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44 親友

 牙釖組本家では他の組員を排して、組長の駿河弥彦と若頭の昴、若頭姐の紗香がプレアデス達からの報告を受けていた。


「その後、真珠の様子はどうなんだ?」

「はい。町中でも図書館でも笑顔が多い様でした。大学でも数人の女友達ができているようです。特に虐めや嫌がらせは発生していません」


 報告をしているのは控えている三人のプレアデスの一人だ。


「田舎での聞きこみ調査では、小中学生と父親不在を理由に虐められていたとあったな。そのせいで、高校生になっても自閉ぎみで親友ができなかったと聞いていたが」

「東京に出て、少しは改善されている様ね」


 子供と言うのは経験不足と甘やかされで、恐ろしく残酷な言動をするものだ。

 本人達は【遊び】だが、相手は【虐待】と感じる事が多分にある。

 小中学生は、地元の子供達が集められているので家庭事情などが知られやすく、学校外での生活範囲が重なりやすいので、その傾向が高い。


 高校生からは各所からまばらに集まるし、学校外ではバラバラになる上に分別もついてくるので、情報収集の困難さと自我の芽生えから家庭事情で虐められる事は減る。


 だが、情報が完全に遮断されるとは限らず、幼年期に根付いてしまった性格や行動が、高校生になったからといって一気に改善される訳もない。


 昴達が真珠の存在を知ったのは、彼女が高校生になってからだ。

 なので山本達を使って、それ以前の情報を聞き込みさせていた。

 父親である弥彦は、あえて別れた妻達との接触を避けていたのだ。


「しかし、依然として【親友】と呼べる者は居ない様です」

「流石に儂達では、一般人(カタギ)の友人を作ってやる事ができないからなぁ」


 父親である弥彦は、頭を抱えている。

 真珠を引き取りたいが、それは彼女を極道の世界に引きずり込む事となる。

 極道の親は、子供に同じ道を歩んで欲しいとは思わないものだ。


 真珠の様に、虐められた子供は高校生になっても人付き合いを恐れる傾向にある。

 大学生になり、東京に出て知人の無い場所で心機一転を図っても、時間はかかるものだ。


「親友は時間が掛かるわ。親友さえできれば虐めも無くなるんだけど」

「ともあれ、分かっていると思うが、【任侠道】とは仁義を重んじ、弱きを助け強きを挫く事にある。寄り添ってやれないからと言って、身内すら助けられずに何の極道か?真珠に害を及ぼす者、悪しき者を近付けるな!」

「へいっ!親分。あっしらが御嬢を守ってみせますぜ」


 真珠の身辺を安全に守ると言うことは、地域全体を安全にする事であり、それは地廻りや名主(めいしゅ)としての極道に添う行為になる。


「まぁ、あの年頃だと、親子の距離はあった方が良いんだけどねぇ」


 思春期の子供は、生活に不自由が無ければ独り身を望む。

 独り暮らしで親の有り難みを知るのも良い経験にはなる。


 報告していたプレアデスが位置を下げ、別のプレアデスが身を乗り出してきた。


「次に警察の動きですが、例の警視正の暗殺は一応は捜査が入っていますが、科捜研などにも手を回しているので何とかなるかと。表向きは【事故死】扱いとなっていますが」

「三笠の方は?」

「はい。ハワイの件は不可抗力として認識されていると、藤堂警部や田辺巡査から連絡が入っています」


 警察にはマル暴以外にも、個人的に弱味を握られている者が複数居る。

 そもそも科捜研や鑑識は、短期間に結果を求める刑事課などに不満を持っている。

 指紋鑑定やDNA鑑定など、休む暇もない鑑識は、テレビドラマの様に一つの事件に掛かりきりになれるほど暇ではない。

 なのに刑事課は『早く、早く』と急かしてくる。

 他の案件も、その人達の人生が掛かっていると言うのに。


 一般市民ならいざ知らず、そんな刑事課のトップである警視正の検証に意欲を燃やす職員など皆無だ。

 忙しい現場に内通者が紛れていれば、検体や写真の入れ替えも不可能ではない。


 ハワイの件は全体的には失敗に終わったが、的確に暴力団の情報を掴んだ田辺巡査や、残されたマル暴で奮闘した補佐の藤堂警部達は、個人的には評価を上げている。

 その全てがマッチポンプではあるが。


「山本純一郎、いや、菊地昭彦の後釜は、予定通り速川が受け持ちます。息子の山本剛は高校を中退し、贔屓にしている小料理屋に預けて、運転免許取得とプレアデスとしての研修を受けさせています」

