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37 協力者達

 警察の中で、暴力団に対する課と、麻薬に対する課は厳密には異なる。

 共同捜査を行う事が多いが、麻薬対策は持ち込まれない様に取り締まる事が多い。


 当然だが、麻薬対策室は暴力団に関する情報も持っているし、御互いが捜査妨害にならない様に、【マル暴】と【麻対】の行動も警察内部で共有されている。


「主任、こんな事をしてタダじゃ済みませんよ」

「警察で、この件に関わっているのは俺だけじゃない。俺の首を切っても後釜は居るし、通報者は警察の内外から狙われるぞ」


 上司が暴力団やマル暴の情報を紅蓮会へ流している事を知ってしまった部下は、ロッカールームで本人の自首を勧めたが、帰ってきた返事は想像の斜め上だった。


「曲がりなりにも警官でしょ?暴力団と組むなんて」

「別に組んでいる訳でも、金を貰ってる訳でもない。いいか?俺達はマル暴じゃない。麻薬を無くす為には手段を選んじゃ居られないのさ」

「麻薬を無くす為に暴力団へ暴力団やマル暴の情報を流すなんて、訳分かんないですよ」


 主任は溜め息をついて、部下を壁際に押さえ付けた。


「知っての通り警察は、物証が無けりゃ逮捕は出来ない。逮捕しても刑期を終えれば同じ事を繰り返す。湾岸警備や出入国管理と協力しても麻薬は入ってくる。そして、麻薬は国を蝕んで行くんだよ」


 主任の言い方には、バックにかなりの大物が付いている事を匂わしていた。

 アヘン戦争など、麻薬が国をも狂わした事は、歴史でも教わる史実である。


商売人気質(しょうばいにんきしつ)のせいか、紅蓮会は麻薬を極端に嫌っている。患者の更正プログラムにも手を貸してるくらいだ。そんな紅蓮会に、麻薬を売っている奴等の情報を流してみろ?どうなる?」

