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仲違い  作者: 立石文作
2/9

千佳と由紀子の関係

千佳と由紀子は、家が近所で、生まれた日も近いという、正真正銘の幼馴染である。小さいころから家族ぐるみの付き合いで、本人同士もふつうに仲良しだった。

 ところが由紀子は、幼稚園くらいから複数の習い事をはじめたから、忙しくて千佳と遊ぶ暇がなくなっていった。一方で千佳は、幼稚園でできた新しい友達と遊ぶようになった。二人はすこし疎遠になったが、家族ぐるみの付き合いは相変わらずだったから、顔を合わせれば一緒に遊ぶという仲だった。

 小学校に上がってからも由紀子は忙しかった。そして本人が消極的なこともあって、なかなか新しい友達ができなかった。学校やクラスでも孤立し、行事のグループわけでいつもひとりぼっちになってしまう。そうなってくると担任もこれを放って置けず、お世話係として幼馴染の千佳をあてがうことにした。

 千佳は、はじめのうちはこれに乗り気だったが、やがてすぐに億劫になってきた。せっかくのイベントごとなのに、みんなと楽しめずに、由紀子の相手をしなければならないことが、苦痛とは言わないまでも、押し付けられた義務のように感じた。「由紀子さえいなければ……」という気持ちになることもあった。

 けれども、いつも習い事で忙しく、友達もいない由紀子のことを可哀そうに思う気持ちもあったから、そういった不満を表に出さず、努めて明るく由紀子に寄り添うようにしていた。

 だから由紀子が不登校になったときは、由紀子から解放されたという気持ちと、由紀子を心配に思う気持ちとが同時に湧いてきて、子供ながらに複雑な感じがしたものだった。


 そして中学入学の際、由紀子がまた学校に通いだすというので、再び由紀子のお世話がかりを申しつけられた。

 千佳は、自分の親から、由紀子をよく気にかけてやるよう命じられた。由紀子の母親からも、由紀子と仲良くしてくれるように頼まれた。

 千佳は、かつて由紀子が結局最後まで小学校に馴染めず、不登校になってしまったことに多少の責任を感じていた。

 由紀子に寄り添いながらも、本当は由紀子を疎ましく思っていたことに多少の罪悪感があった。

 それで、中学校では由紀子のために、自分ができることはなんでもやってあげようと決心した。毎朝、家まで迎えにいってやることも、そういうつもりでやっていたのだった。


 ところが、いざ中学校が始まってみると、小学校の時とは状況が一変していた。

 というのは、由紀子はにわかに人気者となったからである。

 由紀子は個性的な美人に成長しつつあった。色白で目力が強く、儚い感じと芯の強そうな感じが同居しており、人を惹きつける不思議な魅力があった。

 由紀子の存在は、入学前から他校の生徒の間で噂になっていた程で、入学式当日は、教室前の廊下に他クラスの男子たちが何人か連れ立って、由紀子のことを見にきたりした。男女を問わず、たくさんの人が由紀子とお近づきになりたがった。

 ところが由紀子は、周りで騒がれても我関せずという態度だったし、どことなく人を寄せ付けない雰囲気があった。

 そこで目をつけられたのが、いつも由紀子の隣にいる千佳だった。千佳は最初、いろんな人たちに話しかけられて戸惑ったが、彼らの思惑を察してからは、この状況が由紀子にとっては喜ばしいことだと思い、進んで両者をつなぐパイプ役になろうとした。

 ある日のこと、千佳は男女のグループで遊びに行くのに、由紀子を誘ってほしいと頼まれた。そのグループは、各小学校からの美男美女が揃ったいわゆる一軍であり、新学期の始まりにあたってメンバーの選定を進めているところであった。由紀子は美人だったので、声がかかったのである。

 千佳はすでに学校での地位があまり高くないところに決まりつつあったから、興奮して舞い上がった。

 そして、急いでこの朗報を由紀子に知らせた。きっと由紀子も、この栄誉を喜ぶだろうと思った。

 ところが、由紀子はほとんどこれに無反応だった。というよりも、むしろ迷惑そうにしていた。

 千佳には、そんな由紀子が理解できなかったし、由紀子もあえて弁解したりしなかった。

 それで仕方なく、千佳は一軍グループに断りの返事を伝えなければならなかった。自分の無力が情けなく、期待に応えられないことに申し訳ない気持ちを抱えながら。

 一軍グループは流石に余裕があって、明るくこれに応じてくれたが、その表情には失望が滲んでいた。もう二度と、誘ってはくれなさそうだった。千佳は、とても心苦しい思いをした。


 それからまもなく、由紀子は吹奏楽部に入部して、部活の友人と遊びに出かけるようになった。

 千佳は、一軍のグループはダメで、部活仲間はいい理由がよくわからなかったが、由紀子はもともと変わっているし、これ以上考えても無駄だと思って、放っておくことにした。

 

 やがて、由紀子に近づこうとするものはいなくなってしまった。


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