第33話 救出
ダカールを出てから半月以上は経っている。
いつも日課になった訓練は欠かさず行い、
フィリアと同じ戦闘を再現出来るよう努めた。
「そろそろ射撃の腕も上がってきたわね!」
「ありがとうございます!
大体は、外さずにいけます!」
フィリアに教えられたバブルショットは、
訓練の成果もあり、実戦レベルまで上達した。
更に強化格闘術で組み手もしている。
俺は、着実に強くなっている実感があった。
そして一旦訓練も落ち着き、馬車に乗り込むと、
フィリアがふと口を開いた……
「クリス君、何か聞こえない?」
よく耳を澄ますと……
「フィリアさん!
これは誰かの悲鳴だ!」
「そうよね、声の方向にすぐにいくわよ」
馬車をその方向まで走らせるとそこには……
「た、助けてくれ!」
助けを呼ぶ兵士と馬車を、
4体のオークが囲み、襲っている。
「フィリアさん、行きますよ!」
「クリス君、今の貴方なら身体を変化させず、
オークを瞬殺できるはず!」
そのようにフィリアが告げると、
俺はオークに向けてバブルショットを放った。
「よし、1匹目倒した!」
「ナイスよ!残りもすぐに片付けるわよ」
フィリアも馬車の方に向かい、
近くのオークを強化格闘術で始末した。
ひとまず馬車の安全は確保した。
「よし、後は俺が全部やる!」
バブルショットを放ち正確にオークを射抜いていく。
あっという間に残り最後の1匹になった。
更に怒り狂ったオークは俺の元へ向かう。
「クリス君、強化格闘術よ」
腹部を蹴り飛ばし、倒れた所に肘打ちを喰らわせて、
あっという間にオークを撃退した。
「だ、大丈夫ですか?」
「助けて頂き、ありがとうございました!」
「ところで馬車の方は無事ですか?」
俺はそう言いながら馬車の扉を開ける。
するとそこには綺麗な女性とその娘がいたのだ。
「あ、あの……」
「もう、大丈夫ですよ!
オークは既に全て退治しました……」
「へ?」
気品あふれる服装から間違いなく貴族だ。
社交界に出ないから、どこの家の人か分からない。
ん?なんか隣の女の子、同い年くらいの子かな?
「あの、貴方は男性なのですか?」
「ええ、そうですが……」
はぅと声が漏れて急に顔を赤くする少女。
その隣にいる婦人が口を開く。
「この度はオークの群れから助けて頂き、
本当に感謝致します!
宜しければお名前を教えて頂けますか?」
「クリス・レガードと申します」
「え?レガード家のクリス様って、
最近マリア殿下と婚約発表された?」
俺はそのように告げると、
目が飛び出そうな程、見開いている。
王都を出てもマリアとの婚約の噂は広まっていて、
聖女の人気は王都外まで轟いていると痛感した。
「貴方様はまさか!
公爵家のメリナ様ですか?」
フィリアが尋ねると婦人の方が口を開く。
「命を救って頂いたお二人に御無礼を……
私は公爵家メリナ・ルミナスと申します。
私の夫が陛下の弟なのですよ」
「私はカリナ・ルミナスと申します」
「えええええ」
まさか公爵家を救ってしまうとは。
しかもマリアの親戚である。
「あの、お住まいはどちらでしょうか?」
「ここから1時間ほどの港町ミゲルです」
公爵婦人がそのように口にすると、
俺は咄嗟に提案をしてみた。
「あの、もし宜しければ護衛しましょうか?
