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22 紅蓮会

 多くのフィクションを妄想たらしめている要因の一つに、特殊物品の入手と金の流れにある。


 フライトスケジュールを無視したヘリの飛行。

 (つて)も無いのに銃やクロロホルムを入手する犯人。


 特に金が有れば現実範囲の事は大抵の片付くが、そこに一番の問題がある。


 人間は飲み食いしないと生きていけない。


 事態を解決する者は余程の資産があるか、株式配当の様に働かなくても収入がある者か、警察や依頼を受けた探偵の様に活躍自体が収入源でなくては、行動しながら生活はできない。


 犯人も、特殊な装備を揃える金があれば自分で犯罪を犯す必要も無い事が多い。


 簡単に金儲けができれば世話はないのが現実だ。

 だからこそリアリティが失われていく。


 だが逆に金が有る者は切望する物を手に入れる時や、弱味を握られた時に多額の金をかけるのが現実だ。

 そして、そこにつけ込む者が実在する。


 その者達の行いは多岐にわたる。


 金を渡した現役大学による替え玉入試に始り、その方法で入学し大学の職員にまでなった者をゆすった裏口入学や試験問題の流出と売買。


 政治家の票集めから裏金づくりまでを手伝い、地域開発業者の選定に口出しできる立場になってからの、建設企業からの礼金入手。


 株主総会における総会屋。


 病院などの風評を【行方不明】と言う形で未然に防ぐ仕事。

 または風評ネタで病院など金を持つ者から脅し取る。


 その様な事を生業(なりわい)とする者が、実は存在する。


 言うなれば、自分の分を越えた欲望(ゆめ)が、この者達を大きくし、最後は関わった者全てが紅蓮の業火に身を焼くのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 都内の高層ビルの会議室で、その集まりは行われていた。