「しかし、あの山本が潜入捜査官(モグラ)だったとはなぁ。客人扱いの時に皆の忠告を聞いていて良かった」

「いえ。あの組に行った時に見覚えが無かった奴なんで、組長に具申したのが功を奏しただけです」


 警察側も巧妙に準備しただけあって、牙釖組も尻尾を掴めないでいたのだ。

 余りに長い客人扱いだったので、この度プレアデスに入れたが実の息子が仁義を通してくれた様だ。


「今後も皆の奮闘に期待する」

「へいっ!親分」





 『友達の友達は皆、友達だ』と言われなくなって久しい。

 友達が悪くなくとも、その友達が性悪だったりするのは有り得る事だ。


「ウチの彼氏がぁ、面白い所に連れてってくれるってよぉ!うまくすれば、ボロ儲けできるらしいわよ」

「お酒も飲めるっていうし、雰囲気を楽しむだけでもイイんじゃない?」


 こんな話を聞けば、言わずと知れた【闇カジノ】である。


 日本での賭博は合法である。


 但し、国の認可を受けた地方自治体や国が運営するものに限られている。

 2023年現在では競輪、競馬、ボートレースなどがソレだ。

 逆に言えば無許可の賭博は違法であるが、実際には個人的に金品を賭けてやっているものや、組織が闇でやっているものは実在する。

 特に闇カジノは、闇金融とも併設しており、気軽に金を借りる事ができるのだ。


 真珠が友達のカラオケに付き合った二次会として引っ張られたのは、スナックバーの奥だった。


「ここの地下に、遊べる場所が有るんだよ。俺は顔パスだからな」

「いらっしゃいませ。こちらの女性達は、初めてですね?」

「ああ、俺達の連れだ」


 カラオケの後で合流した【友達の彼氏】と呼ばれる男達に続いて、店の更に奥に案内されていく。

 細い通路を通る途中で、壁のLEDが赤く点滅をはじめた。


「な、何だ?この赤ライトは?」

「どうしたの、これ?」


 常連らしい男達も戸惑っている。

 先行していた店員が立ち止まって、客に向き合った。


「御客様、申し訳ありませんが、本日は御案内できない都合が発生した様です。満席なのかも知れません。残念ですが、お帰り頂く事になります」


 何かトラブルが生じたらしく、店員が頭を下げてきた。

 指示に従い、細い通路を戻って元のスナックバーに帰ってくる事になってしまった。


「満席かよ?つまらねぇな」


 遊技場は、入場客数を制限する場合がある。

 これは複数の事故を避ける為の処置だ。


「でも、他の客は入っていくわよ?」


 見ると、他の店員に引率された客は店の奥に消えていく。


「本当だ!おいっ、店員!どういう訳だよ」

「おかしいですねぇ。ハッキリとは申せませんが、御客様の中に出入り禁止対象者か、新たに出入り禁止になった方がいらっしゃるのかも知れません」


 具体的に明言されてはいないが、皆が行き先を【闇カジノ】だと気付いている。

 真珠は断りたかったが、友達付き合いを大切にしたかったので言い出せなかった。


 男達は、『出入り禁止になった』と言う言葉に反応して、御互いの顔を覗き合っている。


 この様な場合、第一に考えられるのは、系列のカジノで問題を起こして【出入り禁止】になった者の存在だ。


 第二が警察関係者だ。

 闇カジノは当然違法で、暴力団などの資金源になりやすいので、警察の捜査対象になっている。

 闇カジノ側としては潜入捜査や摘発を用心して、会員制にしたり紹介制にしたりしている。


 この店では機械による【顔認証システム】を利用していた。

 出禁の客は当たり前だが、警察関係者などの顔も登録されている。


 店員は、アラームの具体的な理由を知っているが、あえて客には明言しない。

 具体的に争いの種を、店側から蒔くことはしないのだ。

 理由は、客の誰かに身に覚えがある筈なのだから。


「あ~、たぶん原因は私よ。知人に警察関係者が居るから」


 身に覚えのある真珠が声にした。

 本人に問題がなくとも、警察と関係があるならば疑われる。

 勿論、真珠の知人に警官が居る訳ではなく、警察に睨まれている暴力団の肉親なわけだが、【警察と敵対関係】であるので嘘ではない。


 このアラームが、父や昴が真珠を非合法な所に出入りするのを芳しく思わない為だろうは予想できた。

 または、父達に敵対したくない者の配慮か?


「ごめんね。私は二次会に付き合えそうに無いから帰るわ。気にせず楽しんできてよ」

「そうなの?橋本さんも残念ね、気を付けてね」

「また、別の遊びに誘ってね」


 結果的に、誘いを断れなかった真珠には良い結果となった。

 ただ、付き合いが悪い人間だという印象は残さなかっただろう。


 この後、家に帰るのに若い女性が夜中の独り歩きする事になるが、真珠は気にしていない。

 無謀なのではなく、後から来た客にプレアデスの姿を確認したからだ。


 人混みに隠れているとは言え、何ヵ月もたてば見知った顔は出てくる。

 プレアデスの方も、真珠に顔を知られてマズイ訳ではない。警察関係者に知られなければ良いのだ。


「まだ、終電はあるわよね?無ければタクシー使わなきゃ」


 友達は選ぶべきだが、自発的に作ることがまだできない真珠には、まだ無理な話であった。

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