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09 再会と出会い

 修学旅行とは、見識を広める為のものだ。

 だから、買い物や遊興は、二の次三の次として扱われる。


 真珠達の修学旅行も『見て回る』と言った事が多くなるが、唯一例外なのが【自由行動の日】というものだ。


 ただ、いくら【自由】だからと言っても学校の行事であるので、移動計画の提出、携帯の位置情報呈示、写真の撮影と提出と言った縛りはある。

 これには、事故防止などの目的もある。

 移動手段は、基本的に公共交通だが、中には例外も居る様だ。


 7時からの朝食を終えて、ホテルの出入り口付近で、ただ立っていれば嫌でも目立つ。


「中島達は、タクシーでも呼んでいるのか?」

「私達は、東京に居る親戚に車を手配してもらってるから」

「そっかぁ~!その手が有ったかぁー」


 あえて、誰の親戚かを話す必要は無い。

 聞いたところで利益も無いのだから。


 そうして待っていると、白いワンボックスカーがやって来て、真珠達の前で停まった。

 ハイエースと言われるワンボックスでも大きい方の車だ。


「御待たせしたね、真珠」

「わざわざ済みません。御兄様(おにいさま)御義姉様(おねえさま)


 横のスライドドアから降りてきたのは、昴と紗香だ。


「こちらの二人が中島さんと、長谷川さんね?はじめまして。こっちの男が、真珠ちゃんの兄の昴さん。私は、その婚約者の紗香お姉さんよ。男のエスコートじゃ気が利かないから、応援で参加してます」


 あえて名字は口にしていない。


「中島です」

「長谷川です。御世話になります」


 意外と昴達との年齢が近い上に同性が居るので、中島達も安心した顔を示した。


「最初は、【渋谷スカイ】だったね?」


 巡る順番には、それぞれの営業時間が関係している。


渋谷スカイ 09:00open

109   10:00open

竹下通り  昼頃~


 下手に朝から竹下通りに行っても、開店前の店に行き場を失うだけだろう。


「後部座席は女性だけでくつろいでくれ。俺は前に乗るから」


 そう言って昴は、車の助手席へと乗り込んだ。

 東京は近くに駐車場を探すのが難しい。昴を同行させる為に運転席は別に居る様だった。


 車の中は、運転席と後部座席の間にスモークのパネルが有り、声は通るが姿が見えない様になっている。

 着替えたり、足を崩したりしやすい様にとの配慮の様だ。

 ルームミラーは、後部ハッチバックドアのカメラ映像を映す仕様になっている。


 窓の外を見ると、ホテルを出発するワンボックスカーを、同級生や先生が驚きの目で見ている。


「でも、橋本さんに御兄さんが居るとは知りませんでした」

「真珠ちゃんと昴さんの御両親は、訳あって別居なさって居るのよ」


 紗香の説明が、『それ以上は聞くな』との意味を持つ事くらい、この歳の者にも分かる。


「私達まで楽させてもらって、本当にありがとうございます」

「修学旅行は班単位の行動だろ?良いんだよ」


 タクシーで一日貸し切りと言うのもできるが、学生には高額になるし、公共交通が安いからと言っても駅が目的地の近くにあるとは限らず、乗り換えや移動時間がかなりのタイムロスになる。