「この様に、牙釖組との連携によって脅しが更に現実的な物になり、裏部門の人件費の削減と純利益は上向き。先行投資も数年内に回収できるものと思われます」

「我々が多人数で幾ら凄んでも、刺青入れている人達には敵いませんからねぇ」


 紅蓮会は、任侠道からではなく政府や商社の裏工作部門から発展した組織だ。

 元々は任侠道とは住む世界が違ったが、独立組織化してから収益分野で任侠道と重なる部分があり、今日(こんにち)では商社と任侠道の二つの顔を持つに至っている。


 その源流の一つには忍者もあると言われている。

 情報収集の為に使用人や職人、商人として組織に入り込む関係上、身体に刺青などは入れられないのだ。


荒事(あらごと)を牙釖組に任せられるのは、役割り分担ができて本当に助かっています。紗香お嬢さんが仲介に立ってくれてますので、トラブルも殆んどありません」

「今後も婚姻関係を重ねて、役割り分担をしていきたいものだな」


 紅蓮会の役員(おやぶん)達は、今回の婚礼をポジティブに評価していた。


「あとは(わか)の婚礼を考えなくてはなりませんな?」

「将来を見越して海外からもらうと言う選択肢も有りますな?」

「紗香お嬢さんの場合は、同じ大学での出会いでしたが、海外からの御相手となると、出会いの場を考えなくてはなりませんかな?」


 幾つかの発言を聞いて、会議に参加していた一人の青年の眉間にシワが寄る。


「俺は、まだ高校生だぞ!気が早過ぎないか?爺や達!」

「おや、そうでしたな。老い先短い身ですから、早く若のお子さんが見たいのですよ」

「それにコレは営業会議だ。議題から外れ過ぎだろう?」

「いえいえ、若。若の婚姻は紅蓮会の将来にとって、とても重要でございますよ」

「それにしても早すぎだろう。候補を考えるにしても二三年先の話だ。大学受験も有るから色恋沙汰は話題に上げるな」


 息子の浩太郎(こうたろう)の言葉に、会頭である二階堂(にかいどう)隆太郎(りゅうたろう)も頷き、咳払いをする事で一同が口元を押さえた。


 まだ未成年である浩太郎には会議における発言権は無く、一同への顔見せと紅蓮会の動向を教える意味での参加だったのだ。

 そこへ浩太郎に関する話を持ち出して、彼に言葉を発するようにした事は、会頭の意思に反する行為である。


「大変失礼致しました。では、本日の報告と議題は以上でございます」


 役員達が起立した状態で、会頭と浩太郎が退室していく。

 それを確認してから役員達も部屋を出ていった。


「で、若は何処の大学を目指しておられるのか?」

「分からん。慶応や早稲田とは言わないが、有名どころに受かってもらわんと御相手の選考にも差し障るんじゃがなぁ」


 老人達の間では、まだまだ話は続いているのだった。

 古くからの組織とは、ある意味での【家族】と似ている。

 特にトップの後継者は、幼い頃から上層部と顔見知りである為に、息子や孫の様な扱いを受ける。

 今の浩太郎は、爺さん婆さんに捕まった孫そのものだったのだ。



「全く、女と年寄りは暇さえあれば恋バナなのか?」


 会頭と共にエレベーターへと向かう浩太郎は、周りに聞こえる様に、あえて声をあげていた。


「そう言うな浩太郎。アレもコレも組織の行く先を考えての事だ。しかし、思春期に浮いた話の一つも無いのは父としても淋しいものだぞ」

「父さんまで言いますか?僕は、いや、俺は昴さんの様な尖った男を目指してるんです。それに見合った女が居ないんじゃ仕方ないじゃないですか!」

「見合った女ねぇ?」


 確かに、紅蓮会後継者の妻にもなれば裏の仕事も見聞きする事になるだろう。

 それに耐えられるのは同じような環境にある者か、ドン底を経験した者ぐらいだ。


 現実的に組織の後継者としては、組織の利益になる様な婚姻が望ましい。

 王族や貴族は政略結婚が世の常であり、組織の勢力と子孫を残すのが第一とされている。

 シンデレラストーリーや逆玉は現実には有り得ない。

 それでは家臣が付いてこなくなる。


 その為の抜け道として、欧州の貴族社会では養子縁組が頻繁に行われていたのでもあるが。


「これは、本当に海外留学も考慮に入れた方が良いかもな」


 父親である隆太郎は、自らのコメカミをつつくのだった。



 エレベーターを降りてビルの上層部にあるファミリースペースにつくと、側近の姿もなくなる。

 会議ではトップが配下や他組織の評価をする事を控えるべきだが、ここでは自由な会話が可能となるのが違っていた。


「まだ、掛け売りの回収が終わっていないので売上計上していないが、牙釖組を通した武器の売上はたいしたものだ。武闘派で知られた組のネームバリューはたいした物だな」


 暴力団に対する販売は可能なかぎり現金にしたいが、それでは売れない場合が多い。

 組に対する掛け売りは回収不能になる場合が有るので、今回の売上には計上はされていないのだ。


「報告では中国や韓国からの輸入品には粗悪品が混じっている事が多く、練習で腕をやられる者が多かったとか。牙釖は銃の試し撃ちをしてから販売している様ですし、弾はアメリカからの輸入品ですから値段が高くとも買われているのでしょう」

「『安かろう悪かろう』は、数でしか勝負しない大陸の人間には理解できないんだろうな」


 確かに数は力だが、それを投入できる環境が日本には無い。

 大規模な人数は警察やマスコミの知るところとなるし、金さえ払えば隠蔽してもらえる大陸とは違う面もある。

 マスコミやSNSを国が管理できない状況の日本では、例え大臣職であっても下手に隠蔽に関わるのは社会的に命取りなのだ。


「ここで仕事の話は辞めていただけませんか?」

「済まない」

「ごめんなさい、お母さん」


 御茶を用意した妻に、組織の会頭も頭が上がらない。

 武闘派を目指す息子も、正論を言う母の睨みには敵わない様だ。


この作品は、5日、10日、15日、20日、25日、30日(または月初)の午前00時に次回発表となります。

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