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39 追う者達

 何処にでも、自分の信念を貫こうとする者は居る。

 よく言って真面目で正義を信じる人。

 悪く言って空気を読まない我が儘な奴。


 妄信的(ゆえ)に周囲の事に無頓着になりやすく、後に自分の首を絞める。

 さて、彼はどっちだろう?





 時は、真珠達がハワイに向けて国内の空港に到着した時に遡る。


「確かに、牙釖の組長と息子夫婦だな」

「もう一人の青年は・・見ない顔ですね」


 空港ロビーで昴達を見張って話しているのは、警視庁組織犯罪対策部の三笠警部と田辺巡査だ。

 三笠警部は、牙釖組担当の主任的存在だ。

 ロビーには、他に5名の捜査官が潜んでいる。


「しかし、よく突き止められたな?」

「はい。牙釖の本家を見張ってたら、あまり外出をしない駿河弥彦が外で写真を撮ってたのを見付けまして。あと、組員がトランクを幾つか新調してました。」


 配属変更で最近になってマル暴に来た若僧だが、意外と活躍していると三笠警部は感じていた。


「外で写真を?」

「そうなんですよ。町中にある身分証とかの写真を撮るボックスタイプの奴です。それから推測できたのは渡航。あとは所轄に出入りを警戒させてました」


 三笠警部が空想したのか、その口元に笑みが浮かんだ。


「自販機を使うとは、随分と庶民的な事だな」

「周りを組員に守られながら自販機使うのを庶民的とは思いませんがね」


 対して田辺巡査の眉間にはシワが寄っている。


「あの若者の写真も押さえておけよ」

「さっきから狙ってるんですが、なかなかコッチを向きませんね」


 昴達がキョロキョロし始めたので、田辺は急いでシャッターを切った。


「撮れたか?」

「ダメですね。ブレて使い物になりませんでした」


 どうやら、希少なチャンスを逃がした様だ。


「仕方がない、次の機会を・・・っと、動くぞ!」

「私が追います。警部は顔が割れてるかも知れませんから私が」

「頼む。行き先は海外だ。我々も旅券を取れれば良いんだが・・・」


 三笠警部は、マル暴の仕事で何度か弥彦と会っている。

 近付くのは危険なので、面識が無い田辺巡査に尾行を頼んで離れる事にした。

 写真とトランクを新調した事から、海外渡航は予想できる。

 今回の捜査は、牙釖組組長が海外で何を企んでいるかの捜査だけだ。


 暫くして、弥彦を追った田辺巡査が帰ってきた。


「奴等はダニエル・K・イノウエ国際空港に行く様です。組員も何人か同行するのを確認しました」

「ダニエル・K・イノウエ国際空港?ああ、ホノルルか!てぇ事はハワイだな?あのメンツでバカンスでもあるまい。一体何を企んでいる?」

「幸い、同じ飛行機のチケットが取れました。二枚だけですが」


「仕方ない。俺と田辺で行くか?」

「了解です」


 追う事は想定していたが、チケットが取れるかどうかは不確実だった。

 三笠は勿論だが、もう一人の人選は情報を入手して来て顔も割れてない田辺が無難だろう。

 彼は帰国子女で英会話ができるらしいし、経験不足は三笠が補えば良い。


「生憎と席はバラバラだな。だが、逆に俺とお前の関係を勘繰られないで済むか?飛行機の中で並んでたら目立つだろうからな」

「では、向こうで無線機を使って合流って事で」


 三笠警部と田辺巡査は、なんとか弥彦達と同じ飛行機に乗る事ができた様だ。





 ホノルル空港に着いた三笠警部達は慎重に弥彦達を追った。

 だが、空港で地元の人間に絡まれ殴り合いにまでいく騒ぎになってしまった。

 当然、三笠達の方は手を出していないが空港警備を呼ぶはめとなり、目撃者と名告る者が異なる主張をした為に、ビデオカメラの映像を確かめる事となった。

