由紀子の部屋で
千佳は由紀子の部屋に通された。由紀子は、ベッドに気だるそうに腰掛けていた。
「……どうしたの? こんな時間に」
千佳は、ドアのそばから動けなかった。由紀子がイラついているのがわかったからだった。
由紀子は、千佳のモジモジとした態度で、さらにイラつきが募った。
「……座んなよ」
千佳は、ドギマギしながら由紀子に従った。
「……」
由紀子は冷ややかな目で千佳を見ていた。
千佳は、そんな由紀子の視線に怯えて、ただ黙って座っていた。
由紀子のイラつきは、さらに増してきた。それは、用事があって訪ねてきたくせに、自分から話を切り出さずに、こちらからの問いかけをひたすら待っているだけの、千佳の意気地のなさに対してであった。しかも、その用事というのは、ほぼ間違いなく、由紀子にとって不愉快なことに決まっているのである。
由紀子は、千佳を痛めつけてやりたい気持ちになった。本人に自覚はなかったが、不思議なことに由紀子は今の千佳の姿に、2人の女生徒に問い詰められて、何も抵抗できなかった自分の姿を重ねて見ていた。
途端に由紀子は、自制が効かなくなるのを感じた。
「なんか用があってきたんじゃないの? そんな黙ってたらわかんないよ!」
千佳は、由紀子の高飛車な調子にビクッとした。そして余計に萎縮した。
「……あ、うん……」
由紀子は無遠慮に千佳を見つめた。千佳の顔は赤面して汗が吹き出し、いつもよりいっそう醜く見えた。由紀子は、自分が絶対的優位に立っているこの状況に気分が良くなってきた。その心には、千佳がどういう態度をとるのかを楽しもうとする余裕までが生まれていた。
千佳は、由紀子から目を逸らしたままだったが、それでもこの場から立ち去ろうとはしなかった。その態度は、下世話な好奇心から他人の色恋沙汰に踏み込もうとするような、無神経で、はしたないものではなかった。もっと頑なで真面目な、苦悩と真剣さを感じさせるようなものだった。由紀子は、千佳が可哀そうに思えてきた。