第42話 母親
燃えたぎる炎が少しずつ収まり、
周りを囲っていた炎の牢獄が少しずつ消滅していく。
クレアは目の前の炎に飛び込めず、
胸が張り裂けそうな思いだった。
そして何故かクリスを絶対に失ってはいけないと強く思っている。
そして徐々に炎の牢獄が消えて、
隙間からクリスの姿が見えてくると、
クレアは我慢出来ずに走り出していた。
「クリス!」
気付いたら俺は母親に抱きしめられていた……
二度と会えないと思っていたけれど、
こうして触れ合っている事が無性に嬉しくて、
気づけば瞳は涙で溢れていた……
母上……
「ば、ばか……心配させるな……」
「クレアさん」
一瞬、母上と言いかけるが言葉を飲み込む。
本当は打ち明けたい……
でも、拒絶されて離れてしまうことの方が今は辛い。
そう思ってしまう……
「お前が生きていてくれて、
本当に、良かった……」
母上は涙声で伝えてくれた。
その言葉を聞いた瞬間に、母親に自分の存在を認められた気がして涙が出てくる……
「クレアさん、ありがとうございます」
「な、なんでお前が感謝するんだ!
私の方が言わなければだろう?」
「え?」
「お前こそ、イフリートを倒し、
私たちを救ったじゃないか」
そうか、母上とユーリを守れたんだよな……
今でもまだ信じられない……
「そうでしたね!
でも、偶然、相性が良かっただけで……」
母上と抱き合っていると、
遅れてユーリも到着した。
「くりじゅー」
すごい顔でユーリが到着する。
涙と鼻水で洪水のようだ。
ユーリも俺を心配してくれたのかな。
でも、俺はそんなユーリの顔を見て、
面白くて吹き出してしまった。
「ふふふ、あはははは」
「ひどいよ……くりす……」
ユーリはせっかく心配してるのにと拗ねている。
いつものユーリと違って、
このような表情もとても可愛らしい。
あれから俺達はイフリートと契約をした……
契約の腕輪を母上が所持していたため、
その場で契約できたのだ。
その後、イフリートは精霊界へと去っていった。
そしてようやく、精霊の森を抜ける。
思えば色々あった森だが、
上手く切り抜けることが出来た。
「やっと抜けた~」
森を抜けると少し上り坂だが、遠くに村が見える。
待ちに待った村にユーリは、我慢が出来なくなり走り出した。
「あ、あねご!
ちょっと偵察に行ってくる!」
ユーリはお腹が空きすぎて限界なのだ。
森に入ってから半日以上は経っている。
一緒に食べた串焼きや、喫茶店での食事は、
とっくに消化し終わっていた。
「転ぶなよ~」
ユーリは、先に走り出してしまい、
少しの間、母上と二人きりになる。
「クリス、ありがとうな……」
「え?」
「ユーリのことだよ……
友達になってくれて」
ユーリに友達は一人もいない。
【魔女】が原因なのか、
ユーリから親しい者も去っていった。
「俺も楽しいですから……
ユーリと一緒にいると」
「クリス……」
「もちろん、クレアさんもですよ……」
急に自分に向けて言われると思っていなかったのか、一瞬驚いた素振りを見せるが、
俺に向けて優しい笑顔を向ける。
「あぁ……私もだよ……
クリス……」
その笑顔に俺は見惚れてしまう。
母上は、美しい容姿をしているが、
その笑顔に母性を感じたのかもしれない。
アリスにも会わせたら、
きっと喜ぶだろうな……
「おーい!あねご、クリス!
お団子無くなるぞ~」
村に入り、団子をチェックしたユーリが大声で叫ぶ。
「本当に食いしん坊なやつだ!」
母上は、はしゃぐユーリを見て、
自然と笑顔になっている。
「さあ、俺たちも行きましょう!
団子なくなりますからね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この村は山の麓に位置しているだけあって、
登山客や冒険者が多い。
「おい、あいつ閃光のクレアだぜ」
早速、母上の噂話が聞こえてくる。
本当にどこでもその名が轟いているんだな。
俺たちは今、団子屋のベンチに座って、
仲良く3人で団子を食べている。
ちなみにユーリは目を星のように輝かせている。
見物人が増え始めて、母上の眉間に皺がよる。
だがせっかくユーリが幸せそうに、
団子を頬張っているのに、邪魔してやりたくない。
母上は必死に我慢しているようだ。
そんな中、人混みをくぐり抜けて、
俺たちに向かってくる人物がいる。
「よお!クレア」
「お、おまえは!
カートじゃないか……」
まさか、麓の村でカートさんに、
出会うとは思っていなかった。
10年前のカートさんはあまり変わっていなくて、
吹き出しそうになる。
カートおじさん……
10年前もおじさんじゃないか。
「クレア、これからどこに向かうんだ?」
「この先の山に登るのだが」
「そりゃあ、良い!
俺も同行させてくれ!」
母上の実力は規格外だ。
敵に回すと、一瞬で光の剣の犠牲になるだろう。
しかし仲間であるならば話は違う。
道中の安全は約束されたようなものだ。
「お、おい……」
「俺一人だけだと心許なくてな!
お礼に夕飯はなんでもご馳走するぞ」
「な、何だと……」
母上はユーリへの奢りを心配していたようだ。
ユーリは大食らいだ。
何でも奢ると言ったのを後悔しているのかもしれない。
「わ、わかった!
お前の同行を許可する」
「あねご、奢りに負けやしたね……」
ユーリがジト目で母上を見ると、
母上は少し頬を赤くして反論する。
「う、うるさい……
こいつが何でも奢ってやると言ったのだ!
ユーリも遠慮せず食いまくれ……」
「な、何と!あねごから、
真の力を解放する許可がおりた!」
ユーリはその言葉に目を輝かせるが、
俺はこの後のカートさんのボーナスを心配した。
一瞬で消え去ってしまうだろう。
「おまえ、見ない顔だな……」
「はじめまして、クリスと申します」
「俺はカートだ!
そこのクレアと同じルミナスに所属する。
俺は騎士団だがな」
挨拶を終えて、野次馬もかなり集まってきたので、
俺達は移動する事にした。
ユーリの待ちに待った夕食の時間。
食事処へと向かっていく……
俺はカートおじさんが好きだ。
普段であれば会うことが出来て物凄く嬉しいだろう。
だが、この時代では会いたくなかった……
何故なら、母上の死を目にした人物だからだ。
俺達の旅は少しずつ終わりに近いているのかもしれない…
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