38 帰国
約二週間のハワイ旅行も、もうすぐ終わりを迎える。
特に事件や事故も無く(?)天候にも恵まれたが、三分の一程はホテルやプールでダラダラ過ごした感じだ。
「で、この荷物をどうするんです?紗香御義姉様。確か飛行機には手荷物制限が有るって聞いてますが」
紗香と真珠の相部屋には、土産や買い物をした商品が、山の様になっていた。
その大半は紗香の物だが。
「勿論、私や真珠ちゃんの手荷物としては無理だけど、同行している組員に分ければ、何とかなるでしょ」
「組の人達も大変ですね」
真珠も直接に顔合わせをしていないが、真珠達を守る為に何人もの者が周りに居る事は分かっていた。
紗香は、その者達に荷物を持たせ、別の飛行機に分けて持ち帰らせるつもりらしい。
「御兄様の船便に便乗させてもらう事はできないのですか?」
「あれは、先週に出ちゃったのよ。あれを考えてスケジュールを組んでなかったからね」
先に観光を済ませ、後半に買い物を集中させるスケジュールを立てた為に、荷物は出航に間に合わなかった。
「まさか、こなに買っちゃうとは自分でも思わなかったわ。まぁ、荷物持ちも部下の仕事だし」
紗香達と違い、組員は帰国するまでが仕事と言える。
いや、今回ハワイ入りしているのはプレアデスばかりなので、一部は帰国後も真珠の警護があるのだが。
「先行して帰るのも居るから、早めに渡しておかないといけないわね」
幾つかは包装紙を開け、性別に関係の無い物を優先して、新規に購入したトランクに詰め込んでいく。
女物は、プレゼントとしての体裁が守れる様にしている。
持ち物確認をされた時に疑念を抱かせない為だ。
「女性の組員には、ドレスや下着類を頼もうかしら」
その為に、トランクにも区別の為にアルファベットシールを貼り、内容物を書き出していく。
そして、組員へと連絡をとりはじめた。
暫くして紗香と真珠の部屋を訪れた昴は、荷物の山を見て溜め息をつく。
恐らくは、紗香が連絡をとった組員から連絡があったのだろう。
「組員を使うのを悪いとは言わない。だが、この荷物は買い過ぎじゃないか?」
「仕方ないじゃない。欲しかったんだから」
「だがなぁ・・・・」
どんなに勇ましい男でも、愛妻と母親には勝てない。
「それよりも昴さん、真珠ちゃんの自宅は大丈夫でしょうね?帰ったら荒らされてたりとか、盗聴機が仕込まれてたとかだと彼女が困るのよ」
「大丈夫だ。その為にプレアデスを数人残しておいたんだからな」
「それなら良いんだけど」
旅行などで不在が続くと、空き巣狙いなど犯罪の被害を受ける事が少なくない。
彼女の住む地域は、住民の多くが牙釖組や紅蓮会の影響下にあるが、全てではないし他地域からの介入が無いとは言えない。
その為に、真珠の家が監視できる範囲に拠点を設け、更には巡回も行わせている。
今回の旅行で人手は減っているが、真珠宅の警備は外していない。
駿河家にはプレアデス以外の組員も居るが、情報漏洩を防ぐ為に、それを真珠の周りで使う事はできないのだ。
・・・・・・・・
「山本さん、紗香姐さんの手荷物を何個頼まれました?」
「私は、真珠御嬢さんの護衛も有りますから、特に何も渡されてませんよ。自分の荷物も最低限にして手ブラにしなくてはなりませんから。服も日用品も、現地調達、現地処分でしたし」
「いいなぁ~俺なんかトランク3個ですよ。女に土産も持ち帰れないです」
「これも仕事ですからねぇ」
太平洋上を日本へ向かうコンテナ船では、紅蓮会の者が荷物の仕分けをしていた。
入国監査がある為に、違法な品物をコンテナのまま日本国内には持ち込めないからだ。
「優先するのは試験の終わった拳銃と、輸入した銃弾だったよな?」
「荷降しリストの右上に、順番が載ってるだろ?」
「えっと~あった。間違ってなかったな」
既に個別ラッピングされた品物を、木箱に積めて保護材を流し込む。
その際に、再度の検品を行ないながら。
最終荷降ろしはクレーン等が使えない上に、品物が金属製品なので、人が持てる程度の重さになる様に小さく設計された木箱でパレットに並べ、ラップとベルトで固定していく。
移す船の規格があるので、一度には大量には積めないのが泣き所だ。
その為に、この様なパレットを幾つも作っていかなければならない。
「んぁ~っ!人は居るのに人手は使えないぃ~」
「仕方ねぇだろう?信用できる奴等なら、こんな船に積められちゃいねえからな」
この最終的な作業は、コンテナに押し込めてある【作業員】には任せられないのだ。
【作業員】は、コンテナ船が日本を出航する時に、武器の部品や食料と共に船積みした者で、彼等に半年掛けて武器を組立てさせていく。
そして洋上で、日本へ帰るコンテナ船へと部品や商品と共に移し替えられ、再び日本の港に帰ってくるのだ。
但し、【作業員】が船を降りる事は無い。
彼等は、様々な理由で社会に出られない者達なのだから。
【作業員】達の首もとにはマイクロチップが埋め込まれており、偽装コンテナ部分から居なくなればスグに分かる仕組みだ。
海に逃げれば自動小銃の的にされ、陸地に近い場合には一区画に押し込められている。
「しかし、やっと帰国できるぜ。早く寿司が喰いてぇなぁ」
「2年ぶりかぁ」
紅蓮会では、この様なコンテナ船を5隻持っているが、基本的には一般のコンテナ船と同じように、輸出入業を行っている。
密輸が目的ではあるが、実質的にソレだけをやっているわけではないので、スケジュールはカムフラージュである輸出入業に合わせなくてはならない。
その為に、日本に帰るのは2~3年に一度となっている。
「そう言えば、今までは米軍系の武器ばかりだったが、ロシア製も入るみたいだな?」
「その噂は聞いたぜ。マカロフ以外にもPP-19が入りそうだって言ってた」
「やっぱり、無理して例のミサイルパックとかを買った効果かなぁ」
現在、コンテナ船で組み立てているのは、米軍のサブマシンガン【APC9】のコピーだ。
【マカロフ】と言うのは、現在のロシア軍が使っている拳銃で、日本の暴力団では広く使われている。
ニュース等では【トカレフ】が有名だが、現在では中国製の物が出回っている。
【PP-19】は、ロシアのイズマッシュ社が製造・販売する軍用サブマシンガンで、幾つかのバリエーションが存在する。
ただ、近年はカラシニコフ社のPPK-20への移行が囁かれており、廃棄処理される可能性が高い武器だ。
当然だが、廃棄するよりも整備して横流しする方が金になり、マフィアには東西対立も国際協定も関係はない。
「でも、武器なら中国製の方が安いんじゃないか?」
「前に、中国の武器を入手した事が有るが、品質が良くないらしい。暴発やジャムが頻発したらたまらないからな」
日本に侵出しようとする中国マフィアは、今も存在する。
それ故に、中国製を購入すると結果的に中国マフィアを太らせる事になるので、輸入したくない面も有るのだ。
「ロシアかぁ~、冬場は勘弁して欲しいよな」
「いやいや、北海道で荷受けできるらしいぜ。それよりも、ロシア語を覚えにゃならんのが問題だよ」
「この歳で英会話スクールに通うのも辛かったのによぉ~」
コンテナの山に偽装された作業場内で紅蓮会の組員は、愚痴りながらも作業を続けざるをえなかった。




