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06 認められない者

世界は優しくない。

世界は強者の理論だ。


どんなに頑張っても、必ず実を結ぶとは限らない。

むしろ、望んだものになれないのが、現実の世界だ。


その世界の中で、

頭の良い成績優秀者が良い学歴を得る。

商売の上手い者だけが儲かり裕福になる。

速く、強く、巧みな者だけが一位として持て囃される。

対人関係が上手い者は人気者として話題の中心となる。


一位(トップ)が居れば、必ず最下位(ブービー)が生まれる。


ごく一部の者だけが良いものとされるが、そのせいで常に生まれてしまう成績最下位の者達、苦手な者は、無価値な者として愛されず、認められず、無視され、駄目な存在とされてしまう事が多い。


進歩や発展の為には犠牲が必要だと言う者が居る。

だが、それは加害者側が言って良い事ではない。

それでは犯罪者と変わりない。



繰り返すが、世界は優しくない。

世界は強者の理論だ。


この様な社会で育った結果、最下位となった彼等自身も、自分を愛せず、許せず、認められなくなってしまう。

自分自身を無価値だと考えてしまう。


それは、とても(つら)い事だ。


彼等は価値を欲し、力を欲するが手段を見いだせず、暴力などで優位性を表現し他者に認められるしか、自らの価値を見いだせなくなってしまった。


それは、彼等だけが悪いのか?

彼等が、その様な価値観の世界を作ったのか?

強い者、暴力的な世界を作り、求めている者は、彼等だけなのか?


あなたは、どう思う?


夢を持ち、それに敗れて絶望し、悲観的になった事は誰にでもあるだろう。


幼少期に社会から与えられる夢。お姫様やヒーロー、歌手やスポーツ選手。


だが、自分ではソレに成れない現実に向き合った時、世界や相手、非力な自分が憎くならないだろうか?


一般に、物事が悪いこと。役に立たないこと。つまらないこと。粗末なこと。生活の態度がまともでないことなどの代名詞として【ヤクザ】は使われている。


では、【ヤクザ】を作り出しているのは、いったい誰なのか?






 昴の話は、一部だが真珠にも理解できるものだった。

 彼女自身が他者に馴染めない面があり、虐めは受けていないものの、仲間外れに近い状態だったからだ。


 テレビのドラマやニュース報道の様なクラス単位での虐めが有れば、たぶん真珠は虐められていただろう。

 こう言った虐めは、入学初年度には起こりにくく、各自の器量がわかったり、集団ができはじめる二年目以降に起きやすい。


 幸いにも、真珠が二年の時に転校してきた【ある一年生】の存在が、学校内での不良行為や虐めの類いを、強制的に抑制しているらしい。

 あまり表立って騒がれないが、虐めていた側の生徒や黙認した教師までもが、何人か自主退学や休職したと聞いている。


「御兄様も、そんな過去が有って【極道】になられたんですか?」


 昴の話では、極道の子供だからと言って、必ずしも極道に成るとは限らない。


「いいや。俺の場合は、親父が八重子さん以外の女房を娶らなかった為に、正統な後継者が俺以外に居なかったのがある。跡目争いは、組を、家族をバラバラにするからな」

「御兄様は将来の自由が無かったんですね?」


 他に兄弟が居れば、昴にも選択肢は有ったのだろう。

 後妻を取らなかった父親が悪いのか?母親の行動が昴の人生を固定してしまったのか?


「今は、こうして妹が居る事が分かったが、俺は唯一無二の存在として求められる人生も、悪くないのだと考えている。求められずにヤクザとなった者達の旗印、拠りどころとしての存在意義が有るなら、意義が無く【自由】と言いつつ彷徨(さまよ)う人生より、何倍も有意義じゃないか?」


 昴の考え方は、真珠が本で読んだ【王族の存在意義】に近い感じがした。


 そうこう話している内に、電車は自宅の最寄り駅に到着していた。


「挨拶には行ったが、流石に家まで送る訳にはいかなくてな」

「お母さんが嫌がるんでしょ?分かってるわ」


 決して昴が悪い訳ではないが、母の心を気遣うのは真珠にも分かる。


「しばらくは部屋で休め。学校に出れる様になったら、婚約者を紹介してやる」

「うん。楽しみにしてる」


 そう言って昴と別れたが、そうそう家族にも会いたい気がしない。

 今日は家族から逃げる為に学校へ向かったが、学校の人達も恐いと思ってしまった。


「しばらくは、部屋に閉じ籠りたいなぁ」


 ただ、引きこもりになってしまうと、昴にも会えなくなるので、頑張って落ち着こうと思う真珠だった。






 駅に残り真珠を見送っていた昴に、近付く影があった。


「山本、現地調査をご苦労様だったな」

「いいえ。親分と若頭のお役にたてるのであれば、この位は何という事はございません」


 近付いて来た男はタクシー運転手の格好で、その車は【迎車】表示になっている。

 ちょっと見には、呼び出した客かどうかの確認問答に見えるが、その内容は全く違っていた。


「息子の(たけし)は、元気か?」

「はい。関係がバレるといけないので、お嬢にも若頭にも近付かない様にしています」

「流石だな。真珠はカタギなんで、くれぐれも注意してくれ。特に剛には苦労をかけているが、真珠が卒業したら俺の所に来い」

「ありがとうございます。今後もお役にたたせていただきます」


 タクシー運転手は帽子のツバを持って頭を下げてから、他をキョロキョロと見回しはじめた。

 如何にも自分を呼んだ客を探す仕草をしばらくしてから、彼は駅前から去っていった。


「どうやらステージ4も、無事に終わりそうだな」


 物事は昴達の予定通りに進んでいるようである。


 顔には出していなかった精神的興奮が、どうやらおさまってきた昴は、ハンカチで簡易的に止血をした右手を見て苦笑いを浮かべた。


「今回、親父は来なかったが、【御父様】なんて言われたら、どうなるんだろうな?」


 娘を持つ組員に聞いたところ、娘を持つ父親の心情は尋常ではない様だ。

 ドラマでも娘が連れてきた彼氏に『娘はやらん!』とか『嫁にやる位なら儂が結婚する』とか言う場面がある。


「真珠が彼氏を作ったら、親父が暗殺しそうだな」


 そう言う昴も、真珠の彼氏を何発か殴る自信だけはあった。


 他者から認められずにヤクザと言われ、絆を大切にしようとする彼等でも、娘や妹の彼氏だけは、【認められない者】の様だ。


この作品は、5日、10日、15日、20日、25日、30日(または月初)の00時に次回発表となります。

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