第30話 師弟
早朝のルミナス、俺達は秘密裏に出発する。
目的を察知され尾行されてはいけないからだ。
「おはようございます!
フィリアさん」
「クリス君、よろしくね!
婚約して直ぐに大変だね~」
「まあ、そうですね……」
あの食事会にもフィリアも参加していたから、
俺達の幸せな光景を見ていたのかもしれない。
「あの、これから馬車で向かうんですよね?
俺たちだけですか?」
「そうね、極秘任務だからね……
基本、道中は二人になるわ」
家族やマリア様以外では初めてなんだよな。
母上の弟子だし、失礼のないようにしないと……
二人で歩くと門番の兵士と、馬車が見えてきた。
すぐに出発できるよう準備されている。
門番に軽く挨拶を済ませて、俺達は旅立つ。
そしてフィリアが馬車を操縦して、森を走り始める。
ルミナスを出ているため、モンスターは出現するが、
可能な限り無視して先を急ぐ事になった。
想像以上に3ヶ月で往復は時間が限られている。
「食糧は現地調達ですか?」
「所々でだけど、次の街で買い込むつもりよ」
「お金出てるんですよね?」
フィリアは馬車を操縦しながら一瞬躊躇う。
「そ、それは安心して!
ちゃんと貰ってるわよ」
返事をするまで時間がかかったが大丈夫か?
お金のことで悩むなんて嫌だぞ……
「ところでフィリアさんのスキルは、何ですか?」
「へ?スキル?」
フィリアは宮廷魔術師だ。
ルミナスの中でも上位の存在であり、
スキルが何なのか気になっている……
「まあこれから一緒に旅するわけだし、
説明しても良いか……私の二つのスキル」
「ダブルスキルなんですね!」
スキル二つ持ちはダブルと呼ばれ貴重な存在であることに変わりはない。
アリスやシャルロットがその例だ。
「一つ目は水魔法Lv.4」
「後もう一つは、強化格闘術Lv.5」
「え?」
俺は一瞬聞き間違えたかと思った。
強化格闘術?宮廷魔術師が格闘?
「魔法使いが近接戦?って思うわよね」
「正直、思います」
イメージが全く湧かない……
どうやって戦うんだ?
前方にオーク2体が見えて、
フィリアは馬車を止めてオークへ向かう。
拳と足に魔力を張り巡らせ、一撃でオークを粉砕し、
更に蹴りで二匹目を撃破した。
「こんなもんね……」
「…………」
俺は言葉を失った。
とても魔術師による体術ではなく、
まるでベテラン格闘家の技術にしか見えない。
「この強さの秘密は、魔法を使った身体強化よ!
全ての属性は身体強化できるの……
ちなみにセシルも使っていたはずよ」
「セシルもですか?」
魔法を使った身体強化があると聞き衝撃を受ける。
確かにセシルの異常な強さの一つと言われると納得した。
「身体の周りに魔法を留めるのよ。
制御が難しいけど、慣れると直ぐできる」
早速やってみるが上手く制御出来ずに消えてしまう。
俺には制御の才能がないのか?
全く出来る気がしない。
「クレア様が教えてくれたのも実践だったかな?
その方が掴みやすいのかも」
独り言を呟くと、いきなりフィリアは眼鏡を外した。
その瞬間、優しい印象から急に空気が変わる……
目つきがまるで別人になり鋭くなった。
「手加減はしてあげる……
殺すつもりでかかってきなさい」
「え?いきなり何を」
高速移動から蹴りが向かってきて、
予想を遥かに上回るスピードに対処できず、
そのまま喰らってしまった。
「っく……」
「ほら、クリス君も覇王を使わないと死ぬわよ」
ルミナスの中でもセシルは別格だった。
しかし、過去最強と謳われたクレア・レガードの弟子が目の前にいる。
「ほらほら、次もいくわよ!」
連続での蹴りと手刀の攻撃が迫る。
そのコンビネーションに対して、
俺は獣王剣で姿を変えて対処した。
「ふふふ、ようやく面白くなってきたわね」
やばい、本気でやらないと殺される。
母上の弟子……
フィリアの身体の周りに魔力が溢れ、
水魔法を身体強化へ変化させた。
「クリス君も同じように真似て!
火魔法を身体に張り巡らせるのよ」
「さっきからやってますけど……」
フィリアの連続攻撃を回避しつつ、
距離を開けて様子を見ようと離れる。
「ふふふ、距離を開けるのは愚策よ!
水魔法Lv.2、バブルショットを放つわ!」
いになり水の弾丸が発射され、俺の頬を掠めた……
咄嗟に避けるが、避けた方向の木を見ると、
見事に抉り取られている。
「う、嘘でしょ!」
「一応宮廷魔術師だからね……」
「フィリアさん、めちゃくちゃ強いですね」
近距離は強化格闘術で戦い、
中距離は水魔法の射撃だ。
その戦い方には、隙がなく洗練されている。
「クリス君、良かった……
先生として教えられることはありそうね」
そして二人の修行は過熱していくが、
水を差すかのように、3体のオークが現れた。
「っち!」
フィリアが舌打ちをしながら、バブルショットを放つと、オーク達は無惨にも息絶える。
「オークをゴブリンのように、
瞬殺するなんて……」
「せっかく面白くなってきたのに……
でもこの場所で、このオークの量はヤバいかも」
「え?」
「ルミナスからまだ距離も離れているわけでもない。
この量のオークが近づく事は殆どないの」
「と言う事は、近くで何かが起きている?」
「そう考えるのが筋ね……
私達が向かう筈だった街、
ダカールに行きましょう!」
ルミナス近郊の森にオークが増え始めた。
外の世界で一体何が起きているのだろうか……
俺は、ダカールの住民の安否を祈り、
フィリアと共に向かうのだった……
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