35 お土産
「御兄様と浩太郎さんは遅いですね?」
買い物から帰ってからしばらくして夕食時になったのだが、レストランに二人の姿がなかなか現れなかった。
「実は、昴と浩太郎くんは組員や知人への土産を買いに行ってるんだよ。量が量だけに飛行機では持ち帰れないんでね。コンテナで船便を利用しなくちゃいけないから、早目に手配しないと大変なんだ」
心配する真珠に、弥彦が二人出掛けた事を告げた。
任侠道は礼儀と付き合いが重要だと聞いていた真珠は、そんなものなんだと受け入れた。
量が多いのであれば業者と交渉する事は考えられる。
日中は真珠に付き合う分、夜にしか時間がとれなかったのだろうと判断したのだ。
「遅くなるとは聞いてましたけど、間に合いそうに無いわね?先に始めましょうよ、真珠ちゃん」
紗香に言われて、三人だけでホテルの夕食は始まった。
船便輸送は、航空機旅行でのアルアルだ。
商用などでの渡航で商品を仕入れた時に、帰りの飛行機に積みきれない事がある。
乗用とは別に飛行機の貨物便も有るが、経費が嵩む為に島国日本に対しては船便を使う事が少なくはない。
「じゃあ、組の皆さんには、数日お預けなんですね」
「そうね。飛行機では少ししか持ち帰れないから」
船便は、ハワイや中国からでも、場合によっては半年以上掛かる事があるので、食べ物の多くは無理だ。
真珠は、その様なインフラを知らないので、数日で到着すると考えているが、大型客船でも一週間くらい掛かるものなのだ。
ましてや貨物は、予約から集荷だけでも数ヶ月を要する事があるらしい。
「家族での食事は楽しいが、今回は娘二人を父親に独占させてくれたんだと、思う事にするよ」
「御義父様ったら、両手に華じゃないですか?真珠ちゃん、お酌をしてあげて」
「御父様、どうぞ」
真珠は、弥彦のグラスにワインを注いだ。
「ずっと、息子一人だけだったからな。娘が二人も増えて、この世の春が来たって感じだ」
「もう酔ったのかしら?御義父様」
「私も、お母さんだけだと思っていたから、御父様と御兄様が居たのが嬉しくて」
子供は残酷で、片親などの不具がある者を虐めの対象にする事が多い。
真珠も幼少期には、その様な環境にあった一人だ。
だから、それが例えヤクザと呼ばれる人達でも、存在してくれるだけで嬉しかった。
更には、真珠に迷惑がかからない様に気を使いながらも、家族として接する様に努力してくれている。
彼女は、それが嬉しくてたまらなかったのだ。
真珠達が食事をしている頃、昴達はパールハーバーに来ていた。
ハワイのオアフ島有数の観光地であるワイキキから、州都ホノルルを抜けて更に北西へと10kmほど向かうと、太平洋戦争で有名なパールハーバーがある。
この湾内にはアメリカ海軍太平洋艦隊司令部などアメリカ軍の大規模な軍事拠点があり、軍港と海軍基地が存在する。
当然だが、武器弾薬の備蓄と補充が行われており、それを横流しする者も居ないわけではない。
そして、弾薬を含む消耗品には、使用期限が存在する。
銃弾は約10年だが、他の火薬製品同様に、安全性の為にソレ以前に処分されるのが通例だ。
処分方法は練習や演習だが、ソレ以外の方法も、実際には有るのだ。
“では、これで取引は完了だな?使用期限の件は注意してくれ”
“ああ、了解だ。日時は未定だが、次回も取り引きできるとうれしい”
“今回の様に準備期間をもらえれば、まとまった量を用意できるぞ”
“次回の量は、今回の品質次第だ”
軍港の近くにある倉庫には、数台のトラックが横付けされており、倉庫の中では昴と浩太郎が地元マフィアと取り引きをしていた。
双方多くの男達に囲まれた中で、大量のアメリカドルが入ったアタッシュケースと、バレットに乗った弾薬が交換されている。
“持ち出しは大丈夫なのか?アジアの沖合いまでなら手配できるぞ”
“湾に船を用意してあるから大丈夫だ”
現地マフィアには、日本と中国の区別がハッキリとついていない様だ。
ホノルル湾に紅蓮会のコンテナ船を停泊させてあるが、あえて国籍も港の名前は出さない。
売った商品を積み替えの時に奪うなど、定番の手口だからだ。
“なかなか手回しが良い様だな。武器が可能なら、薬も運べるんじゃないか?”
