表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/54

21 カチコミ

 組織間の戦いで、本当の意味での【全滅】は殆んど無い。

 何人かは逃げおおせたり、情報不足で見落としていたり、タイミング悪く別の所に居たりして残る者が出てくる。


「うちの組に潰された奴等の生き残りがカチコミを計画してるらしく、チャカや本刀(ポントウ)、鉄砲玉を集めているらしいですぜ」

「マジかよ?夏場に防弾チョッキは辛いんだがなぁ。てか、今どき、そんな用語を使ってねぇぞ」


 【カチコミ】とは組事務所などへの攻撃行動を意味し、【本刀】とは日本刀の略で、【鉄砲玉】は死ぬのを覚悟した突撃要員の事だ。


 義理と人情、仁義を重視する任侠道だが、世の中は保身と金が物を言う。

 中には背に腹は変えられない者も出てくる。

 カチコミに誘われた者が情報を売る事は少なくない。


「何で死にに来るかねぇ?地方で別の組から盃をもらえば良いじゃねえか」

「例え知り合いの組でも三下(さんした)からやり直すにはプライドが許さないんでしょ。惚れた親分の下なら兎も角、生きる為に入る組に愛着も無いでしょうから」


 せっかく生き残ったのに、なぜ死ぬかも知れない行為に走るのか?