 それでも、ぶつかった、ぶつからなかったと言う言い合いになり、三笠達が警官であるか事を証明して、やっと信じてもらえた。


「いったい何だったんだ?」

「観光客を狙った恐喝だったらしいですね」


 この騒ぎから三笠警部達が解放されるまで、30分ちかくかかったのだ。


「畜生、お陰で見失ったか!どっちに行った?」

「空港の駐車場へ向かったと思いますが・・・空港のセキュリティに監視カメラのビデオを見せてもらういますか?」

「車種とナンバー、方向が分かれば追えるからな」


 弥彦達を見失った為に、追跡を続ける為には空港警備の力を借りるしかない。


 身分証明を終えて、ようやくセキュリティから解放された彼等は、再びセキュリティルームへと駆け込んだのだった。


 しかし、世の中には色々と決まりがあるものだ。


「畜生!令状が無けりゃ捜査協力できないだと?」

「仕方ないですよ先輩。指名手配されてる訳でもないし、パスポート偽造の証拠がある訳でも無いんですから」


 今回は、直前まで行き先が分からなかった為に、地元警察などへの捜査協力は申請できていない。


「最近の牙釖組は、武装を軍隊並みにしてきている。それを考えれば目的は武器の取り引きだろう」

「資料によると自動小銃も使っているとか!すると、米軍基地のある真珠湾周辺ですかね?武器の横流しがあるんですか?」

「分からん。兎に角は地元警察に話をつけておかなきゃならんだろう」


 直接の追跡を諦めた三笠警部は、牙釖組の行動を予測して情報収集をする事に決めた。


「まず俺は、日本の本庁に連絡を入れておく」

「報連相ですね!あっ、じゃあ俺も寮にメール入れて良いですか?この調子じゃ何日か掛かりそうですし」

「勝手にしろ」


 三笠警部は本庁へ状況報告の電話を掛け、田辺巡査は私物のスマホでメールを入れ始めた。

 一応は、捜査員全員のパスポートを用意させていたが、田辺の様な新人がハワイまで追跡に加わるとは思わなかったのだろう。


「地元警察って、ホノルル警察署ですかね?カリヒ警察署ってのも有るみたいですが」

「ホノルルで良いんじゃないか?」


 電話も終わり、三笠警部と田辺巡査は、夏の強い陽射しに目を細めながらタクシー乗り場へと向かった。






 不幸が続いた三笠達がタクシーに乗るのを見送る男達が居た。


「若頭、尾行(つけ)てきた警官は、地元警察に向かった様です。取り引きの事も感付いてるみたいですぜ」

『分かった。人手の一部を取り引き場所の監視に回せ。千島にはコッチから連絡を入れる』


 電話を掛けている相手は、駿河昴らしい。

 【追う者】を更に追っている者が居たのだ。


「承知しやした。あと、地元マフィアに偽情報を流す様に頼んでおきやす」

「流石、先行組は根回しができてるな。素晴らしいぞ」

「ありがとうございやす」


 リーダー格の男が指示するまま、空港に残っていたプレアデスは二手に別れて行動を開始した。


「三笠の奴が居なければ、本家に残った代貸も動きやすいだろう」

「千島の兄貴の事ですね?マル暴には、アイツも居ますからねえ」


 牙釖組と紅蓮会には、行動の頭を張れる人間が複数存在する。

 元より、数ヵ月前から組まれていた計画なのだから、弥彦や昴が居なくとも遂行可能な様にしてある。


 更にはマル暴にも、紅蓮会の手駒が存在する様だ。


「真珠御嬢さんとの団らん。武器弾薬の入手、三笠を誘きだしての関東圏掌握。若頭は、どこまで策略をめぐらせるんだろうな」

「俺も舎弟で良かったと思いますよ。敵に回したら恐い恐い」


 昴が組を仕切りだしてから、牙釖組は大きく変わった。

 正統な跡継ぎである昴の存在にも、その行動にも不満を漏らす組員は居なかった。


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