“ドラッグか?アジア圏に持ち込むなら、俺達は敵になるぞ”
アメリカ人に、変な言い回しは逆効果だ。
昴と浩太郎の表情が変わり、部下達が一斉にサブマシンガンを構えた。
“いや、手配も可能だってだけだ。扱ってはいないさ。では、良い旅を”
地元のマフィアは笑って弁明したが、その笑顔は引きつっていた。
睨みをきかせながら昴達は、荷物をトラックに積み込み、前後を乗用車で挟む様にして港を後にした。
「流れ星より全チェッカーへ。星は放たれた」
『了解。チェッカーSより全チェッカーへ。流れ星を確認』
「流れ星コピー」
『チェッカーUコピー』
『チェッカーBコピー』
『チェッカーAコピー』
『チェッカーRコピー』
『チェッカーUより流れ星へ。フェイズワンはクリア。監視を続ける』
「流れ星コピー」
『チェッカーSより全チェッカーへ。雲が動いたナンバーを転送する』
「流れ星コピー」
『チェッカーUコピー』
昴と荷物が乗ったトラックの出発と共に、暗号めいた無線がた飛び交いだした。
これは、追尾する車の有無を確認する為の五台の監視車両の通信だ。
昴達の車が【流れ星】で監視車両が【S】【U】【B】【A】【R】となっている。
この監視車両は、コンテナ船へは向かわず、遠回りしてワイキキのホテルへと向かう算段になっている。
「ここのマフィアが、後をつけてくる様なら、取り引き先を変えなきゃならないな」
「昴義兄さん、奴等も馬鹿じゃないだろうから大丈夫でしょ。こっちの力量も分かったでしょうから」
車の中では、昴と浩太郎が一仕事終えた後のコーヒーを飲んで話し合っていた。
マフィアの目の前で銃弾の確認として、紅蓮製サブマシンガンを使った試し射ちを行って見せたのだ。
付添いの部下には全員、同じ物を持たせておいた。
消耗品として需要がある事を示せば、下手に手をだして今回限りの取り引きにするか、今後も何度もの取り引きをするか、商売人なら決まっているだろう。
「しかし気に入らないな!薬を扱ってたり、万が一、マフィアと警察や軍と繋がっていやがったら、出入りになるな」
「真珠湾攻撃の再現ですか?昴義兄さん」
「今回、コンテナ船のクラブKは、奴等の事務所と米軍基地に照準させてあるんだろ?」
【クラブK】とは、2012年ロシアが発表したクラブ/3M-54ミサイルの発射ユニットの一つだ。
このユニットは、 汎用の輸送コンテナに偽装されており、トレーラーや列車での運送が可能になっている。
昴達が使っているコンテナ船には、モッテコイの武装だ。
弾頭は500kgの通常弾頭だが、コンテナ一つに4発搭載されている。
「まだ使った事が無いからなぁ。マフィア事務所に一発撃ち込まないか?」
「若頭、こっちから商談潰してどうするつもりですか?」
運転していた部下が、口を挟んだ。
「おっと、今回は真珠が来てるんだったな。危ない危ない、真珠を騒動に巻き込んだら親父に殺されるところだ」
「そうですよ。指の二三本じゃ済まされませんよ」
当然だが、止められなかった同行した部下も連帯責任を取らされる。
「そうだな、やめておこう。だがこれで、銃弾や手榴弾など入手困難な消耗品の目処はついた。組に対しても良い土産になる」
その後、ハワイで戦闘があったと言う話は、聞こえて来なかった。
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