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42 潜入捜査官(もぐら)

バタン!


「御客さん、どちらまで?」

『そうだな、この地区を一時間ほど流してくれ。見晴らしの良い場所を探してるんだ』

「見晴らしの良い場所?不動産屋か何かかい?」


ブオ~ン


『不動産?まぁ、そんなもんだ。ところで・・・・』


♪♪♪♪♪♪


「お久しぶりです局長。いや、警視正と御呼びすべきでした」

『御前は誰だ?』

「大丈夫です。菊地昭彦(あきひこ)ですよ。今日はハワイの件ですね?」

『ちゃんと切り替わった様だな。そうだ、三笠の奴が(もてあそ)ばれたみたいでな。アレは何だったんだ?』


「私の聞いている範囲だと、本命は妹との家族旅行です」

『例の【真珠】とか言う娘か?』

「そうです。ただ、平行して武器弾薬の取り引きと、関東での勢力拡大をやってたみたいですが」

『策士だな。三笠は、まんまと誘き出されたって訳か?』

「マル暴に、何人も手引きした奴が居る様ですが、名前までは・・・」

『それは仕方がない。無理をしてバレたら水の泡だ』


「でも、そろそろ良いんじゃないですか?駿河親子の弱点も掴めたんだし、二人を始末しても」

『それがな、本庁でも牙釖組を利用して暴力団を減らそうって話が持ち上がっていてな。調整に時間がかかる。二十年掛けてきた【牙釖組殲滅】が成功すれば、警視監どころか総監も夢じゃないのに』

「紅蓮会から金が流れてますね?でも、私も、もうすぐ限界ですよ」

医者(せんせい)から聞いている。無理を掛けてるみたいだな』

「二十年ですからね。医者からも、これ以上強い薬は使えないし、施術が解けるか狂うからしいですよ」

『解けても、しばらくは演じられるだろ?』

「いや、割合から言えば、狂う方がアリみたいですがね。私としては、早く解放されたいですよ」

『解放されて【菊地昭彦】に戻ったら、息子はどうするんだ?』

「剛ですか?女は好きでもないタイプでしたし、麻薬に手を出す馬鹿な女との子供ですよ。アレは【純一郎】の子供であって、私の子供じゃない。もう、完全にヤクザですよ」


『何にせよ殲滅は、もう少し先になる。下手な動きをしないように、橋本真珠の情報は他には流してないが』

「そうですね。下手に情報を流せば、監視する奴が出て牙釖の包囲が固くなる。手出しができなくなりますよ。奴等はプロの探偵まで研究してますからね」


『こちらも急ぐが、御前ももう少し頑張ってくれ』

「保証はできませんよ」



♪♪♪♪♪♪


「で、御客さん。ホテルですか?工場ですか?」

『国道から道があって、川の水が引ける所が理想なんだが』

「あぁ~、この辺りじゃ難しいかもなぁ。山でも削らないと国道からは遠回りになっちゃうからね」

『そうかい?地図を見た限りではイケルと思ったんだが。じゃあ、済まないが駅に戻ってくるないか』

「分かりました」






 食事の最中に寝てしまったらしい。

 朝陽が射し込む部屋で、山本純一郎は目覚めた。

 まだ、意識が混濁している。

 よく見ると、仕事の制服を着て椅子ごと柱にくくりつけられており、周りにはブルーシートが張られていた。


「目覚めたかい、親父」

「剛か?これは何のマネだ?」


 純一郎の前には、息子の剛が床に座り込んでいた。


「まさか、親父が警察の潜入捜査官だったなんてな?御袋も可哀相だぜ」

「何を言ってるんだ」


 純一郎にトボケている様子は無い。完全に記憶に無いのだろう。


「そうかい?じゃあ、菊地昭彦に聞こうか」


♪♪♪♪♪♪


 ボイスレコーダーから音楽が流れると、父親の表情が変わる。

 音楽に続いて流れた会話の録音を聞いて、父親は口角をあげた。


「正体がバレたか?流石は、俺の息子と言うべきか?」

「俺は御前の息子じゃない!山本純一郎の息子だ」

「本物の山本純一郎は、二十年前に死んでるよ。戸籍のロンダリングくらいは知ってるだろ?馬鹿な女の産んだ子だが、俺の血のお陰か?」


 確かに剛は、肉体的には菊地昭彦の息子だ。

 だが、精神は、心はソレを拒否している。


「調べはついついる。薬物と催眠による二重人格を使った潜入調査って事も、バックについてる奴も」

「おやおや、まるで警察の尋問だな!でぇ?【菊地剛】ではなく【山本剛】は、どうするつもりなんだ?俺の側に付くか?俺を殺すか?死体は処理できるのか?」

「・・・・・外道だな」


 【菊地昭彦】は、頭を振って目を凝らした。


「だんだん頭がハッキリとしてきたぞ。薬の手配、調査、後ろに隠したサイレンサー付きの銃。既に牙釖へ連絡済みか。処理班が来るんだな」


 菊地は、潜入捜査官としての洞察力で現状を把握した。


「でも、お前に父親が殺せるのか?尊敬する【山本純一郎】も死ぬんだぞ!この肉体の本体は菊地昭彦(オレ)なんだからな。山本純一郎は、夢の中のアバターに過ぎない」

「違うな。山本純一郎(オヤジ)を殺すんじゃない。菊地昭彦と言う悪夢から解放するんだ。親父、御袋に会いに行けよ!菊地、御袋に謝って来い」


 少しためらったが、剛は泣きながら、菊地の右のコメカミに銃口を向けて引き金を引いた。


「なんで世の中には、こんな外道が多いんだろう?母親に裏切られた御嬢の気持ちが分かるぜ」





 翌日、剛の家には警察が来ていた。

 昨日から帰らない父親の捜索願いをだしていたのだ。


 そして数日後、山本純一郎はタクシーと共に山奥での川への転落死体として発見された。

 川に長く浸っていた為に死亡推定はできなかったが、家を出るタクシーが目撃されていた事と、街頭のカメラに走るタクシーが記録されていた。


「事故ですか?」

「恐らくは、強盗殺人でしょう。運転席の山本さんを撃ち殺した後に金を奪い、黒ベンツで車ごと川に突き落としたらしい事までしか」

「人に恨みをかう様な人じゃないのに・・・ 」


 剛の目の下にはクマができていた。


「お母さんは?これからどうするんだい?」

「母は、十年前に他界しました。東京に、遠い親戚が居るんで世話になります。学校は中退するしかないですね」

「くじけず、強く生きるんだよ」


 遺体は二日後に警察から直行で火葬する手筈がついている。

 他に家族もなく、遺体の損傷が激しい為の処置だ。


 家族を亡きした子供に、警官はコレ以上何もできなかった。


 剛は、警察が帰った後に借家の掃除を始めた。

 風呂は川の水を入れていた関係で詰まりぎみだ。

 家宅捜索されて困る物は、既に黒ベンツで運び出してある。

 保険金がおりるので、表向きの諸経費は賄えるだろう。


「真珠御嬢さんには、こんな思いをさせたくないな」


 山本剛は、カップ麺を食べながら今後の事について思慮を巡らせはじめた。


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