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23 親分子分

 自分の性分や行動が悪いのは分かっている。

 不都合の解決法方が、暴力しか持ち合わせていないのは、他ならぬ自分のせいだ。


 だが、それがどうしようもない時は誰しもあるのではないだろうか?

 自分の行いを棚にあげて、口先だけで相手を丸め込もうとする奴はイライラする。


 結果として、家族知人や社会から爪弾きにされたとしても。


 だが、誰の庇護もなく、意地や腕っ節だけで生きていけるほど、世間は優しくはない。

 警察に追い回され、数の暴力に囲まれるだけではなく、更なる強者も居る。


「うちのシマで大きい顔してるらしいじゃねえか?」


 生きていく為に力を誇示すると、地元の者が潰しに来る。

 一時的に勝っても、独りや少人数では最終的に潰されてしまう。

 付いてきた奴も、結局は俺の力を利用していたに過ぎない。

 町を逃げてまで敗者と共に有ろうとする者は皆無だった。


「寒いな・・・」


 傷だらけになり、路地裏で倒れ込んでいた俺に声を掛ける者など無いと思っていた。


「おやおや、カタギじゃ無さそうだか、今どき【渡世人(とせいにん)】か?いや、風貌から察するに【無宿(むしゅく)】か?」


 ホームレス扱いされて一瞬はムカッときたが、自分の置かれている状況を考えて睨んだ目を地面に向けた。

 薄汚れたスーツ姿のまま、血塗れで路地裏に力尽きていた俺は、髭も延び始めていてホームレスと五十歩百歩だ。


「寝る所も無いのか?うちに来るか?」


 流れ着いた町の片隅で掛けられた声は、無性に温かく感じたのを覚えている。


 そんな経緯(いきさつ)でコノ組に拾われた俺は、特に汚れ仕事をさせられる事もなく、傷が癒えるまで食っちゃ寝を繰り返していた。


 【渡世人】とは、言わば流れのヤクザだ。

 地域の組に【客人】として飲食寝泊まりさせてもらう代わりに、違法ギャンブル(カジノ)の手伝いや敵対勢力の暗殺など、組が責任を取りたくない汚れ仕事を引き受けるのだ。

 組としても、縄張りで騒ぎを起こす者がウロウロしているよりは、管理がしやすいのだろう。


 盃を貰って組員になれる場合も有るが、一宿一飯の恩誼(おんぎ)に報いる日雇いアルバイトと言えば分かりやすいだろうか。

 面が割れると汚れ仕事と組との関係がバレるので、自由に出歩けないし長居もできない。


「あのぉ~、何かさせてください」

「おや、御客人。もう体は大丈夫なんですかい?」


 肉親でもないのに、一人だけ食っちゃ寝を続けているのは、正直言って居心地が悪い。

 怪我も治ったのに、じっとしているのも辛い。

 ヒモだって腰を動かすものだ。


「じゃあ、御手数ですが、ミッチーの手伝いをお願いできますか?」

「道彦さんの手伝いですか?何をやるんでしょうか?」

「ちょっと力仕事ですよ。あと、刃物の扱いは上手いですか?」


 道彦さんは、実家が嫌いなので苗字を名乗らない。


 俺が組に世話になったのは初めてだったが、カチコミ要員として流れ者を使う話は噂で聞いていた。

 本刀(ポントウ)の扱いを聞かれたと言う事は、斬り込み隊長でもやらされるのだろう。


「えっと、何処に・・・・」

「近くのスーパーですよ。一人で組員分の食材を持つのが大変なんで、助かりますよ」

「あのぉ~斬り込みは?」

「玉葱は、みじん切りでお願いしますね。包丁は大丈夫なんですよね?」


 組は女手が少なく、外食や出前もとるが、相撲部屋の様に組員の中でも新人や若年層が食事を作る事が多い。


 見てはいたが、分かってはいたが、思ってもいなかった状況に、ただ流されていた。

 料理に掃除洗濯、壊れた物の修理に子供の送り迎え。


「道彦さんは、こう言うのが得意なんですか?」

「年下なんで『さん』付けはやめてくださいよ。えっと、家事の事ですか?好きでもないし、得意でもないですよ」

「でも、かなり手慣れてらっしゃるんで・・・」

「俺は、腕っ節も強くないし、頭も良くない。でも親分や兄貴の傍に居たいし役に立ちたいんで、できる事をやってるだけですよ。いざとなればお世話になった親分の弾除けくらいにはなるでしょうから」


 笑って【他者の為に命を捨てる】と言っているコノ若者に、本当の強さを感じた。


 今まで、自分の為だけに暴れて逃げてきた俺の姿と比べて、強い芯の様なものを感じる。

 腕力でも数の力でもない強さ。

 買い物などで軽くあしらわれても我慢していたのは、【親分に迷惑を掛けたくありませんから】と言う一言に尽きるのだろう。

 騒ぎを起こして親分や兄貴分が出てくる事になれば、【顔を潰す】という事に成りかねない。

 だが、ストレスが溜まらない訳ではない。

 礼儀をわきまえない行為。特に親分や組に関する誹謗中傷には見境なく逆ギレする。


 その気持ちは分かる。


 尊敬する人、憧れる人、所謂(いわゆる)ファンと呼ばれる愛好者などが、その対象を悪く言われたり害されたら、誰だって黙ってはいられないだろう?

 日頃のストレスが爆発するのは俺も経験がある。


 だが、ここには理解者が居る。

 似た過去、似た心情の者が居る。



 内面的な強さも有るが、この組は戦力的な強さも持っていた。

 奥には剣術の道場があり、地下には射撃訓練場がある。


 一度、親分の鍛練を見せてもらったが、長ドスを使った打ち合いだった。

 鞘から抜かず、白木の棒の状態で模擬刀を払いのけ、喉や関節などの急所を突いていく。


「うちは武闘派として名を馳せているが、すぐに本刀を抜くのは馬鹿のやる事だ。抜く前なら詫びや金で解決できるが、抜いたらソウはいかない。一度抜いたら相手を殲滅するまで止めるな。だから抜く時は充分に考えろ」


 勿論、抜いた後も凄い。刺しが主だが鈍器としても使い、血糊で切れなくなる事も考えて死者の刀を奪って戦っていく。


「これが任侠。これが極道ですか?」

「そうだ!耐えるべき所は耐え、守るべき道は守る。この生き方に後悔はない」

「俺は、もっと早くにココに来るべきだったんだと思います」


 今まで見てきた全ての組が良い訳ではない。

 だが、ここには【任侠道】がある。



 数年の【出張】を終えて、俺は組に帰ってきた。


「道彦さん、お久しぶりです。晩飯の仕込みですか?手伝いますよ」

「お帰りなさい、山本さん。御勤めお疲れ様でした。てか、若頭の側近(プレアデス)にまで昇格した山本さんに家事を手伝わせるなんてできませんよ」

「そんな事は言わないで下さいよ。道彦さんは、俺の兄貴分なんですから」

「そりゃあ、いつの話ですか?」

「息子が産まれる前ですから、二十年近く前からになりますかねえ~兄貴は、永遠に俺の兄貴ですよ」


 親分から盃を貰い、道彦さんの手伝いから組の運転手になり、昴坊ちゃんの手伝いを経てから若頭側近になったが、俺の指標は道彦さんだった。


【牙釖組】


 ここが、俺の居場所と家族になった。

 副業は個人タクシーの運転手だ。


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