 知人の車で移動と言うのが、学生達にとっては一番効率が良いのだ。


 知人側にも、久々の再会と会話ができるメリットがある。


「橋本さんは東京の短大行くんでしょ?頼れる御兄さん御姉さんが居て良いなぁ」

「あら?真珠ちゃんは就職じゃないの?」

「は、はい。早く家を出たいですが、資格を取りたいんで」

「そうなのね?」


 ホテルのある品川駅から渋谷駅まで、電車だと15分位だが、徒歩も入れると30分弱かかる。

 それに、地下鉄を使うにもJRを使うにも8時前後は、けっこう混む時間帯だ。


「道路も混むけど、広い車内だとゆっくりできますよねぇ」


 到着時間はたいして変わらないが、朝食後にくつろげるのは大きい。

 到着後も時間があるので、車をJR渋谷駅の東側に停めて、駅周辺を歩く事にした。


「ここが渋谷駅。JRだけでなく、幾つもの地下鉄が集まってるよ」

「あれが、地上より上にある地下鉄【銀座線】ですね?」


 東口からは、銀座線の立体交差が良く見える。


「じゃあ、混んでるからバラバラにならない様についてきて下さい」


 紗香を先頭に、JR渋谷駅を反時計回りに回っていく。


「ここが、有名な交差点【渋谷スクランブル】。アレが【109】だね。まだオープン前だから入れないけど」

「写真やビデオでも見てましたけど、実際に来ると違いますね?」


 特に交差点付近は、慣れない者は人混みに流されてしまいそうになる。


「続きまして、コレが【忠犬ハチ公像】です。それから、少し歩きますが、向こうのバスターミナルの手前に【モヤイ像】が有ります」

「ああ、移動証明に写真が要るんでしたね。携帯を貸して下さい。三人並んで撮りましょう」

「御姉様も一緒に撮りませんか?」

「いや、私は部外者だから、真珠さんとだけ撮るわ」


 各々のスマホで写真を撮るのを、昴と紗香が手伝った。

 代わりにではないが、真珠、昴、紗香の分の写真を中島達が手伝う。

 実際には、昴や紗香の映像が流出するのは、警察に目を付けられるので芳しくないからだ。


 街並みを堪能していると、時間が経つのは速いものだ。

 喫茶店でひと息つき、時間を確認する。


「そろそろ【渋谷スカイ】の営業時間だね。駅の方に戻ろうか?」

「「「はい!」」」


 渋谷スカイは、渋谷駅に隣接するビル【渋谷スクランブルスクエア】と言う商業ビルの屋上エリアで、ガラス張りの360度展望台として有名だ。


「46階建てで屋上は約230m」

「明日行くスカイツリーの半分位の高さだけど、街並みを楽しむには良いわよ」


 渋谷スクランブルの人々の動きが、上からだと良く見える。

 ここでの記念写真は、風景が下側にあるので、スマホ棒によるハイアングルからの撮影が適している。




 しばらく展望を楽しむ彼女達だったが、紗香が中島と長谷川にヒソヒソ話をしてから、真珠に近付いて来た。


「さて、ここで真珠ちゃんにサプライ~ズ!」

「何ですか?御姉様」

「長らく別居していた、御父さんとの御対面でぇす!」

「えっ?確かに東京に来たらって言ってましたけど・・・」


 いきなりの事に動揺する真珠だが、彼女の前で立ち上がる中年男性に視線が向かう。

 横には昴が居るので、間違いないのだろう。


 男性も緊張のせいか、顔がこわばっている。


「親父、スマイル、スマイル」

「あ、あぁ、分かってる」


 無理矢理つくる笑顔がぎこちない。


「は、は、はじめまして。真珠です」

「う、うん!元気そうで良かった」


 二人ともガチガチで、真珠はうつむき、父の弥彦(やひこ)は空を見ていた。


「ここで、ずっと見ていたが、良い娘に育ったな、真珠」

「はい、ありがとうございます」


 緊張のあまり距離をとる二人に、業を煮やした紗香が詰め寄っていった。


「父娘の語らいに、言葉は要らない!」


 紗香が真珠の背を押し、ぶつかってきた彼女を、弥彦が受け止める形で抱きしめた。


「お、御父様・・・・」

「・・・・・・・」


 勢いで抱きしめたが、弥彦に動きが無い。


「親父、何とか言って・・・親父?・・親父!息をしろ!親父ぃ~」


 弥彦は、真珠を受け止めた格好で硬直し、そのまま後ろに倒れ始めた。

 気が付いた昴の手助けで頭を打つことは無かったが、そのまま仰向けに倒れこんだのだ。


「おや・・・し、社長!」


 数人の男が、周囲から駆け寄り、弥彦を取り囲む。


「御父様?」

「大丈夫、大丈夫だ真珠。喜びのあまり、失神したみたいだ」


 男達の間がら覗き込むと、鼻血をだしている弥彦の姿が目に入った。


「大丈夫だから、後は部下達に任せて、次に行こう」


 真珠達を騒ぎの視線にさらすのは、良くない。

 昴と紗香は、三人を出口へと押しやった。


「すまなかったね、騒ぎになって」

「いいえ、でも感動の再会が、予想外の展開でしたね」


 女子高生三人も苦笑いするしかない。

 心配ではあるが、何人もの【部下】が駆け付けていたので大事には至らないだろう。



 次の予定は、渋谷109だ。


「騒ぎになった御詫びに、お会計は真珠ちゃん以外も、この紗香お姉さんが引き受けるから、欲しい物が有ったら言いなさい。お小遣いは、家族へのお土産を買うのに取っておきなさいね」

「紗香お姉さん最高!私達も【御姉様】と呼ばせて下さい」

「コラコラ紗香、あまり甘やかすなよ。みんなも、学生の範疇での買い物をする様に」

「「「はぁ~い!」」」


 実際の109は昨今地方にできた商業ビルよりも、かなり手狭までは有るが、今でもココが日本の流行の最先端である事には変わりない。

 洋服とはいかないが、三人は紗香のアドバイスを聞きながら、小物を幾つか買っていた。


「そろそろお昼ね!何か食べたい物はある?」

「私、ネットで調べたんですが」


 長谷川がスマホを出して紗香に見せている。


「そうね。昴さん、私達は食事してくるから、駅前の何処かで時間を潰して来て下さる?」

「えっ!俺も行くけど?」


 紗香は左右に首を振った。


「身内や友人なら兎も角、御客さんで女性の長谷川さんや中島さんが居るのよ。食事するのを男性に見られたくないわ」

「あぁ、そう言う事か!分かった。俺は親父達と話も有るから席を外すよ」


 そう言って、昴は真珠達に手を振った。


「さて、邪魔者は居なくなったから、肉とスイーツを食べまくるわよ!」

「「「オー!」」」


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