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50 戦争

 紅蓮会と牙釖組は、関東で大きな力を付けてきた。


 それに(なび)いて傘下に入る組、敵対を避けて中立不干渉を告げる組、敵対して潰される組など対応は様々だった。

 近隣の組には会合が持たれたので、意図的に紅蓮会達が勢力拡大を考えていない事が一応は知れたが、少し離れた組には詳細は分からず、遠目には大きくなっていく紅蓮会達の動向に驚異を感じる事は少なくない。


 静岡県に縄張りを持つ【清水愚庵(しみずぐあん)組】は、そんな危機感を抱いた組の一つだった。

 特に襲名も宣言もしていないが、あの有名な清水次郎長(しみずのじろちょう)の血を引く子孫が組長をやっていると自負している。


 清水次郎長こと山本 長五郎 やまもとちょうごろうは、江戸時代末期から明治初期に静岡県静岡市清水区美濃輪町を拠点にしていた侠客・実業家である。

 二回、妻を(めと)ったが、養子こそあれ実子は居ないとされている。

 だが、彼が他の女性と関係を持たなかったとの証拠は無く、『実は清水次郎長の子供なんだよ』と言われた者が皆無なわけはない。


 根拠や証拠は無いものも、【次郎長の子孫】と信じる者は居るのだ。


 静岡県には、他にも大きな組は有ったが関東とは不干渉の形をとっていた。

 だが、清水愚庵組の【清水次郎長の血を引く】と言う自負が、地元を守らねばならないと言う責任感を生み、紅蓮会に対する調査と武器や人員の調達という行為を行わせたのだった。

 その意味では【真っ当な極道】だと言えるだろう。


 ただ、他地方の者に関東での情報コネクションは無く、【紅蓮会】や【牙釖組】の名を出した調査と人員の集めは、すぐに紅蓮会の知るところとなる。

 人員集めには、牙釖組達に潰された組の残党や関係者が含まれる為に、それらを集める事は牙釖組達にとって芳しい事ではない。


「これ以上は敵対行動と見なさせてもらいますよ」

「そう言われましても、我々も自衛は必要ですからね」


 若頭である駿河昴は、牙釖組名代(みょうだい)として清水愚庵組へ来ていた。

 勿論、地元の大きな組へ挨拶をした後の訪問だ。


「それにしては人員集めが、あからさまですよね?」

「牙釖組の事を知る者に当たったところ、是非に盃を交わしたいと申し出てきましてね。関東では生活しにくいと聞いていますよ」


 回状こそ回していないが、紅蓮会から人相書きは回されている。

 下っ端と言えど潰された組に居た者が牙釖組や紅蓮会の息がかかった組の世話になれない。

 本人達の意向ではなく、組の方が受け入れないのだ。

 どこの組も、紅蓮会と牙釖組に変な目を向けられたくはない。


「関東に手出しをしなければ、関わる事もないでしょうに」

「身を守る為に情報は必需でしょう?」


 双方には双方の理由があり、他人は信じられない為に話し合いで解決するとは限らない。


 勝てないまでも守りたい清水愚庵組と、下手に嗅ぎ回れて真珠との関係を壊したくない牙釖組との話し合いは、もの別れに終わった。


 立会人の居る場で殺し合いは無いが、既に抗争は確定でしかない。


 立会人が無言で眉間を押さえる。


「この場は預かりますが、うちの組は止めましたからね?今後どちらに被害が出ても、預かり知りませんよ」


 立会人も、地元の大きな組とは言え、望んで関東と事を荒立てたくはないし、その旨は牙釖組にも清水愚庵組にも知らせてある。

 地元のよしみで立会人になったが、傘下ではない清水愚庵組組への強制力は無い。

 清水愚庵組が関東と争って潰れるの自己責任だし、潰れれば縄張りが増えるだけだ。


 昴は、立会人を組事務所に送った後に、高速道路に乗って電話をかけた。


「山本か?配置は終わってるか?」

『はい、準備はできてます。で、相手とは手打ちになったんですか?』

「いや、もの別れに終わった。立会人の黙認もとれたので、一気に潰せるぞ。人の出入りは確認しているんだろうな?」

『大丈夫です。近くの民家に【取材】と称して無線カメラを数台設置してあります』


 その様に受け答えする山本が居るのは、清水愚庵組から1キロ弱離れた小高い屋上駐車場だった。

 障害物無く清水愚庵組が見える場所を探すのには苦労した。


「状況は実行可能か?」

『ターゲットの方は主要メンバー他、外出した形跡はありません。【船】の方も大丈夫です。天気も良好です。後は放送を開始すれば実行できます』

「よし!後のタイミングは任す」


 昴は電話を切って、近くの高速サービスエリアに入る様に指示を出した。

 パーキングエリアの店に入ればセキュリティカメラに写って、アリバイ工作ができる。


 