オークも多いですし……」
「よ、宜しいのですか?」
放っておくわけにもいかないし頷いた。
俺の提案を聞くとともにメリナが喜ぶ。
「では、私たちの馬車で先導しますので」
「あの、宜しければクリス様の馬車に、
乗せて頂けませんか?」
「カリナったら、すいませんけど、
お願いしても宜しいですか?クリス様……」
「ええ、大丈夫ですよ」
そして和気あいあいと話しながら、ミゲルに向かう。
しかし、このミゲルで沢山の出会いが訪れるとは、
この時の俺は思いもしないのであった……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
港町ミゲルに到着すると、
まずは公爵家に挨拶をする事になった。
「この度は我が妻、娘を救ってくださり感謝する!」
そのように口にしたのは、
ルミナス国王の弟のライラック公爵だ。
「こちらこそ、こんなに良くしてくださり、
ありがとうございます」
俺が言うのは目の前に広がる豪華な食事のことだ。
フィリアと共に盛大に歓迎されている。
「はっはっは、これくらいは当然だろう!
2人は命の恩人だからな」
何処かで聞いた事のある笑い声を聞いて、
やはり兄弟だなと思う……
「ところで、クリス君はマリア殿下と、
婚約したと言うのは本当かね?」
「はい、婚約いたしました」
「それは誠に残念だ!
もし良かったらうちのカリナをとも思ったがな」
公爵が言った途端にカリナが顔を赤くする……
俺も、そんな話を振られると思っていなくて、
苦笑いしてしまう……
「まあカリナも来年は儀式と学園だからな。
クリス君もその時は宜しく頼む」
「ええ、是非宜しくお願いします」
「ところでだが、クリス君、
褒美の件だが……」
「し、失礼します!」
突然だが公爵家に現れた王国騎士団の兵士。
とても慌てた様子である。
「公爵ら御歓談の中、大変失礼いたします!
緊急事態により参上いたしました!」
「何だ、申してみよ!」
「オークが、オークの群れが、
エルフの里を目指しております!」
「総勢は500です!」
「なんだと!」
オーク一匹あたり兵士2人、3人で対処する。
そのためダカールの街で40匹を対処できたのは、
フィリアが宮廷魔術師だからだ……
「このままではエルフの里が、
壊滅してしまう……」
「公爵達の目的地もその先なのですね!
何とか先回りできませんか?」
「それであればここは港町ミゲル
海から行けるが、まさか!」
「俺とフィリアさんが救出に向かいます!」
「い、いかん、相手が悪すぎる、500の部隊だと、
災害レベルの化け物がいる可能性だってある!」
オークの部隊がこれだけの数であれば、
公爵は、その統率者が潜むと指摘した。
「オークキング……」
咄嗟にフィリアが呟く。
過去、王と名のつくモンスターは災害レベルとして、
竜と同等程度の対象として討伐してきた。
「群れを見たのはいつですか?
エルフの里にどれくらいで着きますか?」
「昨晩発見して、恐らくは7.8日ほどで着くかと」
そう返事をしたのは、王国騎士団兵士。
そして俺は公爵に尋ねる。
「海から行くと、どれくらいで行けます?」
「飛ばせば2日もあれば着けるだろう」
一つずつ状況を確認したところ、
現実的に可能な作戦だと気付く。
「私も同行する!だが、限界が来たら帰るぞ!
君を死なせたら、陛下に会わせる顔がないからな」
「はい、そのお約束で結構です!
俺も死にたくないので……」
「決まりましたね!私も宮廷魔術師の一人……
皆さんを必ず守って見せます」
最後にフィリアが力強く言い切った。
「お礼の会ではなくなってしまったな……
だが、これが噂に聞くルミナスの英雄、
そして覇王を受け継ぎしものか」
「へ?」
「君と話して分かった……
凡人には無謀な挑戦と思う事も、
成し遂げてしまうからこそ、英雄なのだとな」
「いや、そんな大それた事は」
「はっはっは、謙遜するでない!
もしオークキングを倒してしまった暁には、
泣いてでもカリナを嫁にして貰わないとな」
「ちょっとお父様」
カリナが顔を赤くしながら公爵に詰め寄る。
俺はそれを微笑ましく眺めていた……
そして待ち受ける災害級モンスターと、
500にも及ぶオーク部隊がエルフの里に迫る。
休む暇もなく、翌日にはミゲルを経つことになった。
俺達は、出会って間もないが、
一致団結して旅支度に取り掛かった……
◆◆作者からのお願いです◆◆
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