「まさか、暴力団を使って暴力団を?」

「毒をもって毒を制すと言うが、俺は紅蓮会を利用してるだけなんだよ。それをマル暴に邪魔されない様に配慮しているのさ。奴等も勢力を伸ばせるから利害の一致だがな」


 勢力を伸ばした紅蓮会をどうするかは、彼等の仕事ではない。


「それに、お前も聞いてると思うが、紅蓮会は牙釖組と組んでいる。動くのはこっちだろう」

「牙釖って、最近は軍隊並みになったって言う?」


 暴力団が潰されている事件の幾つかは、銃や日本刀では済まされず、マシンガンや火薬、ロケットランチャーまで使われた形跡があった。


「俺の情報が無く、不幸にも奴等と警官隊が接触したら、何人の殉職者が出るだろうなぁ」

「・・・・・・」


 警察も防弾チョッキや盾を用意するが、とても太刀打ちできないだろう。


「知ったからには、お前にも手伝ってもらうぞ。麻薬で人生を壊された奴や、その家族を見てきただろう?麻薬の被害者を減らしたくはないか?」


 仕事柄、麻薬に狂わされた人生は多く見てきただろう。そんな主任の行動には信念がある様だ。

 例えソレで罪に問われても言い訳すらせず、後悔もしそうにない。


「それから潔癖症は早死にするぞ。過労死にも気を付けろよ」


 警察官にも出世の為に同僚を犠牲にする者や、仕事量を減らす為に事件を握り潰す者、適当な罪状に落として真実を追求しない者も居る。

 マトモに仕事をしていても恨まれたり命を落とすのが警察官と言う仕事だ。


「警官をクビになったら、俺もヤクザに成るさ。恨みを買ったり命を狙われるのは同じでも、報告書は要らないらしいからな」


 報告書と始末書などの書類作成に追われる毎日。

 正義感と使命感をもって警官になっても、マジメにやるのが馬鹿らしくなってくる一面がある。

 テレビでは、巡回業務の合間にヒーローや警官が、書類に苦戦する様を描く事は少ないのだから。

 事件の当事者にならない為に、仕事帰りに一杯する事も(はばか)られるのだ。


 子供達に教えたら一発で幻滅されそうな現状で主任を告発すれば、方法は兎も角としても市民を守っている警官が一人減って、暴力団員が一人増えるのは誰の目にも明らかだ。


「俺もやらなきゃ駄目なんですか?」

「方法は悪いが、これも麻薬から市民を守る仕事だぜ」


 主任警部補に引っ張られて、うなだれながらも部下は刑事部屋へと進まざるをえなかった。






 近年の漁業は、温暖化の為か漁場に変動が生じている。

 魚の棲息域が変化しているのか、数が減っているのか分からないが、漁獲量が激減しているのだ。


 加えて魚の輸入も増えており、値崩れも生じている。


「俺に漁師以外の何ができるってんだい!潮目が変わるまで我慢するしかねぇだろう?」


 次々に漁師を辞めていく者が居る中で、残るしか無い不器用な者も居るのだ。


 気候も世界情勢も、日々変化をしている。

 再び漁業で生活できる様になるまでと、借金を重ねた男が今日も海に出る。


 最近は、釣り客らしい男を数人乗せている風景が、多く見られている。

 テレビなどでも、タレントが漁を体験する企画が放映される事があるが、一見すると、その様な客商売を始めたのかも知れない様子だった。


「あと3日で、今回は終わりだ」

「次は何時(いつ)なんだ?」

「予定では三ヶ月後だ。また連絡は入れる」


 網を引く事もなく、沖合いでコンテナ船と合流した漁船には、この仕事の為に補強した甲板にクレーンで荷物が下ろされてくる。

 漁船の喫水線(きっすいせん)の具合から水より重いものである事は、漁師にも経験から推測できた。


 荷物は目立つし、漁船に積める重さにも限界があので、一度に大量には乗せられない。

 そのせいで、荷下ろしには何日も掛かるのだ。

 今回分の荷積みが終わればシートをかけて、真っ直ぐに港へ帰る。


「今日も収穫なし(ボウズ)だよ」


 漁協に、この報告をするのも何回目になるのだろうか?

 客を乗せていたので、漁協にも怪しまれてはいない。

 釣れようと釣れまいと、必要経費は貰えるのが、この様な客商売なのだから。


 港に帰ってきた船には、【漁】が終わっても客の見張りが付いている。

 そして、深夜に多くの男達が船にやって来て、積み荷をバラシて手作業でトラックに積み替えていく。


「終わったら教えてくれ」

「分かった」


 荷下ろし作業の時は、漁師も同席する。

 職務質問されたりした時の為だ。

 作業の最中は、船がギリギリ見える所まで歩いて離れた。

 荷物の詳細を知らない方が良いのは、彼にも分かっている。


 不本意だが、生活の為に金が要るのだ。

 家族には、【釣り】客からの収入だと言っているが、クレーンでの【吊り】には違いない。


「何もかも、時代が悪いんだ」


 親父達の時代には、漁業で蔵を立てた者も居たそうだ。

 料亭に出せる様な高級魚は、確実に漁獲量が減っている。


 一回に一週間程の仕事だが、この仕事を引き受けなければ、魚や荷物ではなく首を吊っていただろう。


「振込みは確認したか?」

「確かに入っていた。これで借金も少し返せるよ」

「なぁに、世の中は持ちつ持たれつじゃないか」


 早く、漁で生活できる時代に戻って欲しいと願う漁師だが、冬はまだまだ続きそうだ。






 江戸川(えどがわ)(あゆむ)は、早朝から新聞の事件欄を読んでいた。

 昼には社員がコンピューターへテキスト入力を終えるので、事件を探すならソレを使った方が早いのだが、いつも待てないでいる。


 彼が探している内容は新聞に載らない可能性が高いが、調べずにはいられないのだ。

 一年前には胃が痛くなる思いで毎日を過ごしてきたが、最近は何とか眠れるようにもなってきた。


 江戸川が新聞を読んでいるのは、彼が所長を務める【江戸川歩相談所】という会社だ。

 内容的には興信所や探偵社というもので、祖父が経営していた探偵社の支部扱いになっている。

 所長の名前が、有名推理小説家に似ている為に客の興味をひきやすいのか、五十音検索で上位にくる為か、業績は上々だ。


 本来、彼は風景カメラマンをやっていたが、それでは食べていけず、泣く泣く母方の祖父が経営する探偵社に入社した。

 探偵の娘で、推理小説好きの母のゴリ押しで付けられたコノ名前には、正直言ってコンプレックスがある。

 探偵になってから実績を積んだ今でも、本当はコノ仕事を辞めたいのだ。


 そんな経緯で所長を務めているコノ相談所には、【江戸川PI研修所】という探偵学校も併設されている。

 去年から採用した教育システムにより、生徒からも指導員からも評判が良い。


「どうやら、今日も無い様だな」


 調べ終わって新聞を置くと、二杯目の珈琲を口にした。

 彼が胃を痛くしていたのは、この教育システムの導入過程にあった。


 この教育システムは、富豪の若妻から依頼された浮気調査の御礼として、タダ同然で作ってもらった教材に始まる。

 紹介された広告代理店は、多くの社内教育教材作成の実績がある事が分かったので、遠慮無く話を受けたのだ。


 この研修生用教材作りには本社も賛同し、協力をしていた。

 内容は、プロと研修生の尾行比較など具体的な映像を使って説明されており、この教材を覚えて経験を積めば最低限の業務ができるのではないかと思うほどの出来ばえだった。


 教材を使ってからの結果と評判が良かった為に、有料で上級編を作る事が本社で決まり、もうすぐ完成という時に、問題が生じた。


 この広告代理店にヤクザが出入りしたのを見付けたのだ。


 社員への聞き込みでは、飲み屋で借りた金を返しに来たらしいが、社長室の中での事なので真実は分からない。

 出入りしたヤクザは牙釖組という暴力団で、警察で調べた結果では紅蓮会と言う恐喝専門のヤクザとも繋がっているらしかった。


「探偵の技術がヤクザに利用されたら、犯罪の手助けに成りかねない」


 事実、興信所の調査結果が、顧客によって犯罪に利用された事が無いわけではないのだ。


 この件で明確な証拠も証人も無いが、業界内で調べた結果は安価で高レベルの教材作成が、年内に数件発生していた。


「もし、事件が起きても俺達は協力した訳じゃない。むしろ被害者だ」


 そう自分に言い聞かせても、江戸川歩の心は晴れなかった。


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