由紀子はどういう様子だろう?
由紀子が告白されたことを不意に知らされた日の翌朝、千佳は由紀子を迎えに白石家に向かっていた。
千佳は、少し緊張していた。
由紀子は今日は出てくるだろうか? 今どんな気持ちでいるだろうか? 昨日はどうして休んだのだろうか? 私はどう接すればいいだろうか?
そのようなことを考えながら、インターホンを鳴らした。
「はーい」
それは、由紀子の声であった。千佳は、ドキドキしながら由紀子が出てくるのを待った。まもなく、ガチャリとドアが開いた。千佳はドアから出てきた由紀子をちらっと見て、すぐに視線を逸らした。
パッと見た感じでは、由紀子はいつも通りだった。咄嗟のことだったが、千佳は、改めて由紀子が美人だと思った。
「おはよー」
挨拶しながら、千佳は、さりげない調子で由紀子の表情を窺った。
「おはよー」
由紀子の表情は、やはりいつも通りだった。少し眠そうではあったが、それもいつものことである。千佳は、なるだけ自然に振る舞おうと意識した。
「体調、もういいの?」
「うん、大丈夫だよー」
由紀子は、あくまでも平静だったので、
千佳は、ここからさらに一歩踏み込んだ質問をする必要があるのを感じたが、どういうことを聞けばいいのかまではわからなかった。しばらく気まずい沈黙の時間が流れた。
先に口を開いたのは、由紀子のほうだった。
「週末何してたの?」
「えっ、週末!?」
千佳の声が、不自然なほど大きかったので、由紀子はくすりと笑った。その笑顔を見て、千佳の緊張も解けた。
「週末はね、家でマンガ読んでた」
千佳はその後、学校に着くまでの間、ずっとお気に入りの漫画の話ばかりをしてしまい、結局、由紀子からは告白のことを何も聞き出せなかった。それは張り詰めた気持ちが緩んでハイになったのもあるし、核心に触れることを恐れるあまりにそうなってしまったのだったが、本人にはどうする事も出来ないことであった。
一方で由紀子は、千佳の他愛もない話をニコニコと聞いていた。そして千佳の話が中断したり、千佳の目線が逸れたのを見計らって、自分の右手を口元に持っていき、その親指の爪のあたりの肉を前歯に押し当てて、噛み固めるようにして噛んでいた。それは小さい頃からの由紀子の癖で、親に禁じられて、ここ最近は人前ではやらなくなっていたが、中学生になった今でも、人目につかないようにこっそりやってしまうものだった。そしてそれは、由紀子が強いストレスを感じた時に、特に頻発する行為であった。
由紀子は、千佳がもうすでに告白の件を知っていることを、千佳の不審な挙動から察していたのだった。