 怨みや仁義を語る者も居るが、行き場を失った極道が少数で生きていけるほど、日本も優しくはないのだ。


 【組】と言う居場所と縄張り(シマ)と言う収入源を失った前科者は卑屈な生活を送るか、あからさまな犯罪行為を行わなくては食べていけない。


 第三の選択として選ばれるのが『あいつ等に一矢報いて死ぬ』という【鉄砲玉】だ。


「最近の工事作業着には空調がついてるみてえだが、防弾チョッキにもつかねえかな?」

「紅蓮会の開発部門に相談してみちゃどうですか?意外と警察(サツ)や警備会社で売れるかも知れませんよ」


 昔の防弾は鉄板やジュラルミン板を使っていた。

 昨今はカーボン樹脂やケプラー繊維を使って軽くなっているが、チョッキなどの用途で防弾繊維を着込むと通気性が全く無い為に夏場は蒸れるのだ。


「一応は、カチコミ情報を闇カジノと闇金融、売春の詰め所にも連絡を入れとけ。繁華街の銃には消音器を忘れさせるなよ」

「取り引き相手は大丈夫なんですか?うちの収入源を襲われたら・・・」

「奴等が襲うとしたら警察沙汰にできない所だろう。だから問題ない」

「わかりやした」


 携帯電話の普及で、非番の者や地方に行っている者にまで連絡が届く時代になっている。

 装備も宅急便で半日もあれば手に入る。


 便利さは襲う方も同様なのだが、情報は仲間集めの段階から流れてしまっている。

 金がない彼等が武器を集めたりするのにも時間が掛かるが、本来は繋がりの無い者同士なので、作戦の同意や周知に一番時間が掛かるのだ。

 計画には陽動など役割分担が必要となるが、意地とプライドで生きてきた者達が、目的が同じくらいで三下役を引き受けようとは思わない。


 結果として、守る組側に十分な時間を与えてしまうのだ。


 当初、牙釖組が他の組を襲撃した時には部外者は勿論、組員の大半にも秘密裏に武器の手配と訓練を行っていた。

 それも長期にわたって行っていた為に、情報を掴めても防衛のタイミングを失ってしまうのだ。


 そして、こんにちでは牙釖・紅蓮の若手組員の大半が訓練を終え、武器も専用の武器船から小舟と宅急便で手配できる。


「もし、決行日や集合場所情報のタレコミが有ったら、こっちから奇襲をかけてやるんだがなぁ」

「いやぁ~流石にソコまで命を張る内通者も居ないでしょう」

「俺の給料を上乗せしても良いから、誰か情報を持ってこねえかなぁ?」

「そんなに防弾着るのが嫌ですか?兄貴!」

汗疹(あせも)と紫外線は刺青の大敵なんだよ」

「極道アルアルですよね、ソレ」


 極道者には薄着になったり日焼けしたり、汗疹で刺青が痛むのを嫌う者が多いのだった。



 そんな会話の一週間後、その襲撃(カチコミ)は起きた。

 流石に本家を襲う様な無謀はしない様だ。


 昼を少し回った頃、数台の車が、とある商業ビルへと向かった。

 組事務所の位置はビルの二階だ。

 車道に止まった車の窓が開き、複数のライフルの銃口が姿を見せると、一斉に火を吹いた。

 距離も近く標的も大きい為に殆んどの銃弾が命中したが、割れた形跡はない。


「クソが!防弾かよ?催涙弾を投げ込めねえや」

「向きが悪いんじゃないか?正面なら」

「警戒が厳しくて、狙撃ポイントが確保できなかったじゃねえか!忘れたのか?」


 当初の計画が頓挫した様だ。

 車の中で言い合った末に、彼等は車を降りて、二階へ続く階段へと向かった。


 事務所の窓ガラスは防弾の上に、二階である為に下からの射撃では弾丸が弾かれやすい。


 事務所の前に着くと、数人で代わる代わるドアを蹴りつけている。

 窓への発砲で気付かれたのか鍵が閉まっているので、蝶板を壊した方が早いのだ。

 ドラマでやっている様な、銃で鍵を壊す様な真似は跳弾(ちょうだん)で本人が怪我をするのがオチだ。


 扉を蹴破ろうとする騒音の中で事務所の中の組員達は、マスクとゴーグル付きのヘルメットを被り、ジュラルミン製の盾を持って待ち構えていた。


「♪とことんバトルよ牙釖組、すぐでもバトルよ牙釖組、大好きなのは地廻りのネタ~ヤッパが走るぜ!牙釖組♪」


 マスクでこもっていたが、誰かが口遊(くちずさ)んでいた。


「何すか?その歌は?」

「曲はハムスターが出る昔の子供向けのアニメっすよね?」

「元歌は知らんが、本家に行った時に紗香さんが見ていたビデオに、若頭が歌っていらしたんだ」


 決死の覚悟で押し入ってきている襲撃者達に対して、中はユルユルだった。


「歌詞は若頭のオリジナルですかねぇ?如何にもウチの組らしい内容ですよ」

「俺達にも、あとで教えて下さいよ」


 笑いすらこぼれている。


 ここまで緊張感が無いのは、前もって装備の手配と打ち合わせができている上に、屋外や階段に仕掛けたカメラで、おおよその人数と装備を確認していたからだ。

 当然だが、この事務所の近くに居る牙釖組や紅蓮会の者にも連絡は行っている。



 そして、ついに扉は破られた。


 白い煙を発する発煙筒の様な物が投げ込まれ、辺り一面に広がり視界を塞いでいく。


「死にさらせぇ~腐れ外道共がぁ~」


 掛け声と共に数人が扉から入り込み、マガジン式の拳銃を撃ちまくった。

 外で使ったライフルは連射が利かない為に置いてきている。


ジリリリリリ・・・・・


 煙を感知した室内センサーが非常ベルを鳴らし、防火扉が閉まって連動したフロア中のスプリンクラーが稼働した。


 いく分古いビルの為にハロンガスなどは無く、水が天井から降り注いでくる。

 各所で漏電が起き、フロアのブレイカーが落ちた。

 室内の照明は消えたが、窓から入る光で室内の様子が分かる。


 けたたましい銃声のあとに静寂が生まれ、非常ベルとスプリンクラーの水音だけが聞こえている。

 スプリンクラーの水で煙は収まり、見えてきたのは事務所内に倒れた侵入者の死体と、それを取り囲むジュラルミンの板だった。


 事務所の組員は、盾を構えたまま破られた扉を通って廊下に出て、残った襲撃者に迫っていく。

 盾の脇には銃口が見えていた。


「チクショウ!待ち伏せしていやがったかぁ~」


 銃で連射するが、盾で防がれて効果がない。

 防火扉が邪魔で素早く逃げる事もできない。

 襲撃者は防火扉の小扉を開く前に盾で押しやられ、至近距離から銃弾が打ち込まれていった。


「室内クリア!ダメージゼロ」

「廊下クリア!ダメージゼロ」

「敵総数9!息絶えるまで警戒しろ」

「「「「ラジャー」」」」

「スプリンクラーと非常ベルを止めてこい!」

「ラジャー」


 銃で撃たれても即死するとは限らない。

 だが、放置すれば出血や内臓の損傷や内出血により命を落とす。


「死んだ奴から使用した銃を握らせろ。自分の指紋や身体に触れた銃は警察が来る前に持ち出せ」

「「「ラジャー」」」


 全ては|事務所側の返り討ち計画シミュレーション通りに進んでいたのだ。

 警察が来た時の為に、事務所内のセキュリティカメラの位置を十分に考えてある。

 セキュリティカメラはスプリンクラーの放水を浴びる所に設置されており、電源ケーブルを漏電しやすい状態にしてある。


 奇襲があった場合、銃撃のタイミングを見てカメラの死角で発煙筒を焚き、盾の影から煙に紛れて侵入者を射殺する。


 充満していく煙で煙探知機とスプリンクラーを稼働させる。

 今回は偶然にも、侵入者も催涙弾を使っていた。

 催涙弾も発煙筒も、誰が持ち込んだ物か調べようがない。


 スプリンクラーの放水で止まったセキュリティカメラには、押し込んできた犯人達と、煙の発生と銃撃シーンまでが録画されて止まっている。

 万が一、カメラが止まらなかった場合は、漏電の為に見せかけて電源ブレイカーを手動で落とす予定だった。


 映像には、一方的に銃撃され盾で身を守る組員の姿が写っている。


 事務所側の人的被害を出さないまま襲撃者を射殺し、『煙による同士討ちや盾に跳ね返った跳弾による自滅』にする為に、射殺に使った銃を死人に握らせる。

 奇襲の情報と共に、武器の入手先も調べてあり、同系の武器を事務所側も用意しておいたのだ。


 あまりに御都合主義な死因となるが、物証からは否定しにくい。

 少なくともセキュリティカメラの映像では【事務所側は被害者】なのだから。


 遠くでパトカーと消防車のサイレンが聞こえている。

 銃声に火災報知器の音で、別の階の者が通報したのだろう。


 以前の牙釖組ならば反撃の為に、事務所組員にも幾人かの逮捕者を出していた。


「え~っ、俺らの銃じゃ無いっすよ。被害者っすよ!証拠でも有るんすか?」


 元より警察には目をつけられている牙釖組なので、疑われるだけなら問題はない。


 こうして、牙釖組への襲撃は終わりを告げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