「【あれ】を使うのは、これが初めてか!アンテナを目標に向けて、電波発信っと!」


 駐車場には地方のテレビ放送局の車に偽装したワゴン車が止まっている。

 偽装と言っても元は本当にテレビ局で使われていた放送中継車だ。

 開かれたハッチバックからは大きなパラボナアンテナが姿を見せており、清水愚庵組の方を向いている。

 内部の機材は一部が付け替えられ、放送電波ではなく指向性レーダー波が発信される様になっていた。


「(これでレーダー波を当てるとミサイルが目標に向かい、近くまで来ると画像データを参考に標的にヒットするらしいけど、)こっちに来ないよな?」


 一応は軍事顧問を雇ってレクチャーを受けているが、使用は今回が初めてなので心配だ。


「いざとなれば、止める事もできますから」


 キョロキョロする山本に対して、同行した元中東兵士の軍事顧問に心配している形跡はない。

 この軍事顧問には清水愚庵組の事は知らせていない。あくまで装備の使い方を教える為に同行している。

 まだ若い山本剛が担当したのは覚えが早いのと、テレビ局員として近隣住民に接するのに、学んできた接客業と外観が使えるからだ。

 車の運転は千島が担当している。


「こちらは山本剛です。準備はできました。荷物を出荷して下さい」

『こちら輸送船の四谷。シフトGも実行中、向きもOK、天候は曇天と問題なし。出荷します!』


 衛星電話の向こうで轟音がした。


『輸送船より出荷完了。ちゃんと届くんですかねぇ?』

「基本コースはセット済みですから、我が家に向かう事は無いはずですよ」


 八丈島近海に居たコンテナ戦からクラブミサイルが発射されたのだ。

 コンテナ船のブリッジは一時的に紅蓮会の者で占められていて、通常の船員は窓の無いキャビンに詰め込まれている。

 船の向きを変えて自動操縦で進ませている。

 詰め込まれている船員は、何が起きているか知らないし、紅蓮会のクルーも目標を知らされてはいない。

 雲が掛かった場所を選んだのは衛星からの撮影を用心しての事だ。

 目撃者さえ居なければ「海中から何かが飛び出して飛んでいった」と証言すれば済む。

 全てを知るのは昴と山本と千島の三人だけだ。知る者が少ないに越した事はない。


 コンテナに偽装した巡航ミサイル【クラブ】の射程は約300Kmある。

 方角的にも「本来は富士演習場か米軍基地を狙ったのでは?」と考えられるだろう。

 暴力団の抗争に軍用巡航ミサイルを使うとは常人には考え付かないし、コストも掛かる。


 直前まで清水愚庵組に居た昴も、『自分も、あと少し遅ければ巻き込まれていた』と驚いてみせる準備もできている。


 クラブミサイルは音速の半分強で飛行し、到達誤差は3m。

 山本が衛星電話を使ってから数十分で清水愚庵組が炎に包まれた。


 搭載された500キロ爆弾により半径16m以内が爆死。80m以内は破片殺傷で即死すると言われている。


 燃え上がる爆炎を見ながら、山本は昴に電話を入れた。


「もしもし、山本です。今、火事が起きているみたいですよ。御無事ですか?」

『ああ、俺は今、高速のパーキングエリアだ。何処が火事なんだろうなぁ』

「御無事なんですね?会合場所の近くみたいなんで心配しましたよ。では、これからもお気を付けて」


 わざとらしい会話だが、作戦成功を意味する会話だ。

 電話が終って山本は機材を片付けはじめる。


「いかがでしたか?」

「操作も覚えた様だし、成果も充分だ。商品の追加発注は確実だろう」


 軍事顧問の問いに、山本が頷き千島が答えた。


 会話や通話に隠語を用いているのは、盗聴や傍受を懸念しての事だ。

 車を出してから、しばらく走って山本が千島に声をかけた。


「【出入り】って、銃や日本刀を持った十人以上で押し掛けるんだと思ってましたけど、これじゃあテロや戦争ですね?」

「いや、暴力団の抗争って本当は、こんな形じゃあなかったんだがなぁ」


 当然、金とコネクションが有っての事だが、千島も山本も首をひねって時代の変化を感じていたのだった。


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